初めて本気の戦いを
「お、女の子……」
「ボクはてっきり図体だけはでかいおっさんとかだと思ってたぜ……」
イブの言う通り、わたしもそう思っていた。そうじゃなかったとしても、数時間前にわたしの前に現れたあの盗賊(?)みたいなのかと思ってた。
でも、そこに居たのは女の子。少し離れたところに立っているけど、身長は多分わたしより低い。めちゃくちゃ長い真っ赤な髪の毛で、地面についちゃいそうなくらいの長さ。頭には……何だあれ、星のような装飾の付いた軍帽みたいなのを被っていて、服装も全体的に黒。スカートも黒、膝上位までのストッキングも黒。ブーツも黒。知らないけど多分パンツも黒。そしてなにより……
「……何の用だ」
「二刀……」
その子は腰の左右に1本ずつ、帯刀している。まるで日本刀のような形の、長い刀。この世界にもそういうの、あるんだ………。
「なんの用って、自覚ねーの?」
「質問に質問でかえさずに我の質問に先に答えろ愚か者!」
女の子はこちらに近づき、大声で叫ぶ。近くに来てわかったけど、目がヤバい。正しく『狂ってる』目そのもの。焦点があってないというかなんというか……こんな目、初めて見た。
「答え? そんなのひとつしかねーよ。……お前を殺し……じゃなかった。捕まえに来たんだよ。これで満足か? なら次はボクの質問……」
「我を捉える!? くっくっくっ、なるほど貴様らあの腰抜けどもの城の使いのものか……! 」
「いや、わたし達はお城じゃなくて……」
「話などもう終わった! 貴様らが我を捕らえに来たと言うならするべきことは1つ!刃を交え、どちらかが倒れ動けなくなるまであらがいつづける! ただそれだけだ!我を止めることができると言うなら大人しく捕まってやろう!」
そう叫び、女の子は2本の刀(日本の刀とのダジャレだね)を抜刀して、向かってくる。
「うっそ!?こっちの方がバーサーカー!!」
「おい! あいつの目見ただろ!? ボクの思った通りだ! こいつ、どう考えたって話が通じたり、まともな思考ができるような相手じゃねーぞ! なにが不殺主義だ……こんなやつ、殺さねーと大人しくならねーぞ! ユイ、本気で殺す気でやるぞ! 」
イブも剣を抜いて、臨戦態勢。
「え、でも……」
「甘いこと言ってる場合じゃねーってことくらいわかるだろクソ! 人間なぁ! 綺麗事だけで生きられるほど甘くねえーんだよ! オラッ!!」
「っ!」
わたしの目の前で、イブは迫ってきた女の子の二刀の斬撃を、1本の剣で受け止めた。
「…………」
「なあ、おい……せめて名前くらい教えろよ。お前を殺したら、その辺の石に名前くらいはほってやるからさ。」
女の子は一旦後ろに行き、さっきまでと比べると小さい声で答える。
「……我が名はルナ。……ならば貴様も名乗れ。」
「は、名乗るわけねーだろバカかよ。ボクはここで死ぬつもりはないし、お前に教える意味がねーからな。バカ正直に名前なんて言いやがって、もうボクに殺される気になったのか?」
(うっわ……! カスみたいな性格だ……!)
とんでもないイブの挑発。もちろん、女の子…ルナは………
「ふん、貴様の名前など最早興味はない! 歴史上のどこにも残らぬほどに粉々に砕き捨ててやろう! 死より恐ろしい恐怖を味わうがいい………!」
そして、ルナは一気に飛びかかった……イブではなく、わたしに。
「おいユイ! 何ぼさっとしてやがる!おまえ……」
「あぶなっ!!」
紙一重。刀が顔ギリギリのところに来た瞬間、手に持っていた金属バットでそれを防いだ。手が痺れる………。わたしが防いだその反動なのか、女の子はまたしても後ろに引き、両手の剣を点にかかげて叫ぶ。
「くっくっくっ……今の一瞬で我が刃を防ぐとは……貴様ら2人、どうやら単なる雑魚とは違うようだ……! 力無き者共を相手にするのも飽きていたところだ!! 退屈しのぎに相手をしてやる……! さあ…我の刃よ! その真なる力を世界に解き放て! 天地開闢の時は来たれり! 我に楯突く愚か者共を亡き者にし、血の海で世界を覆い尽くせ!」
「なげーよ」
「シンプルイズベストだよ、ね。」
今どき長すぎる名乗りとか詠唱は流行らないよ(わたしの主観だよ!)
「氷風よ……我が刃に宿れ!」
「おっと……おもしれーことするじゃん」
(………わたしみたいなことできるんだ)
わたしがこの前、金属バットに魔法を宿らせたように、ルナは右手の刀に風、左手の刀に氷の魔法を宿した……んだと思う。知識がないからわかんないけど、そうにしか見えない。
「さあ…2人まとめて来るがいい!」
「言われなくてもそのつもりだっての! ユイ! いくぞ!!」
わたしの返事を待たずして、イブは飛び出す。そして直ぐに剣で斬りかかりつつ、魔法を放った……けど、そのどちらも、2本の刀で受け止められていた。
「わたしも………」
(……………わたしも…………)
やらないと。頭ではそう何度も思った。きっとルナは冗談じゃなく、常軌を逸した強さを持っている。でもわたしはきっと、それを更に超える強さがあるはず。それは分かってるし、仮に相手が凶暴なモンスターなら迷わずいってたと思う。でも、相手は生身の人間。……だってさ、よく考えてよ。わたしの武器は金属バット。つまり、本気でルナを倒しにいくならこれでルナを殴る必要がある。できるの? わたしにそんなことが。 金属バットで人をぶん殴る……昭和の田舎のヤンキーじゃないんだからさ………。
「おい!!なにしてんだ!!はやく……」
イブが叫んでいる。
「どこを見ている愚か者! そのような舐め腐った態度で我に勝てるとでも思っているか!?」
「クソっ! なんなんだよその早すぎる斬撃……」
イブですら苦戦してる。ルナの2つのエレメントの斬撃は、目で追うのもやっとの位の速さで、イブは避けるので精一杯にみえる。時々魔法や剣での攻撃もしてるけど、ほとんどかわされる……。
(タイマンじゃ厳しい………)
だとするなら、尚更わたしがやらないと。でも……
「……いつまでウジウジしてるの、わたし……!」
(そうだ………)
わたしは1回死んでる。元の世界のわたしはもう居ない。いつまで、元の世界に縛られてるの。わたしはこの世界の、この国……ライズヴェルに生きる1人の人間だよ。七海ユノなんて人間はもういなんいだ。いい加減、覚悟決めてよ!わたし!!なりたかったわたしにならないと!
「くっくっくっ……貴様の仲間はどうやら我に怖気付いてても出せないか………腰抜けどもとなにもかわらな」
(いくよ……わたし!)
「……ルナ! 罪なき人達を犠牲にして生きるあなたにこれ以上この世界で生きる権利は……無い! 本気になったわたしが今すぐ……ぶっ殺してやるから覚悟して!」
わたしが宣言すると、ルナとイブは共に戦いの手を止めてこちらを見る。
「ほう……ならば我を楽しませてくれるのだろうな……」
「やっとその気になったんかよ!」
(さすがに殺すはノリだけど……まあいいや)
ちゃんと生きたま捕まえる気だよ。
「ならばまずは…ユイ、貴様から殺してやろう!!」
(……来た!)




