わたしが目指すものは……
「……すげーみられてるな、ボク達。」
「うん……」
カウンターの前に立って待っていると、振り返らなくてもすごい見られてるってわかる。視線を感じる。
「やっぱりペガサス討伐って凄いことなのかな。」
「だと思うけどさ……おまえはライズヴェルに住んでるのに知らなかったのか?」
「あ……ほら、わたしも実はイブみたいに違う国からきてて……あれ? ていうかなんでイブはこの国の言葉使えるの?ノーザンライトは違う言葉じゃないの?」
「バカにしてんの?他の国に行くんだからその国の言葉くらい完璧に使えるようにしてくるに決まってんだろ? なんでお前も他所の国からきてんのにそういう発想が出てこないんだよ。おまえ自身もライズヴェルの言語使えてるくせに。」
「うっ……」
(誤魔化すのもきつくなってきた……)
大体、わたし自身の設定がふわっふわすぎるんだよね。後でもっとこう……突っ込まれないように考えておかないと……。
「お待たせしましたー」
「おっ」
丁度よすぎるタイミングで、受付の人……と、ギルドマスターと思われる、知らない人が来た。……っていうかこの人……
「うわ、マジか……予想外なタイプだぜ。」
「あー……」
「なるほど……君たちふたりがペガサスを……」
受付の人と一緒に出てきたのは、ギルドの制服? らしきものを着ている、クリーム色の綺麗で真っ直ぐな長髪の、イケメン風な男の人。いいの?(なにが?)
「こちらの方がライズヴェルギルドの本部のギルドマスター……つまり、一番偉い人の……アレスさんです。お忙しいところ来てもらいました!」
(一番偉い人、数分で呼んでこられるんだ……)
「さて……彼女から見せてもらったペガサスの角……確かにあれは紛うことなきホンモノ……煌めくペガサスのものだった。」
アレスさんは受付の人から受け取っていた角をカウンターに置き、静かに言う。
「ホンモノに決まってんだろ? ボクとユイが間違いなくこの手でぶっ殺してきたんだからさ。まさか疑ってんの?」
イブは『一番偉い人』が相手でも普段の調子を崩さない。……アレスさんの方が背が高いから、見上げながら言ってるのが少し面白いけど。(ちなみに身長はアレスさん>イブ>受付の人>わたし)
「わ、イブさん! そんな言い方は……」
「別にいいさ。彼女は異国から来てくれた勇者なんだろう? それなら振る舞いに関しては好きにしてくれていい。それに、俺もそうしてくれた方が話しやすい」
(この世界で一人称俺の人初めてであったなぁ)
そもそも男の人とほとんど絡んでない。ルイだけか。なんででしょうね。
「……で、どうするの? ペガサス倒したボク達になにか特別なお礼とかないの?」
「まずは狂獣について少し説明をしたい……が、ここではしにくいか。」
「だなー」
「たしかに……」
アレスさんが言いたいことはよくわかる。元々ペガサスを倒したってことで注目されてたのに、アレスさんが来たせいで余計目立ってる。こんな状態で、ここでお話とかとても集中出来ない。
「……仕方ない。詳しい説明はまた別の機会に俺以外の者にしてもらうとして……。お礼か、それなら……これでどうだろうか。」
そう言いながら、アレスさんはカウンターに大きめの布袋を置いた。重そうな音を立てて、ずっしりと置かれた。
「さあ、2人で好きなようにわけてくれ。争いだけはしないように。争うことは………そう、美しくない………ふふふ……。」
右手で顔半分を隠し、意味不明なことをいう。
「はぁ……?」
(めんどくさそう……)
「めんどくせー……で、中はなんだよ。………おい」
「なに………いやいや……」
ぶっちゃけ、お金期待してた………けど、中を覗くと入っていたのは大量の石。確かになんか綺麗だけど、宝石って訳でもないし、何か魔法的なものも感じない。
「なんですかこれ」
「それは……俺が集めた輝石……そう、美しく輝く魂のようなものさ。」
「……ユイに全部あげる。」
「……そういうと思った。まあ一応貰っとくよ……。」
袋を閉じて、持ち上げる。やたらと重いけど、まあ何とか持てないこともない。
「ペガサス……狂獣を討伐した場合、その死骸はギルドで回収をする。既に現場には専門の者共を向かわせているから安心するといい。そして……」
「そして……?」
意味深に間を置き、そしてゆっくりとアレスさんは言う。
「君たちの輝かしい功績はギルドをかいして多くの人たちの目や耳に届くことになるだろう。構わないか?」
「え、それって……」
「なになに、じゃあボクとユイがペガサス倒しったことみんなに知ってもらえるのか!?それなら『勇者イブ』っていうの忘れるなよ!ユイはどうでもいいけど。」
「なるほど……そうだな、肩書きというのは悪くない。『勇者イブ』…それならユイ、君は? 片方にだけ肩書きがあるというのも納得がいかないだろう。さあ、なにかないか?」
「え……じゃあ……『全属性の魔法の使い手ユイ』とか?」
「すげぇセンスだなおまえ……」
「独特ですねー。」
「ElementMaster……素晴らしい……それでいこうか。さて、では俺はこれで失礼しよう。ギルドマスターは忙しい。」
雑に手を振って、アレスさんは奥に戻っていった。
「……結局なんだったの?」
「私も未だにギルドマスターのノリには困ります……。というところで、とりあえず現状では特にできることもすることも無いので、お待ちください。ギルドマスター曰く、ペガサスを楽に討伐できるレベルの冒険者が2人も現れたというのなら、それはギルドだけでとどめる話でなく、お城の方にも連絡を取る必要があると言っていました。」
「お城? ライズヴェル城のことか?」
「はい……あ、そろそろ時間が……ごめんなさい。私そろそろ今日のお仕事終わりの時間なんです。それと、あんまりおしゃべりしてると他の方にも迷惑なので、また後日でいいでしょうか? おふたりも疲れてるでしょうし、今日はここまでということで。」
「わたしもそれがいいと思います。」
(この人……休みちゃんとあったんだ……)
「ま、そーだな。ボクもそれでいい。ライズヴェル城下町も歩いてみたいし。じゃ、ボクは行くわ。じゃーな。」
「あ、うん……」
そう言いながら背中をこちらに向けて、歩いていってしまったイブ。なんかこうやって見るとかっこいいな……。
「さて……ユイさん。」
「はい?」
「ペガサスの討伐、本当にありがとうございました。ゲートすぐ近くまで来ていたということは、放置していたら他の冒険者の方に危険が及ぶ可能性が高かったわけです。」
「そっか……」
あんまり考えたこと無かったけど、この世界は……そう、常に危険と隣り合わせだ。マリアも少し言ってたけど、命を落とす冒険者も少なくないはず。だからきっと、わたし達がペガサスを倒したことで救われた命がある……はず。そう考えれば、わたしが憧れた『みんなを守る強いお姫様』にも、少し近づけたかも? なんてね。
「はい! お疲れ様でした! ……残念ながらこれによるランクの変動ありませんが、どうか今後も頑張ってくださいね。」
「そうします……お金返すんで………じゃあわたしも帰ります……」
今日は疲れた。帰ってすぐ寝よう。
なんと………………!
次回から第2章という扱いになります(だからなんだと)




