信じるも信じないも
「ここ、オーリン教会……知ってる……わけないか。」
イブと一緒に、オーリン教会の前まで来た。やっぱりなんとなく、空気感が違う気がする。
「オーリン……知らないね。神の名前?」
イブは教会を見上げながら言う。
「そうじゃないみたい。神様の名前は『スティア』……オーリン教の信じてるいる歴史だと、何百年か前に、フィリアっていう人がその神さまから信託をうけて作った宗教……って話。あ、そのフィリアって人の名前は受け継がれるみたいで、今は別の人が名乗ってる。」
「ふーん……」
(さすがにその神様に出会ったなんて話はやめておこっと)
それより、イブはわたしの考えを理解してるっぽい? 濁した言い方にはしたけど、わたしはオーリン教のこと……少し信用出来ない。だって、スティアの言ってることと矛盾してる。疑いたくなんてないけど、神様が嘘ついてるなんて思いたくないし。『オーリン教の言うことが本当かはわからない』そんなわたしの意図を、多少理解してるかも。
「で、おまえみたいなやつが教会になんの用なんだよ。」
「そ、それは……知り合いが教会によくいるから、会いに来た……だけだよ。別にわたしは信者でもなんでもない。」
知り合い、もちろんエルザのこと。でも多分居ないかな。その理由は………まあ、いいや。
「……ボク教会なんて初めて入ったぜ」
大きいドアを開いて中に入ると、イブが言った。
「ノーザンライトには教会ないの?」
なんとなく、自然と声が少し小さくなる。
「ある、あるけどさ。ボクが熱心に教会に行ったりしてお祈りするように見えるか? 見えないだろ? そういうこと。ボクが信じるのはボクの力だ。神なんて………いらない」
「……その考えは否定しないけど教会の中では言わない方がいいと思う………」
周りで誰も聞いていなかったことを確認して、おいのりをする広間のような場所に入る。
「あれ?」
「なんだ、誰もいないじゃん。」
たくさんの長椅子、その全ては空席で誰もいない。
(この前と同じ……)
え、偶然だよね? それとも……人がいない方が普通だったりする? そんな悲しいことないよね……?
「……なあおい、あそこ。誰かいるけどあれおまえの知り合い?」
「ん……あ、あの人……」
イブが指さした方を見ると、奥の祭壇の横に人がいた。離れていてもわかる、フィリアさんだ。純白な綺麗な服と、目を覆う装飾品。祭壇で何かしてるってことは……今日も、お祈りはない日なのかな。
「……異国の地……ノーザンライトの勇者イブ。そして……数多の因果の特異点ユイ……どうぞこちらへ……」
なんて考えていたら、フィリアさんはこっちに気がついて、小さいのによく通る声で、その場から少しだけこっちに近づきながらわたし達をよんだ。
「…………なんでボクのこと……」
「………………」
(༒数多の因果の特異点༒……やば、かっこよ……いや、そうじゃなくてなんで……)
なんで、フィリアさんはわたしのことをそう呼んだの? イブのことを知ってるのも謎だけどさ、でもそれ以上に……そんなふうに呼ぶのは、スティアくらいしかいないのに。え、ってことはやっぱりフィリアさんはスティアとちゃんと繋がってて、話を聞けるのかな………??
「……それ見えてんの?」
イブは更にフィリアさんの近くまで行って、目に着けている装飾品を指さして言う。
「いえ、誓約によりわたくしの目は見えておりません……しかし、感じることは出来るのです。あなたは勇者……大いなる目的のためにこの国を訪れたのでしょうね。」
「ふーん……さすが、宗教の偉い人だ。……それをどこまで信じていいかわかんないけどな。」
「イブ……そんなふうな……」
「ユイさん、また来てくださったのですね。女神様は仰っています。あなたは数多の因果の特異点だと。あなたがこの地を訪れたことにより、多くの事象が動き出し、世界に多大な影響を与える……と。」
「い、いやいやそんな……わたしにそんな力なんて……」
「あるわけないよな。女神サマも見る目がないんじゃない。」
ここまで来ても平気でそんなこと言えるイブ、流石としか言いようがない。そして、イブが何を言っても咎めることもせずに話を聞くフィリアさんもさすが。
「ところで……もしエルザに用があったのなら、残念ですが今日はいないようです。」
「あ、やっぱり……」
(多分リズとどっかにいるはずだし……)
「ふーん、エルザってやつかぁ……でも居ないんならもう用ないだろ?行こうぜ。」
やっぱり教会には興味は内容で、イブはとっとと外に行こうとする。フィリアさんについてもっと気になることもあるだろうに、それは聞かないんだ……それにも興味ないってこと?
「もし……お二人が宜しければ、1つお願いしたいことがあるのですが……いかがでしょうか。」
「ん?」
「な、なんですか……?」




