情報量が多いってば
少し暗くなってきた道を歩き、家に向かう。今日は疲れた。色々ありすぎた。暫くは何事もなく平和な日が続けばいい。……イブがいるから多分それは無理なんだろうけどね。
「ただいま」
誰もいない家だけど、元の世界の習慣でついついそう言ってしまう。返事を返してくれる人なんてだれも
「ユイちゃんおかえり〜」
「………なんで??????」
わたしの家の中。ベッドに腰掛けていたのは……スティア。あたかも当然のようにそこにいて、ニコニコしながらわたしに手を振っている。
「来ちゃった」
「いや、だからなんで??」
(勝手に入ってるし……)
「ユイちゃんとお話したい……からじゃダメ?」
首を傾げでわざとらしい仕草で言うスティア。なんだこれ。
「……普通にダメでしょ。何その付き合いたてのカップルみたいな動機。」
「むー」
(なにこの女神……)
ダメだ……油断してると不本意ながら『かわいい』って思っちゃう。ダメダメ。こんな怪しいダメな大人(??)にそんな感情を向けるなんて……。
「ほらほら、ユイちゃんもこっち来て。ね。」
「………わかったよ」
手招きされて、スティアの隣に座る。ふわっといい匂い……女神も香水つけたりいい匂いのシャンプーとかするの? まさかねー。
「……イブちゃん。」
「えっ?」
「ライズヴェルを救うために、ノーザンライト王国から来てくれた勇者……でもね。」
スティアはわたしの目をじっと見つめている。緊張するな……。
「で、でも?」
「イブちゃんの言葉は……嘘。本当はライズヴェルには危機は訪れてない。本当に危ないのは……ノーザンライト。イブちゃんはもちろんそれを知っているのよ。」
「ええ? 全然わかんない……」
(たしかイブは……ライズヴェル領……つまり、この国にあるという………霊峰『ベルズバイン』、そこに生まれた悪い存在を倒すって……)
「そう。霊峰ベルズヴァイン……そこに行きたいって言うのは本当。」
「ナチュラルにわたしの心読まないでよ。あとめっちゃ発音いいね?」
「それでね、そのベルズヴァインにはね……悪い存在なんていないの。そこにいるのは……本当の神様。わたしみたいな偽りの、まがい物じゃない……世界の片隅でのみ語られる創世神話……そこに語り継がれる女神が、あそこにはいるのよ。」
「あー……ちょっと待って。追いつけない。情報が多い!」
ちょっとドキッとするくらい顔が近いスティアが紡ぐその言葉は、この世界に来てまだ全然日が浅いわたしには理解ができない。なんか頭の良さそうなエルザとか、本を沢山読んでるルイならわかるのかもしれないけど……。
「そうよね〜、ユイちゃんはまだこの世界のことすらよくわかってないものね。」
「そうそう……そんな状態でいきなり、イブの本当の目的とか創世の女神とか言われても……って感じ。でもここまで中途半端にきいちゃうと気になるし……どうしよ?」
「……それはユイちゃんが決めてね。」
「あ、はい。」
(まあそりゃそうだけど)
「それじゃあ」
と、わたしの判断をスティアに伝えようとした、ちょうどその時。玄関のドアの外で声がした。
「ユイ、いるかしら?」
その声は
「あぁ!リズ!?」
「やっぱりいるわよね。じゃ入るわよ」
「あ、ちょ……今は!!」
(スティアが………あれ?)
いま、まさにこの瞬間までそこにいたスティアは、一瞬目を離した隙に消えていた。女神だから?
「……なーんにもない部屋ね……ところであんた今誰かと喋ってなかった?」
部屋に入ってきたスティアは不審そうに、ベッドに座るわたしを見ている。
「え、え? 気のせいじゃない?????」
「そうかしら……絶対喋ってたような気がしたけど。」
「あ〜………実はさ………わたし……鏡に向かって一人で喋るのが趣味なんだよねー!!!!!! だから今のはそれ!!」
「……帰ろうかしら」
「あ!! 待って!! そんな顔しないでよ!!」
すごい憐れむような顔された。でもこれでいいし……スティアのことはなんとなく、誰にも言っちゃ行けない気もするし……。
「ところでさ!! リズは何しに来たの!?」
「なんかやたら元気ね……とは言っても、別にあたしは特に用はないわ。」
「? 用もなく人の家来るとかヤバいじゃん」
「用はないけど意味はあるのよ! あんたの知り合いの人が、あんたの家の場所知りたがってたから案内してたげたのよ。」
「知り合いが誰かも気になるけど、その前になんでリズもわたしの家知ってるの? 教えた記憶ないけど。」
わたしがそれを言うと、リズは少しだけ目を泳がせながらもすぐに冷静に言う。
「そんなことはどうでもいいのよ。……で、あの人。ほら、今ちょうど来たわ。」
少し遅れて来たその人は、ドアを開けて中に入ってきた。
(あっ)
「ふふ……ユイ……久しぶりね……会えてとても嬉しいわ………。」
その人。……カレン。一体何が面白いのか知らないけど、笑ってる。
「じゃ、目的は果たしたからあたしは帰るわね。ばいばい」
「は!?」
それだけ言い残し、リズはまるで逃げるように出ていった。リズもやっぱりカレンのこと嫌なのかな…まあこんな人だしなぁ。
「……で、なんの用………」
リズと入れ替わるように家に入ってきたカレン。部屋の中で立ったまま、わたしを見ている。
「ユイの秘める闇……ワタシはそれが欲しい……ほうね……あなたが欲しいのよ……でも、それを阻害する者があなたの近くにいる。」
「………意味わかんない」
(わざわざリズに案内させてまで家に来て言うことがそれって……)
「……闇を司るものは聖なるものを拒むもの。ライズヴェル城下町で聖なるものといえば……あなたならわかるでしょう……ふふ」
(聖なるもの……それはつまり……)
「オーリン教会……ってことは……エルザのこと?」
わたしが『エルザ』と、名前を出すと、カレンは少しだけ鋭い目で言う。
「そう……彼女の存在は厄介……ワタシがユイに近づくことを阻害する………」
「ていうか……わたしは別にカレンに何かをあげたり、力を貸すつもりは無いからむしろ来ないで欲しいけど……」
エルザのせいでなにかが邪魔されてるなら、むしろそれでいい。助かる。この人の事普通に嫌いだし。
「そうね……今のあなたではそうかもしれない……ふふふふ……でもいずれは……楽しみにしているわ。」
「は?」
訳の分からないことだけ言い残して、カレンは外に出ていった。別に追いかける気にもならないから、そのまま放置してベッドに横になる。あーもう、寝よっ………。




