メンゼル
揺れる馬車の中、わたしを見つめるマリアは全く瞳を動かさない。多分まだ着くまでに時間かかるし、適当にごまかせないのはもうわかってる。
(それなら……)
「じ、実はさ……」
「はい」
「わたし……そうなんだよね、言えないの。わたしは自分の国にいた時にさ……罪人だった。だから詳しい素性は言いたくないし、言わないよ。」
思い切った嘘をついてみた。それでマリアがわたしのことを嫌ったとしても、それを誰かに言いふらしてわたしの立場が無くなったとしても構わない。それでいいんだ。
「……もうすこし、詳しく……話せるところまで話して欲しいですわ。」
マリアは大きなリアクションもせず、めずらしくすごい真面目に続きを促す。
「話せるところまで……そうだね。わたしは……どこってのはやっぱり言えないけど、出身の国にいた時……罪を犯したの。それで……えっと………まあなんていうか、さすがに人を殺したりなんてことはしてないけど……でも、大変なことをしちゃったの。わたしは悪意や故意でそれをしたわけじゃないけど、世間はそんな事情を理解してくれない。わたしは……国から追い出されたんだよ。幸い、もともと他の国に興味あったし、言語は学んでた……から、このライズヴェル領に来た……何も知らない旅人のフリしてさ。……これだけ、終わり。」
(………酷いなこれ)
我ながら思う。全てがうそのこのストーリー、酷すぎる。思いつくがママに喋っただけの、謎の独白。こんなこと、マリアが信じるとは思えない。
「……そう、でしたの。」
マリアは小さくそう呟き、わたしの方を見て続ける。
「……そのような自分を追い詰めるような、自分自身が損をするような嘘をついてまで話したくないユイ様の本当の素性……とても気になりますが、そこまでして隠すなら……もう諦めますわ。でもわたくしは信じていますの……ユイ様は絶対に悪人でなく、なにか大きな目的があってここにいる……と。ですよね?」
マリアはニコッと笑い、わたしに問いかける。
「も、もちろん! マリアならわかってくれると思ったし!」
(ごめんね)
「さて、そろそろ着くようですわね。……どうやら天気も晴れてるようですわ。素敵な買い物ができるように願うばかりでしてよ。」
「……うん、そうだね」
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馬車をおりると、たしかに晴れてた。それも、快晴。すごい、こんなに晴れるもんなんだ。そして空には……
「虹だ!」
「雨の後に空にかかる掛橋……虹はきっと、この世界を作った創世の神が用意した心の掛橋なのですわね………」
「へえ」
「……………………」
「……………………」
「……さて、目指す街はあとすこし歩いた先。わたくしに着いてきてくださいまし。」
機嫌を損ねた……訳では無いと思うけど、マリアはそれ以上は何も言わずに、少し荒地っぽい荒野 (これ二重表現)を歩き出した。
「まってまって」
急いでそれについて行く。大きい岩とか崖(?)が多くて見通しが悪い。なんとなくだけど、商業が盛んな場所って言うと砂漠ってイメージがあったからなんか以外。大きな岩に挟まれた谷みたいなところにまちがあったりするのかな?
――――――――――――――
「着きましたわ!ここが大商店で有名な街、メンゼルでしてよ!」
「おー!」
少し歩いた先、予想通りの場所……つまり、巨大な岩と岩の間、谷間になっているような場所に街があった。モンスターが入ってきにくいからこういう場所は結構いいみたい。
狭くなっている街の入口、そこから街全体がが見える。建物は少なくて、露店みたいなのが多いし、行き交う人々も沢山。いい感じ。
「街全体が店……みたいだね?」
「さすがユイ様、その通りですわ。『大商店』というのは通称……実際には、メンゼル全体のことを指しているだけなのですわ。この街はあらゆる場所が商店のようなもの……道行く人の多くも商人……ということですわ。」
「おー! なんか楽しそう!」
テンション上がるわたしに対し、マリアは顔を近づけて言ってくる。
「ただし……たくさん人が集まるということは良からぬ人々もいますわ。大したことの無い品を高額で売付ける……ユイ様のようなこの場に不慣れな方こそ気をつけなければ……」
「あ、それは平気。わたしお金ないし。」
「……………………わたくしは『レインクリスタル』を探してきますわ。ユイ様は……」
「ん、せっかくだし色々見てくるよ。……お金はないけどさ!」
「承知しましたわ。それでは、また後ほどここで合流……でよろしいでしょうか。」
「おっけい!じゃあね!」
街の入口にマリアを残し、とりあえず街の中に向かう。どんなものが売ってるかな!?




