そんなに上手くは行かない
「あっははは! そんな棒でアタシの爆弾魔法をどうする気!?」
爆弾をわたしに向かって投げ、アルマは自信たっぷりに笑いながら声を上げる。
(やっぱり魔法なんだ……)
エレメントで言えば火? でも単純な魔法とは違うように見えるし、なんだろこれ……と、今は考えても仕方ない。目の前に迫る、無数の爆弾魔法……一振で全部打ち返せ!
「ユイ!さすがにその数は無理だろ!」
「やってみなくちゃわからない………よ!! 狙えホームラン!!」
無数の爆弾魔法が一点に集まる、ほんの一瞬。その一瞬を見逃さない。……できる、いまのわたしなら……爆弾魔法も止まって見える!!
「そこだ!」
こっちは氷の魔法を纏ったバットだから接触しても爆発はしない。本来なら相反するエレメントが衝突すれば消滅するはずだけど、やっぱり向こうの魔法も何か違うみたいで、しっかりと打ち返すことが出来た。
「すげーな……お前そんなことも出来んのか………」
(わたしもちょっとびっくりしてる……)
そして、打ち返された爆弾達は素晴らしく綺麗な放物線をえがいてアルマの元に着弾し、爆風に包まれた。
「ってかこれ死んだんじゃね? いいのかよお前」
爆風を眺めながらイブが呟く。
「………多分死んでないよ。……………あ、ほら見て」
煙が晴れると、その真ん中に無傷でいかにも元気そうなアルマが立っていた。その表情はまだまだ余裕そうで、口角をあげて口を開く。
「あっはは……やるじゃーん。まさかアタシの爆弾魔法をホントに打ち返しやがるとは。でも残念。アタシは自分の爆弾に被弾するほどのアホじゃない。この魔法はアタシとルナには効かないようになってんだよねー。」
「うわ、ずるじゃん……」
「しょーもねーことするな。……なら直接この手でぶっ殺してやるしかねーな! いくぜ!」
「あっ!」
殺しちゃダメだってば……なんて言う前に、イブはすぐに動きだし、剣に炎を纏わせてアルマに斬りかかった。アルマ、爆弾魔法しかないとしたら近距離戦は出来ないんじゃ………。
「はは……ちょっとさぁ……ルナよりよっぽど脳筋だよてめーは。もっと考えて戦った方がいいよ?」
「素手ってお前…………」
そう。まさかまさかの素手で剣を受け止めている。ってことは………
「アタシは魔法だけじゃない……徒手空拳でも十分戦えるんだよ! ホラホラ!」
「うおっ!? まじかよこいつ……!?」
(蹴りで剣に対抗してる……)
綺麗なくらいに足を上げて、イブの燃える剣を蹴るアルマ。全く暑そうにしてないし、傷もついてない。あとパンツみえた、黒じゃん。白じゃないんだ。
(じゃあルナは白なのかな………あ)
そんなこと考えてる場合じゃない。目の前ではイブとアルマが剣と拳と脚でぶつかり合っている。拳と脚でよく立ち向かえるよ、何者?
(隙だらけ……)
ルナの時と同じだ。アルマは完全にイブに気を取られている。今なら背後を取れる。よく見ると、イブも時々こちらに一瞬だけ目を向けてる……なるほど、じゃあやるしかない……!
(もうどうなってもしらない……!)
バットを持って、こっそり近づく。
「あっははは!! 立派な剣持ってるくせに拳と蹴りに翻弄されるの?」
バレてない。ある程度まで行ったら、あとは一気に近づいて………
「隙だらけ!」
高く飛んで、そこから落下速度をのせての攻撃!
「いいぜ! ぶちかましてやれ!」
バットを両手で持って、軍帽ごとアルマの頭をぶん殴る。チート的なアレで身体能力が強化されてるいまのわたしが、本気で金属バットで頭なんて殴ったら、普通なら間違いなく死ぬ。本気で殴りすぎてこっちの手まで痛い。………これが、頭蓋骨の感触なの……?
