ご覧になってね
「あそこだ……!」
人の多い広場。こんどは屋根はなく、よくわかんない大きい柱がいくつかたっている広場で、さっきより広い。そして、その柱の周りに人が沢山いて……そのうえに、2人が立っていた。
「もうあんなところに……」
「ユイ様!!」
人混みの中から出てきたのマリア。わたしに向かって走ってくる。
「マリア!」
走ってきたマリアをよく見ると、手には綺麗な宝石を持っている。
「マリア、それ……」
わたしが指をさすと、マリアは嬉しそうに笑って言う。
「ええ、これこそがレインクリスタル……。少しばかり高い値段でしたが、関係ありませんわ。わたくしの大切なものを治すためなら……構いませんのよ。」
「あ……でも平気なの? あの怪盗は……」
「ご心配なく。彼女たち……正体不明の怪盗が狙うはもっと巨大なレインクリスタル……わたくしの元にあるような小さなものではありませんわ。」
「そっか……」
(正体不明の怪盗……ね)
下手にわたしがあの二人を知ってるとか言うと、逆にわたしが疑われかねない。ただでさえ、マリアには『わたしは罪人』なんて言っちゃったし、余計言い難い。言わないよ。
なんて考えていたら、柱の上から声が聞こえた。……リズだ。
「さぁて……そろそろかしら。この場にあたし達が求める最高の煌めきを放つレインクリスタルがあることはわかっているわ。」
「巨大なレインクリスタル……それはこれよりわたくし達の手中に落ちることでしょう。……さあ、ご覧になって。」
なんかそれっぽいことを言い、2人は柱の上から飛び降りた。人混みの中に紛れたようで、少し離れたところにいるわたしからはどこを動き回っているのか全くわからない。時々人混みの中の人たちが声を上げるから、おそらくその辺にいるんだろうけど………?
と、その時。この広場の中で……というより、この街の中でも有力である感じの商人のおじさん (偏見だけど)が声をはりあげた。
「怪盗共! あんたらの探してるのはここにあるぞ! これだろ? これが欲しいんだろ!?」
わたしやマリアも含めて、みんなの視線がいっせいにそっちに向く。その人は少し高い台になってる場所にたっていて、その後ろには……頑丈そうなケースに入ったレインクリスタルがある。
「取れるものなら取ってみればいいさ! まあどうせ無理だろうがな……むしろ、我々の開発したこの『魔法防壁』の頑丈さのアピールにしかならないだろうがな!」
「ユイ様……あれは……」
隣にいるマリアが呟く。
「うん……フラグ……」
あんなの、絶対盗られる。絶対、100000%
「ふん、なによそんなの……」
人混みのなかからジャンプして出てきたリズ。いつの間にか持っていた大きい斧で防壁を叩いた……けど。
「そんな斧じゃあ壊れないなあ!」
リズの斧は簡単に弾かれた。その勢いで、地面に落ちるリズ。
それを見た商人の人は防壁の丈夫さを自慢出来て嬉しいのか、楽しそうにいっている。
「ふん……それなら……やっちゃいなさいよ。」
(エルザかな……)
リズがそう言うと、予想通りにマントを靡かせたエルザが飛び出してきた。……大きい鎌を持って。
「あなたや宝石に罪はありません……しかし。これもまた運命……冷たき刃よ、活路を開きなさい。」
そして振るわれた鎌は、防壁を簡単に壊した。そしてエルザはそのままレインクリスタルを片手で抱え、高く飛んで柱の上に立つ。リズも直ぐにそれに続いた。
「な、な………」
商人の人は……言葉も出ないようで、項垂れている。やっぱりこうなる。
「レインクリスタル……盗まれましたわね……」
「うん……」
2人の怪盗をみてザワつく人々。そのざわめきは小さくなることなく……むしろさらに大きなり、次第にそれはリズ達に向けられていく。
「この泥棒が!」
「素顔見せやがれ!」
「人の心がないのか!?」
「怪盗ならもっとスマートにやれ!」
「何が目的だ!?」
(また変な意見混ざってるし……)
まあそれはいいとして……
「あの……ユイ様。」
マリアはわたしの腕を引っ張っている。
「え、なに?」
「ひとまず、わたくしの目的であったレインクリスタルは手に入りましたわ。ですので……場所を移動しませんこと? 少し話したいことがあるのですが……このような状態では落ち着いて話すことなど出来ませんわ……わたくしに着いてきてくださる?」
「おっけー」
マリアの意図はわかったけど、話したいことってなんだろ? とにかく、とりあえず歩き出したマリアについて行き、ざわめきの残る広場を後にする。最後にもう一度振り返った時にはもうリズとエルザはいなくて、さらに声を荒らげる人達が増えていた。
(それにしても……リズもエルザも、どうしてあんなふうに動き回れるのかな……ジャンプ力とか、尋常じゃない。)




