どんな相手だって
「……来た!」
わたし達が戦う意思を示したことを感じ取ったのか、ペガサスは一気に急降下してきてわたし達に向かってくる。そして着地をする瞬間に、大きく羽ばたいた。かなりの大きさの翼だから、突風が起こる。イブのマントも激しくなびいている。
「ペガサスったって所詮は馬だろ?」
「……普通の馬には翼も角も生えてないけどね。」
(それにこんなに大きくない)
目の前に来てわかった。これかなりでかい。普通の馬も人が乗れるくらいの大きさはあるけど、それよりさらに一回りくらい大きい。さらに翼だけじゃなくて、ユニコーンみたいな立派な一角も生えている。どうやら、わたしの知ってるペガサスとは少しだけ違うみたい。体毛は真っ白だからすごい綺麗だけど、威圧感がある。
「ボクは好きに動くからさ、おまえはボクにあわせてよね。」
イブはすぐにでも動けるように、ユニコーンの方を見ながら言う。
「わたしだって誰かに合わせるの苦手だけど……ていうかわたしの方が強いんだからわた」
「いくぞ!」
「あ、ちょっと!」
わたしの話を最後まできかずにイブは駆け出す。それと同時に、ペガサスも大きな声で鳴きながら、イブに突進をする。
(角が……!)
鋭利な刃物のように尖った角を向けてイブに突進するペガサス。とは言ってもやっぱり所詮は馬なのか、イブが横にかわすとそのまますぐには止まれず、駆け抜けてしまう。
「後ろががら空きだぜ!………熱き炎よ!聖なる光と入り乱れ無限の力を生み出せ!創世魔法『爆炎』!」
(……名前のセンスなぁ)
まあそれはいいとして。イブがそう叫ぶと、光り輝く火球が現れて、やっと立ち止まれたペガサスを包み込んだ。
「オラッ!!くらえ!」
その状態のペガサスに向かって一気に距離をつめ、イブは左手に持った剣を何度もふるった。炎に包まれて何も見えないけど、苦しそうなペガサスの雄叫びが荒野にひびきわたる。
「おい!なにボサってみてんだよ!おまえも戦え!………みろ、こいつはまだ………!」
イブは一旦ペガサスから距離取り、大きな声で叫んだ。
「うわっ……」
火が消えると、そこにはまだまだ元気そうなペガサスがいた。体毛は焦げて少し黒くなってるけど、目立った傷はない。イブはあんなに斬りつけてたのに……!?
「ユイ!そっちだ!」
「おっと!」
ペガサスはいきなりこちらを向き、突進……はしてこないで、角を天に向けて、何かをしている。
「ユイ様!」
その時、ゲートの方からマリアの声が聞こえた。
「ペガサスは太陽の光を角に集め、その光を放出する攻撃をしてきますわ!立ち止まっていてはすぐに標的にされてしまいましてよ!」
「なにそれ!!」
なにその太陽の光線。
(……太陽の光………それなら)
相手が光の攻撃をしてくるなら、相反する力……つまり、闇をもって対抗すれば勝てるんじゃ……?
「よし……来い!」
「おい!せっかくおじょーさまがお前のためにアドバイスしてくれたのに無視かよ!?」
イブは叫びながら、光を集めているペガサスの背後から斬り掛かろうとする……けど
「うぶっ」
「あ、蹴られた……」
(馬だもんね……)
イブは後ろ足で蹴りあげられた。絶対今油断してたよ。普通ならあんなミスしないでしょ。
「………!」
次の瞬間、ペガサスの角が直視できないほどに激しく輝いた。来る……!
「幻想的なモンスターの放つ光の攻撃………でもわたしの奈落の雷を前にしてもその力が出せるかな………!」
(さあ出て来て……わたしの中の闇!)
闇の雷、ということで右手に金属バットを持ち、高く掲げる。するとそこに黒い、漆黒の闇の雷が集まりだし、金属バットは禍々しい魔法の武器に変わる。
「お前……そんなことも出来んのかよ……!」
「さあいくよ!」
ちょうどその時、ペガサスは光のビームをわたしに向けて放ってきた。それならわたしは……それを打ち返す!!せっかくバット持ってるんだしさ!!
「ど真ん中ストレート!!」
禍々しい魔法のバットを全力で振り抜くと、放たれたビームは真っ直ぐにペガサスへと打ち返され、直撃した。ピッチャー返しってところかな?
「トドメはボクが!」
「あ」
うち返せたことに満足してたら、イブがペガサスにトドメの一撃と言わんばかりの攻撃を決めた。その攻撃で角が折れ、翼も欠けたペガサスは力なく倒れ、動かなくなった。
「ま、いいや」
(別にわたしはペガサス倒せればなんでもいいし)
バットの魔法も収まったから、背中におさめてからペガサスの死体に近くに行く。マリアもすぐに走ってきて、わたしに抱きついて言う。
「かっこよかったですわ!まるで優勝を決める一打かのような素晴らしさでしたわ!」
「なんで野球の概念ないのにその例え出てくるの?」
「……なあおじょーさま。こいつら……狂獣ってのはなんなんだ?普通のモンスターとはどう違う?」
イブは折れた角を見ながらマリアにきいた。その角は折れているのに、まださっきの光が残っているようにも見える。
「狂獣……ペガサスを始めとして、リヴァイアサン、サンダーバード、フェニックス……といった、既存の生物、モンスター……どの分類にも当てはまらない、異質な生き物達です。」
「………ん」
「なんだよ、どうした?」
「あ、いや………なんでもない」
(なんで………)
いまマリアが名前を上げたのは、いずれもわたしが元いた世界では空想上の生き物とされていた存在。異なる世界の空想が、別の世界で実在してる……ま、いいや。多分これはわたしが考えて答えが出ることじゃ無さそうだし。
「あ、でもちょっといい?」
気になることがあったの忘れてた。
「もちろんですわ。……ユイ様、どうかなされました?」
「あ、あのさ……モンスターと、それ以外の生き物って……どう違うの?そこの線引きというか……これはモンスターでこっちはモンスターじゃない、っていう区別……的な?」
「…………」
黙り込んでわたしを見るマリア。
「……マジか」
呆れたような顔でわたしをみるイブ。
「……………」
広い荒野で、狂獣ペガサスの死体を前に黙り込む3人。あー……これはもしかしてその歳でそれ知らないとかありえないだろ案件だったのかな………。
レビューとかファンアートとかに憧れながら日々生きてます。




