もしかしてすごい?
「…………ごめん」
謎の空気に耐えられなくて、ついついあやまる。
「別に謝ることじゃないだろ。ただお前が信じられないくらい無知ってだけだし。」
「……だ、誰にだって知らないことくらい……ありますわ!!!それに!!ペガサスをあそこまで容易く倒せるなんてさすがはユイ様ですわ!!」
(必死のフォローが辛い……)
それなら今すぐここで教えて欲しいところだけど、ペガサスの死体を前にしてそうもいかない。それに、どっちにしてもまずはギルドに帰って報告しないと。
「こいつどうすんの?放置?」
「ギルドに戻った後にペガサスを討伐したと伝えれば、すぐに専門の人達がくるはずなのでわたくし達にできることはありませんわね。……きっと驚かれますわ、ペガサスを倒したなんて言ったら……。」
「ふーん、そっか。じゃ帰るぞ、ユイ」
ペガサスの角を拾いながら、イブはわたしの腕を引っ張る。
「あ、うん。マリアもごめんね。……また明日でどう?」
「もちろん構いませんわ。……明日こそは約束を守るようにお願い致しますわ。」
「はい……」
ごめんね……
――――――――――――――
3人でゲートをくぐり、そのまますぐにギルドの受付に戻る。いつもの人いる。
「お疲れ様でした〜。マリアさんも御一緒……おや……ちょっといいですか? それは……」
受付の人はまっさきに、イブの持っていたペガサスの角に気が付き、イブから受け取り手に取った。
「これ、なんだと思う?」
イブはニヤッとしながら言う。わたしも表情こそ変えないけど、内心はそんな気分。だってマリアの話だと、狂獣は討伐こそ許されてるけど、強さ的な意味ではほぼ不可能だって……。
「珍しい角……ですよね。……狂獣であるペガサスのものに似てますけど、一体どんなモンスターのものですか? 少なくとも、今回の討伐対象のガルグイユのものではないですけど。」
「いや、いま自分で答えいったじゃん。」
「え? ……もしかしてホンモノのペガサス? 倒したんですか?」
受付の人は今度はわたしの方を見ながら、目を丸くして言う。
「あ、はい。それホントにペガサスですよ。翼が生えて、角の生えた白い大きい馬。マリア、あれペガサスでいいんだよね?」
念の為、マリアにも確認。これで間違ってたら恥ずかしい。
「そうですわね、間違いありませんわ。あのようなモンスター、他にいるはずがありませんわ。他に居ないからこそ、狂獣と分類されているわけでしてよ。」
「ほらな? ボク達別に嘘ついてないからな? あとこれ、ガルグイユの方の素材なー。」
ついでと言わんばかりにガルグイユを討伐した証もカウンターに提出物するイブ。でも受付の人はそっちには目をくれずに、ペガサスの角を手に取って眺めている。
「綺麗……これがペガサスの角なんですね……こんなに近くでじっくりと見たのははじめてですよ……!」
「ノーザンライトには狂獣なんて言われるモンスターいなかったし、ボクは凄さとかよくわかんないけどさ。」
角を眺めて嬉しそうにしている受付の人に対して、イブは冷たく言う。
「狂獣は……ゴールドランクの冒険者であろうとそう簡単には討伐出来ないんです。マリアさんなら知ってますよね?」
「ええ、運悪く狂獣に遭遇して命を落とす冒険者も少なくない……らしいですわ。実際、ゴールドどころかさらに上のランクの方でもかなわずに、大怪我をした……ときいたこともありますわね。」
(そんなに……)
じゃあそれをあっさり倒したわたし達……。
「と、とにかくだからこれは凄いことなんです!狂獣を討伐して帰ってきた人なんて私ぎ受付した中にはいなかったのでこういう時どうすればいいのかよくわからなくて……え、どうしましょうか!?」
「知らないです……」
やたらと焦ってるようで、受付の人はなぜかわたしにきいてくる。知らないよ。
「ていうかさー……声でかいだろ。ほらほら、見てみろって。」
「あっ……」
(あー……)
ペガサスを討伐した、という話をやたらと大きい声で言っていたせいで、ギルドの中にいる人たちの多くがこっちをみている。小声で何か話したりしてるけど、なんとも言えない気分……。
「……わたくし、今日のところは帰らせてもらいますわ……このように注目されるは得意ではありませんわ……ユイ様、明日こそは朝、街の入口でお待ちいただけると嬉しいですわ。では、ごきげんよう……。」
「あ」
「……逃げたな。ま、確かにあいつはなにもしてないからここにいても意味無いしな。」
(まあ確かに)
やたらと注目される中、マリアはギルドの外に出ていった。そして少し落ち着いたのか、受付の人がわたし達を見て言う。
「とりあえず……本来の目的のガルグイユの討伐は確認しました。これにより、イブさんは冒険者……『ブロンズ』の冒険者です。」
「あ?ブロンズ?なんでだよ!ガルグイユだけじゃなくてペガサスまで倒したんだぜ!もっと高くても……」
「……本来なら、ランクなしからスタートの所をブロンズからにしているのでどうかご理解を……決まりってそういうものなんです。ノーザンライトの勇者様なのはもちろん知っていますが、だからといって1人だけ露骨な特別扱いは出来なくて……。そもそも、最初からガルグイユの討伐という時点で本来ならありえないことで……これ以上無理を通すと色々と問題が……」
「イブの気持ちもわかるけどさ。ルール違反はダメなんだよ、多分。だって違反してもいいならわたしだってゴールドとかにすぐなりたいし。」
「チッ……なら我慢してやる。ま、いいさ。すぐにゴールドだろうがプラチナだろうがダイヤモンドだろうがゴッドだろうがなってやるからな!ユイもボクに合わせろよな!」
やたらと自信がたっぷりでニヤッと笑い、イブはわたしに言う。まあ、わたしの方が強いけどね。
「イブの方こそ遅れないでね。」
「……で、ですね。ペガサスの件なんですけど……私にはどうしようもないので、ギルドマスターを呼んできます!なので少しそこでお待ちください!すぐ戻りますー!」
そう言い残して、受付の人はカウンターの奥に消えていった。
「ギルドマスターとかいるんだ。」
「どーせおっさんか爺さんだろーな。」




