ついに本気をだしちゃうよ
(………)
イブを無視して、真っ直ぐわたしに向かってきたルナ。そしてわたしの前まで来て、ジャンプする……上から斬りつける気だ。
「………よっ」
それを頭で認識できたなら、あとは体を動かす……手を動かすだけで済む。バットを上に向けて突き出し、刀諸共ルナをはじき飛ばす。
「ふっ……流石のこの程度の動きとなれば容易に見切るようだ………!」
ルナは嬉しそうに……そして、狂ったように笑いながら、手に持ったエレメントを纏った刀を振り回す。
「知らないと思うから教えてあげるよ。わたしとイブ……めっちゃ強いよ?」
「ボクの方がうえだけどな!」
律儀にわたしとルナの戦いを見てきたイブが叫ぶ。………まあそれはいいとして。
「強い……何を持って強さと表す……。躊躇いなく人を殺めることか? 容赦なく人を痛めつけることができるものか? 何度倒れても立ち上がるものか? そのいずれも……我にかなうものなどいるはずもない!!!!」
ルナはやたらと『強さ』にこだわりがあるみたいで、今までより強く叫んだ。
「………そう、イブ。2人でやろ! 一気に決めたい!」
「しょうがねーな! やってやる!」
「ならば我もフィナーレと決めてやろう!」
叫びながら、ルナはわたしに向かってものすごい速さで刀をふるってくる。1度振る度に、纏ったエレメントも拡散して、斬撃はかわせても、魔法はかわせない。でも、なんてことは無い。そんな残りカスみたいな魔法、わたしには全く効かない。体感、そよ風や粉雪にも満たないほど。それに、斬撃もなぜかはっきりと見えて、全部かわせる。これが……『わたしの強さ』。
「おいおいおい! ユイにばっかり気を取られて後ろがガラ空きだぜこの脳筋クソ女!……くらいやがれ!『紫電一閃』!」
口も絶好調なイブは、わたしに夢中なルナの背中に雷と炎を混ぜた魔法を纏った斬撃を喰らわす。言葉通りにガラ空きだった背中に、それは直撃して、ルナは倒れ……てない!?
「あ!? なんだってんだよクソがっ!」
イブは手に持った剣とルナを交互に見てキレる。
「くっくっくっ……どうした? その程度で自らの強さに絶対的な自信か? ………脳筋……それは貴様のほうであろう!? 我は常に思考を止めることなく刃を振るう……故に隙など生じるはずもない!! 」
(口だけじゃない……)
現に、今そうやって喋っているルナは、イブの方を向いたせいでわたしに背中を見せている。そこにこっそり、しれ〜って魔法をうってみても、まったくきいてない。
「いやいや、ちょっと待てよ! 隙がねーとか油断してないとかそういう問題じゃねーだろ! なんでボクの剣とかユイの魔法が直撃してしてんのにきかねーんだよ!? 意識の問題だけでどうにかなるわけ……」
「いつまでもよく喋る愚者……貴様では我にかなうはずもない!! 早急に思い知るといい!!顕現せよ……我が風雪の刃!! 我を愚弄するゴミ共に森羅の裁きをくだすとき! さあその命、我が刃で散らしてやろう!」
ルナが叫ぶと、2本の刀はさらに激しい風と氷に包まれて、最早小さい嵐みたいになってる。ルナのやたらと長い髪も、すごい勢いで荒ぶっている。
「なっ、なにそれ!?さすがにそれはヤバいって!」
「死ねっ!!」
ルナは悪意に満ちた笑みを浮かべ、その刀をわたしに振り下ろす。
「……なんてね」
焦るふりしたけど、ホントはよゆーだよ。バットを捨てて、素手でそれを受け止める。なんだ、やっぱりやれば出来るじゃん。
「はっ……お前さ、やっぱバカだろ?」
そのすきに、イブは笑いながら背後からルナの頭を掴む。さすがにこの距離なら……!
「…………できるものならやるがいい」
「遠慮なんて最初からするつもりねーよ! くらいやがれ! 炎と光の爆発……『爆炎』!!」
叫ぶと同時に、わたしの目の前でルナの頭部が凄まじい爆発に包まれた。わたしの顔もかなり熱くなる。……えぐい。
「ってか! そんなことしたら死んじゃうよ……!」
爆煙につつまれたまま倒れたルナをみて、ふと我に返る。
「あぁ? だからお前もいってたじゃん。ぶち殺すって。これで満足なんだろ?」
イブは、当然のことのように言う。確かにわたしも勢いで言ったけど………察してよー!
「……………………………あ」
「クッソ……まじかコイツ……」
死んじゃう? そんな心配はいらなかった。だって……ルナは頭部や顔に傷のひとつもなく、すぐに立ち上がり、エレメントの消えた刀2本を持ってわたし達に言う。
「何度でも言ってやろう……貴様らでは我には叶うはずもない。」
ゆらゆらとたちながらそんなことを言うルナは、バーサーカーってより、亡霊に見える。何がそこまでルナをつき動かしているの?




