夢の湖で会いましょう
「………?」
(あれ?)
どこ……ここ?わたしさっき、ぜったい確実に100%家のベッドで寝たはずなのに、今は……満天の星空の下、綺麗な湖の前に立っている。夢?
「……だとしても、こんなに意識がハッキリとしてるなんて………」
わざと思ったことを喋ってみると、とても夢とは思えないくらいハッキリとその言葉はわたしの口から放たれたし、自由に動き回ることも出来る。
「んー……」
こんなふうな夢、見たことない。知らない場所だし……ほんとに夢? なんか人智を超えた大いなる存在によって外部から干渉を受けてたりしない?
「やっほ〜」
湖のほとりを歩いていたら、不意に目の前に人が現れた。
「人智を超えた大いなる存在いたし……」
そこに居たのはスティア。なるほどね。
「ごめんね〜。でもこうすれば誰にも邪魔されないし、バレちゃう心配もないでしょう?」
いつの間にか現れたやたらと豪華な椅子に座って、スティアは言う。1個余ってるからわたしも座り、スティアの方を見て答える。
「まあね……さすがは女神……。」
「それでね……ユイちゃん。さっきも言ったけど、いきなりたくさんお話されても訳分からないと思うし、理解も出来ないと思う……だからね。」
「うん、なに?」
「ユイちゃんは、ユイちゃんが信じたいと思ったものだけ信じて、貫けばいいの。」
スティアは真っ直ぐわたしを見てそう言った。
「……でたでた。わたしそういうのも1番嫌い。はっきりしたこと言わないで抽象的に、なんか深いことだけ言うやつ!女神ならもっとはっきり言おうよ!」
どうも、女神に説教する女七海ユイです……。
「んー……」
「ダメ?」
スティアは腕を組んで、まるでしっかりと物事を考えているような仕草をしてからこたえる。
「きっと、ユイちゃんの周りには色んな人が集まってくると思うの。それは純粋な好意だったり、よくある友情だったり、かけがえのないものへと至る始まり……かもしれないし、ユイちゃんのことを利用しようとする悪意とか、犠牲になっても構わないと思う非道な思いとか、そういうのもあるかもしれないの。」
「??」
(いきなり難しいこと言い出したよ……)
「わたしはこの世界で生まれた女神だから、元の世界でのユイちゃんがどんな子だったかとか、それがどんな世界だったかとかはぜんぜんわかんない。」
「う、うん……」
「ねえユイちゃん。湖みて。」
スティアは立ち上がって、星の落ちるような空が映った湖の水面を指さした。
「なに……」
そこを覗き込むと、星空は消えて、揺らぐ水面になにかの映像のようなものが映し出された。
「え……?」
「よく見て。これはいくつかの可能性の世界……ほら。」
「…………」
黙って湖を覗く。確かにそこにはわたし……と、エルザが映っていた。場所はどこだか知らない遺跡みたいな場所。音も聞こえないから、何を話しているかもわからない………わからないけど。
「えっ………」
向かい合って何かを話した未来のわたしとエルザ。次の瞬間、エルザは手に持っていた鎌で、わたしのことを切りつけた。それはなにかの脅しとかじゃなくて、本当に当たっている。そしてわたしはその場に倒れ、エルザは氷の魔法をわたしに使い、その場を後にした………そこで映像は終わり、湖はまた星空をうつすだけの水面に戻った。
「な、何いまの………」
湖から顔をあげると、スティアはまた椅子に座っていた。
「可能性。」
「いや、だから……」
「ユイちゃんの紡ぐ因果の糸がどこに向かうかは女神でもわからないもん。だからわたしがすることは、可能性を示すだけ。あとは……ユイちゃん次第。……そろそろ朝みたい。またね〜」
「逃げた!!」
その瞬間、いっきに視界が暗くなり、意識が途切れて………
――――――――――――――――
「うっ……朝………」
目が覚めたら、ちゃんとベッドの上です。しかも超気分のいい目覚め………なのかな。あんな映像見せられたのに………。
(もうわけわかんないし……)
なに、エルザがわたしのことを……そんなことある? だってそもそも、動機がない。それならまだ……カレンのほうが納得出来る。メンヘラみたいだしあの人。
「まあいいや……」
(今考えても意味ない)
とにかく、そう……いまのわたしが考えることはただ1つ……借金返済!!!




