油断大敵です
魔法が使えない箇所について、少しだけ修正と加筆しました。申し訳ございません
「……あ?」
(わかりやす……みるからにバカじゃん)
わたしがすこーしだけ強気に出ただけで、男の人は露骨に不機嫌なる。それで威嚇でもしてるつもりなのか、低き声で呟き、わたしとマリアを睨んでいる。……髪も中途半端に立ってて金髪だし、田舎のヤンキーにしか見えなくて笑いそうになる。今のわたしから見れば相手にもならない……。
「……どいてよ、わたし達帰りたいし……」
「だから……金と物置いてったら通してやるって言ってんだよ。……チッ、時間かけてたらいつ人が来るかわからねぇか……おい! 出てこい! やるぞ!」
「あ、ズルい!あと2人いるじゃん!」
どこに隠れてたのか、掛け声とともにいきなり2人、人が飛び出てきた。1人は顔全体をローブでおおってる超怪しい人、もう片方は妙な仮面をつけていて、こっちも顔が見えない。しかも大きい剣までもってるし………。
「今さらビビってもおせぇぞ……? こいつらはそこらの冒険者なんかよりよっぽど強い……!」
どうやら今でてきた2人は喋らないようで、無言で頷いている。……確かに強そう。だけど!
「ユイ様……」
「問題ない! いくよ……!イブのおかげで使えるってことが分かった合成魔法! 炎と闇の力よ、いまわたしの……」
「魔法か……くだらねぇな」
「危ないですわ! ユイ様!!」
マリアの叫び声で顔を上げると、男がわたしに向かって何かを投げてきていた。気がついた時にはもう遅く、それはわたしの足元に落ちて小さく破裂した。
「ん? ……うっ……臭!? なにこれ!?」
「酷い匂いでしてよ! これは……」
「はっ、それは多数の毒性の植物や動物の死骸から作られた道具……その匂いは一時的に体内の魔力を封じる……つまり今この場にいる俺達もお前たちも全員、魔法は使えないわけだ!」
男は勝ち誇ったようにわたしたちに言う。……鼻つまんでるけど。
「魔法が使えない……ほんと?」
「疑うならやってみればいいだろ? そうすればすぐに分かる……」
「………炎と闇の力よ……わたしの祈りに答えて…………………………………………………………」
(……まじで?)
出てこない。(無駄な)詠唱も含めて、普段とだいたい同じようにやってるのに、全く出てこない。こんなの初めて。ってことはほんとに………
「魔法封じるとかずるいし! ……ていうか」
(今日は武器も置いてきちゃったし、マリアも武器持ってない……素手とか体術なんてわたしには無理だし………やばい)
魔法が使えないとなるとわたしは弱い……それは向こうもすぐに気がついたようで、仮面とローブの奴らがゆっくりとわたしに近づいてくる。逃げる……なんて無理。背中を見せたらそれこそすぐにやられる。とは言ってもできることも無い……
「……わたくしも今日はなにも使えるものを持っていませんわ……完全に油断していましたわ……何かあればユイ様に助けていただいてもらえる……そう思い込んでおりましたわ。……申し訳ございません。」
(マリアは悪くない……わたしのせい)
すこし魔法が使えるからって油断してた。そりゃあ魔法がある前提の世界なんだから、それを封じる手段がある可能性くらい考えないと。もう遅いけどさ……。
「……フッ」
「………気持ち悪い」
「………………何者なんですの」
ローブの男はわたしの近くまできて小さく息を吐いている。……嫌な感じ。
「さあやっちまえ……! 後処理が楽なようにできるだけ綺麗な方法……ぐっ!?」
「……は?」
「なにごとですの……」
突如苦しそうな声を上げ、男が倒れた。わたし達だけじゃなくて、ローブと仮面の奴も驚いている……
「……!?」
「グッ……」
「え? え?」