「………ふぅ」
地面に着地すると、アルマはうつ伏せで倒れ………たと思ったら、頭を抑えてすぐに立ち上がった。そして少しさがりながら言う。
「いったぁ!!? てめ、なにした!? あー……頭がガンガンする……な!? その手に持ったそれで殴ったの!? 殺意高いな………アタシやルナじゃなきゃ死んでたって。」
「………マジか」
「……………」
(頭ぶん殴られてそれで済むの……?)
金属バットで全力で頭殴られた感想が『痛い』だけって……なんなのこの子。
「あはは………油断した……あー……目眩する……ダメかなこりゃ」
頭を抑えてふらふらするアルマ。そんな隙だらけな状態をイブは見逃す訳もなく、
「ならボクがトドメ刺してやるぜ!……唸れ炎……轟け雷鳴……『紫電』!」
お得意の合成魔法を放つ。放たれたそれは数メートル離れた所にいるアルマに直撃……はしない。手のひらでうけとめている。
「合成魔法……か? 面白いね。アタシには使えない術だ。はは、でもざんねんでしたー。そんな魔法、素手で受け止められるよ。っしょと」
そして、手のひらで受け止めた魔法を、そのまま握りつぶした。
「ただ、さすがに今日はもうむり……頭痛い。」
「あ? 逃げんのか?」
「そうそう、逃げるよ。アタシはルナと違って引き際も上手いから。熱くなるのはいいけど、冷静さを失ったらそれはただのバカ。ま、いいよ。今後はこの辺りで暴れたり、人に迷惑かけたりはしないでおく。んじゃまたねー!あっはは!」
そして、アルマは地面に爆弾をなげつけて爆風で当たりを包む。
「あ! お決まりの退場方法!」
「煙が晴れたら……ってやつか。」
その通り。気がつけばもうアルマはいなくて、ルナがここに集めていたと思われる、盗んでいたものやここに滞在していたこん席諸共消えていた。結局何者だったの……?
「なんかムカつく奴らだったな……次会ったら絶対殺してやる……」
「と、とりあえず……フィリアさんのところ行く? 逃げらたけど、この辺にはいなくなったって……」
もちほん、それが嘘かもしれないけど……でも今はそういう風に報告するしかない。
「………ん、誰かこっちに来てるぜ。 お前の知り合い?」
「あ、ほんとだ…………ルイ?」
(めっちゃ久しぶり……てかなんでこんなところに)
視線の先にいたのは、『おとこの娘』のルイ。図書館であって以降、全然見かけなかった。特徴的な服装と、あの髪型は間違いない。
「あーいたいた!よかったよかった。………野盗は退治したかんじ?」
走って近くまで来たルイは、特に息切れすることもなく聞いてきた。
「逃げられちゃった……けど、この辺にはもう来ないって。」
「じゃちょうど良かった!実はね、頼まれてここまで来たんだよ。」
「あぁ? 頼まれた? 誰に何をだ?」
「まあ、ちょっとね。それでさー、街に戻ってきたら……『お城』まで来て欲しいって。はい、これが許可書。城門にいる兵士さんに見せれば入れるよー。」
そう言って手渡されたのは、2枚の許可書。わたしとイブ、2人ともってことだよね……でもなんで?
「えっと……なんでお城?」
「さぁ? それはあたしも知らない。」
「だいたい、お前誰?」
「ユイの友達だよ………フィリアさんに頼まれて、ここまで来たの。じゃあたしかに渡したからねー。ばいばーい。」
ほぼ一方的に喋って、ルイはどこかに走っていってしまった。なんなの……。
「よくわかんないけど……行く?」
「城……か。あんまり気は乗らないけど断るとどうせ後でまたうるさいだろうし、行ってやろうぜ。」
「そうだね」
(イブって……戦ってる時だと普段より口悪くなるんだ……)
そのせいで、相対的に今が悪くなく感じる。




