バレバレなんです全部
(普段真っ当な人が、怪盗なんてやる理由は何……?)
人混みに紛れて同じ方向に向かいながら、考える。エルザもリズも、わたしの知る限りでは真っ当な、真っ当すぎるいいひとだったし。リズは貴族であること、冒険者を強要されることに嫌気は指していたけど、それでも投げることなくちゃんとやっていた。エルザは教会のお手伝いをしつつ、冒険者としてもかなりの実力者。2人とも、お金とか生活に困るようなタイプじゃない……ていうか、わたしですら何とかなってんだから大抵の人は平気なはず。
(それなら……)
他は? かつてわたしが元の世界にいた時に好きだったお話では、宝石やお宝が欲しい訳じゃなくて、自分を捕まえに来る者との戦いを……スリルを楽しむ……なんて美学を持つ怪盗達もいた。その怪盗達も、普段は世間に紛れて真っ当な人間のように振舞ってはいたけど……。それに、あの二人がそんなふうな考え方をするとも思えない。スリルなんて、冒険者やってれば嫌という程味わうだろうし。
(じゃあ……)
もし捕まれば、今の自分の社会的地位は失われて、単なる犯罪者だ。そんなリスクを冒してまで、『レインクリスタル』を盗みに来た2人……これが初めて? それとも常習犯? 分からないことが多すぎる。何が目的なのか。
「あっちだ! あっちの広場でレインクリスタルが売られていたはずだ! 怪盗達も既に向かっている可能性がたかい!」
誰かが道で叫ぶ。その途端、みんなそっちに向かって走っていく。止める気なのか、野次馬なのか……わたしはもちろん後者ですよ?
「……っと。出遅れた……」
一瞬足を止めていただけで、もうみんな居ない。みんなが怪盗に気を取られているせいで、近くは誰もいない。お店も出てないから、元々人通りが少ないのかも? 確かに道も細いし、この街の中では珍しく普通に建物もある。路地裏って感じ?
「わたしも行かないと………」
立ち止まってても何も起きないし、みんなが向かった方に行こうとして、その方向に向き直る。
「……えっ」
「………」
そこには、さっきまで居なかったはずの怪盗……リーズレットがいた。近くで見ると、さらにリズに似てる。服装、髪型はいつもと違うけど、何となくわかる。ていうかあのリズがマントが着いた、いかにも『怪盗』って感じの服きて仮面つけてんの面白すぎでしょ。
「リズでしょ?」
とりあえずきいてみる。
「……さあ?誰のことかしらそれ。」
リーズレットは興味無さそうに言い、とぼける。…その声、喋り方……リズじゃん。
「リズ……なにしてんの?」
「はぁ……だからなんの話し?あたしはご覧の通り『怪盗リーズレット』……そんなどこの誰だかもわからない貴族の名前なんて言われてもなんのことかわからないわね。」
(分かりやすく墓穴掘りすぎでしょ)
リズが貴族なんて一言も言ってないけど。
「あっ」
どうやら本人もすぐそれに気がついたようで、口元に手を当てて小さく声を漏らした。その言動、決定的だよ。周りに誰もいないからいいけど……ていうかなんで誰もこっちに気がつかない?
「そもそもエルザと仲良いの? 2人揃ってなにしてんの……」
わたしの質問を聞いたリーズレット……リズは、少し考えたあと、仮面を少しずらして素顔を見せてから言う。
「まさかあんたがここにいるなんて思ってなかったわよ……ほんとついてないわ。」
「やっぱりリズじゃん。」
「そうよ、なんか文句ある……あるわよね。でも、何を言われてもあたしとエルザはこれを辞めるつもりは無いし、あんたが思ってるより複雑な事情もあるのよ。だから……なんかわかった気になって口出すのだけはやめて欲しいわね。どっから来たかも分からない、目的もよく分からないあんたなんかにとやかく言われる筋合いはないのよ。」
「お、いうねぇ」
「なによそのムカつく反応……おもらし女のくせに」
「いや、それは無しでしょ。それは結構ガチできくからやめて。わたしも変なこと言わないからさ。」
思い出したくもないし。めっちゃ恥ずかしいじゃん。いい歳してさ。
「じゃ、あたしは行くわ。いい? あんたとあたし……それからエルザが知り合いだろうと、それとこれとは別よ。あたし達はレインクリスタルを手に入れるし、今後も続ける。……でも、普段の関係性を壊すつもりもない。あとはあんたに任せるわ……えい!」
「わっ!?」
リズが地面に何かを投げつけると、一瞬で姿が消えた。その直後、人々が向かった方から大きなざわめきが聞こえた。
(全然わかんないし……)
そりゃあ確かにわたしはこの世界に来て日が浅いし、リズやエルザだけじゃなくて、カレンやルイ、イブにソフィアさん……みんながどんな事情を抱えてるかも知らない。
(でも……)
それなりには仲良いと思ってたんだけどね。それなのに、あんなふうに言われると……ちょっと寂しい。あとわたしの知らないところでリズとエルザがかなり仲良さげなの、かなり悔しいし。
「広場の方行こっかな……」
……ただまあ、それはそれとして……もしあの二人が本気でレインクリスタルを盗むなら、その場面は見てみたい。一体どんな風に宝石を盗む? 怪盗の犯行現場なんてリアルで見れることなんてまず無いし、そこは気になる。
(難しいこと考えてもわかんないや)
短い間に色んな事がおきすぎてて困っちゃう。Eイブの本当の目的? 創世の女神? わたしの運命? リズとエルザが怪盗? ………でも。
(少しだけ……面白い!)
せっかくの異世界転生……こうでなくっちゃ! わたしは強いから、何が起きても大丈夫!




