最悪の幕開け
「……寒!?」
気がつくと外。そして夜。寒い。もう死ぬかも。
「どこだろここ………」
いやいや、まだ死ねない。何とか起き上がり、当たりを見る。
真っ暗だ。月は出てるけど、薄い雲がかかっていて頼りない。あとよく見ると月の模様が違う。【餅つきのうさぎ】とか【蟹】とか【本を読む少女】とか、色んな解釈があるあの模様じゃない。やっぱり異世界だからか。
(………あの模様………ちくわに見えるな……)
「とにかく………人がいるところを探さないと………」
身体中を確認しても、残念ながら武器は持っていないみたい。酷い。ていうか何も無い。
あと、寒いからトイレ行きたくなってきた。やばいね。
「いまモンスター出てきたら………」
いや、考えるのはやめよう。怖くなっちゃう。
歩きながら、自分の髪を触ってみる。腰くらいまである、少し細めのツインテール………ってことはきっと目とか他の部分もわたしの理想通りになっているはず。服装はなんだ変な感じで、下は短いスカートで上半身は胸元にリボンの着いたかわいい服。暗いから色はよくわかんない。あとは膝くらいまである、多分黒色のストッキングと普通な靴。
「だれか〜」
さっきからずっと真っ暗な林みたいな所を歩き回ってる。でも一向に人の居そうなところは無い。もう詰んだ?
と思ったその時!!
「あっ!人だ!」
灯りを持って歩いている人が前方に見えた。ちょうど、こっちに向かって歩いてきている。少しすると、向こうもわたしに気がついて走ってきてくれた。
「お〜い」
走ってきたのはわたしと同じくらいの歳であろう女の子。ちなみにわたしは17歳。
(うわ……薄い鎧みたいなの着てる……さすが異世界)
「助かった!」
「え……ちょっと………あんた1人?」
「え、うん」
「うわっ!?てか髪ピンク!?それ地毛?」
女の子はわたしの髪を照らしてる。そのおかげで色がよくわかる。
「うん。地毛。かわいくない??」
「かわいいとか以前に初めて見たわよ……多分世界中であんただけよその色………。」
「えっ」
そう言うその子の髪の色は赤。サイドテールにしてる。赤はあるのにピンクはないんだ。
うーん、ミスったなぁ。最初からそれ知ってれば無難な色にしてたのに。このまま一生この色だもんなぁ。まさか世界にわたししかいないとはね。
(異世界だからピンクもいるって言うのは偏見だったかな………。)
「まあいいわ……で、あんた何してたの?武器も持たずに……危ないわよ?」
「あ、うん………。」
「それにろくな荷物もないし……どういうつもり?………はっ!?まさか………自殺……!?それはダメよ!考え直しなさいよ!」
「ち、ちがう!」
なにか変な勘違いされた!?肩を持って揺さぶられる。違う違うちがいます………それにそんなに揺すられると
「出そう……」
「何がよ!?」
「トイレ行きたくて………」
わたしがその大切な、大切な事実を伝えると女の子は直ぐに手を離し、言う。
「なんかよくわかんないけど……死ぬ気がないんならあたしに着いてきなさいよ。割と近くに村があるわ。ほら、それくらいなら平気でしょ?」
「うぃ」
「何よその返事………」
まあ多分平気でしょ。それより、近くに村があるのは本当に良かった。そこまで行ければあとは何とかなるはず。わたしは強いはずだし。
―――――――――――――――――――――――
そしてもう次の日だよ。
まあ昨日何があったかといえば、まず最初に、ダメだったよね。リミットオーバーフローだ。これは恥ずかしい。知らない女の子の前でいきなりやらかすとは……。しかも村まで来て本当にまじであと少しだったのにね、残念。
せっかくのかわいい服が、ストッキングまで全部台無しだよ……。もちろん服は洗ったよ。今干してる。だから今は借りただっさい服着てる。
で、今いるここは……あの女の子に場所を教えてもらった泊まる場所。着替えとかもここでしたよ。全くこの世界に仕組みはわからないけど、一日だけならタダでいいんだって。すごくない?さすがにご飯とかは無いけど。
あと、お風呂も入った!普通に広くて気持ち良かった。お風呂という文化がちゃんとしている世界でよかったよ………。衛生的な概念がしっかりしててほんと助かる。
「いい朝!」
窓の外をみるとめちゃくちゃ大きい太陽。明るさも元いた世界より強い気がする。なのに直視しても目が痛くない。不思議。こういう些細なところでも、やっぱりここは異世界なんだなって思わせてくれる。
「じゃあ早速………」
まずは着替える。借りてたこのダサい服はこの部屋に置いたままにしておけばいいらしい。
「よーし!やっぱりかわいい!」
着替え終わって鏡を見るとそこには最強完璧な美少女が!!………もちろんわたしのことだよ。やっぱり最高だよこの姿。元の地味で見るからにネガティブオーラ発してたわたしとは別人すぎる。いいね。
(明るい場所で見ると結構派手な服……)
昨日は暗くてわかんなかったけど、着ている服は暖色系の色が多く使われていた。
「それじゃあ行きますか。」
今日は行くところがある。昨日、別れ際に女の子に教えてもらった場所。お金も何もない今のわたしにとってはそこに行かないと何も始まらない。
それじゃあいよいよ始まりだよ………最強完璧美少女かつ最強の能力を持ってしまったわたし……七海ユイの異世界快進撃!!
「………なんか変だし七海は名乗ならなくていいか。」
【ユイ】これだけでいいや。
「すごーい……」
宿から出て、村を歩く。昨日は夜で暗かったのもあるけど、普通にヤバくてそれどころじゃなかったから村の様子なんて全然気にしてなかった。
改めて見るとすごい。何がすごいって、看板の文字普通に読めるしなんなら『メートル』とか『キログラム』とか所謂……SI基本単位ってやつが普通に使われてる。異世界とは?
(まあ多分、わたしの目線からはそう見えたりそう聞こえるってだけだろうな)
言葉だってききとれたし、多分そう。めっちゃ強くてかわいいわたしは言葉や単位の壁くらい余裕で乗り越えるよ。
そして見つけた看板『ギルドまで500メートル』……目的地だね。
『ギルド』……いかにもな響き。どうやらわたしは遠くの地方(国?)から来た冒険者か何かだと思われたらしく、まずはギルドに登録して依頼やら仕事を受けられるようにした方がいいって言われた。確かに一理ある。
そして少し歩くとすぐに着いた。木造の建物で、少しボロい。田舎の村だしこんなものなのかな?
「おじゃましまー…………あれ」
(誰もいない……)
依頼を受けたりできる場所、なんて言うからまあまあ賑わってると思いきや………カウンターにいる受付の人以外誰もいない。客がいない!
「あ、いらっしゃいませです。」
「ど、どうも………」
とりあえず、カウンターの方に行く。
受付をしているのはわたしより年下かもしれない女の子。長い茶髪で一応制服っぽい綺麗な服を着ていて、名札をつけている。
(名前………『アリス』……。)
「あれ………見かけない顔ですけど遠くから来た人ですか?」
「あ、うん……大体あってる……かな。………というわけで冒険者の登録をしたくて………」
早速本題に入ろうとすると、アリスは慌てて言う。
「ああ!ごめんなさい!このギルドは本日の午前中で終わりです、閉店!長らくのご愛顧に感謝しつつ畳むことになりました!なので新規の登録を受けることはできないんです!」
「えっ」