驚いている、そう思っていた矢先。その2人もその場に倒れた。3人とも血は出てないし、何かされたようなあともない。だれか来てくれた? いや、だとしてもこの場に漂う異臭の中では魔法は使えない……
「クッソ……なんだってんだ……?」
「あ、生きてる」
男は苦しそうにしつつも、立ち上がった。チラッとマリアの方を見ると、マリアも状況がわからないようで、キョロキョロしてる。
「魔法……はありえない……ならなんなんだよ……まあいい!俺が直接……」
男が短剣を構えてわたし達に向かってこようとすると、その正面にとつぜん人が現れた。……黒色のドレスに身を包んだ、漆黒の髪の……
「直接……なにかしら。困るわ……ワタシの大切なユイに傷がつくでしょう……」
「なんでカレンがここに……」
「……カレン……以前ギルドで見かけましたわね」
漆黒の髪の女性……カレン。なんでここにいるかなんてわかんないけど、助けてくれたっぽい? よく見ると、素手で短剣を受け止めている。
「なんだてめぇ!? 邪魔するなら今ここで殺して……」
「……殺す。……………あなたような消えかけの闇しか持たないような偽物にそんなことは出来ない……現に、その短剣を持つ手も震えているでしょう? あなたは自分が思っているより弱くて小さいのよ。真なる大きな闇を持つワタシやユイの前では無いようなものかしらね……ふふ……。」
カレンは片手で短剣を抑えながら、独特な喋り方で言う。
「わたしを巻き込まないで………」
「……闇が小さいから人を殺せない……と仰るならまさか……」
「あっ」
マリアの言おうとしてること、わかった。
「ふふ……そうよ。大いなる闇を身にやどすワタシなら……殺すことなど躊躇いもないの。それは動物もモンスターも人間も同じこと。………さあ、ワタシがいずれ完成させ、訪れる新たなる創世の糧となるために今ここで散りなさい……」
(やっぱり!)
カレンはなんでか知らないけど、やたらとわたしのことを気に入っている。もちろんそれはわたしのあのチカラのせいだとは思うけど、それにしたってなんか変。マリアみたいになにかきっかけがあった訳でもないのに、異常なまでに気に入ってる。それはもう『好き』を通り越したなにかな気も……。
そんなカレンだから、わたしを殺す、なんて言ってしまった人に容赦なんてするわけない。それこそ、殺すことに躊躇いもない……! でも!
「カレン! 何も殺すことはないでしょ!」
「……あら、そう。せっかく人工遺物も準備出来てたのに残念。」
「魔法が使えねぇのに……なんだってんだよお前……」
男はその場に尻もちをついて、もう完全にビビっちゃってる。かっこわる。
(やっぱりあれは魔法じゃないんだ……多分、最初に見えないところから攻撃したのもこの力……)
カレンは体の周りに数本、黒色の剣を浮遊させていた。以前も1回見たことあるけど、あれはなんなの……。
「人工遺物……わたくしもきいたことがありませんわ……。」
「……そこに倒れている2人はまとめて始末してあげようと思ったけれど……ユイが言うならやめておこうかしら。運が良かったわね……奈落の呼び声は鳴りやんだ……ワタシの魂が乾いているうちに立ち去りなさい……」
「わ、わかった! おい!お前ら!いつまでも倒れてねぇで起きろ! 行くぞ!」
(小物……)
男はローブと仮面の奴らも起こして、走って逃げていった。
「哀れですわね……無様。」
「だね…」
3人がいなくなると、もとの静かで細い通りに戻る。結局なんだったんだろ………。
「………………マリア……だったかしらあなた。」
近くに来たカレンは、わたしではなくまずマリアに声をかけた。
「ええ……そうですわ……なにか?」
「ふふ………そう……なるほど………悪くない………」
「………?」
それだけ言うと、カレンは背中を向けて街の外に向かって歩きだし、言う。
「還りましょう……ワタシたちのあるべき地へ。」
(……街に帰るってことかな)




