あなたとわたしの正義
「さっきから強い強いってお前……そういう問題じゃなねーだろ!いくら強くたってその魔法の使い方ができるわけない!」
イブは倒したガルグイユにも見向きもせず、わたしを指さして叫ぶ。
「出来るわけないって言われても……できたし。」
「そうだけどさ……でもおかしいだろ!だってアレは……かつての勇者イブが編み出した究極の魔法の使い方……それは同じ勇者であるボクにしか出来ないはずだ!現に、ノーザンライトや隣国のどんなすごい魔術師や賢者でもこれは真似出来なかった……なのに……」
「いや……そうは言っても魔法複数同時に使うだけでしょ?そんなに凄いことなの?」
実際、わたしが以前に氷と炎を同時に放った時、少しは驚かれたけどこんな風には言われなかった。
「違う……ただ同時に撃つだけならそれなりのやつなら確かにできる。でも……その複数の魔法を結合させることは普通じゃ絶対できない……消滅するか、暴発して使用者に被害が出る……。」
(そっか……)
同時に放出することと、放出する前に結合させるのは似てるようで意味合いが違うんだ。多分。知らないけど。
「勇者であるボクだけは自分の使える属性を結合させることが出来る……ボクのつかえる魔法は炎と雷……それから生まれ持った光の力だ。……お前は?」
最初の頃の元気は無くなり、ため息を着くようにわたしに問いかけてくる。
「光だけはちょっと上手く使えないけど、一応全部つかえる………」
「……なんなんだよ、お前。ライズヴェル領にそんな奴がいるとか……びっくりだぜ。」
軽く笑ったあと、イブは剣を鞘に収めながらわたしの横を通り抜けてガルグイユの方へ向かった。
「……間違いなく死んでる。キバと角と……皮でも剥いで持って帰ればいいだろ?」
「う、うん……」
「……なんだよ、もっと堂々としてろよ。お前はボクより強い……それはわかった。もう自分の強さを過信するよなこともしない……お前の強さも認めてやるし、今までのことも謝る……」
ガルグイユの体を剥ぎながら、イブは静かに言う。
「………」
「……なんてな!」
「え?」
イブは突然振り返り、楽しそうに笑みを浮かべてわたしに言う。
「確かにおまえが強いってのはよくわかった!一体どんな方法でその魔法を身につけたのかは知らねーけど、強いってことは理解した。だけどな!だからといってボクはおまえの言いなりになるつもりもないし、おまえより下だとも思ってないし、認めてやるつもりもない! ……それに、おまえはボクと組むんだろ!?」
「ま、まあね……」
(無理やりだけど)
「だったら!その強さはボクのために使えよな!ボクと一緒に戦って、ライズヴェル領だけじゃなくて世界全部を救う!それが勇者なんだから、おまえも協力しろ!いや、協力させてやる! だからふたりでゴットランクまでいくぞ!」
「………うん!」
(なんだ、いい顔じゃん……)
イブは人を馬鹿にする時のような笑い方じゃなくて、本当に楽しそうな笑顔をしている。口では言わないけど、きっとわたしの方が強いってことは本心で認めてくれているはずだ。その上で、それでもやっぱりプライドがあるのかなんなのか、上から目線は一貫してる。でも、良かった。イブがこんな子なら、わたしだって組んであげてもいい。ギルドに恩も売れるし(むしろこれが1番大切)。
「よし、じゃ帰るか。………ん、あいつ………おい、あそこ。あれみろよ。」
「………ん」
荒野の向こうの方。イブが指さした方にはラクダのようなシルエットの生き物がいる。多分モンスターかな? ラクダにしてはやたら大きいし、こんな所にラクダいないだろうし、そもそも角生えてるし。
「本で読んだんだ。あいつの角は高く売れるって。ついでだから倒して貰ってこうぜ!」
走り出そうとするイブ。でも、そのまま行かせる訳には行かないから手を掴んで引き止める。
「まって」
「なんだよ?おまえも金欲しいんだろ? 大丈夫だって、2人でちゃんと分けてやるからさ。」
「違うよ。今回の依頼はガルグイユの討伐だけ。許可も貰ってないんだし、関係の無いモンスターを殺すのはルール違反。ギルドのルール。」
「はー?」
イブは不満そうな顔をわたしにむける。
「わたしに文句言わないでね……知らないし。」
「なんでダメなんだよ!ノーザンライトならモンスターかいたら倒すぜ? それの何がいけないんだよ。あいつだっていずれは人を襲うかもしれないだろ? なら今倒すべきだぜ!」
「……たしかに目先だけならそうかもしれないけど、そうじゃない。わたしも最初は知らなくて驚いたけど……何でもかんでも倒してたら、生態系も狂うし、それが巡り巡っていずれはわたし達冒険者にも悪影響がある。ギルドもそう考えてるはずだし」
でもイブは納得しない。
「だいたいさ!さっきからギルドギルドって……ギルドってそもそもなんなんだよ!?ノーザンライトにはそんなもの無かったし、立ち寄った他の国にもみんな無かったぜ!ライズヴェル領だけだそんなおかしな組織があるのは!モンスターを倒すのに変なルールを決めて冒険者を縛るとか……ギルドはほんとに正義なのかよ!?」
「まって」
「あ?文句ある?」
「正義だとか組織の意義だとか、そんな難しい話わたしが理解できるとおもう????????」
「……無理だな。」
「でしょ?」
「でも納得はできない。現にノーザンライトの一部の地域なんか、モンスターと共存しようとして失敗した……その結果、その地域一帯が滅びたりもした。そりゃあ国がちがければ生息するモンスターも違うだろうから同列には語れないかもしれないけどさ、でもボクはノーザンライトの考え方の方が納得出来る!」
イブはどんどん熱くなって語る。
「そ、そんなことわたしに言われても……」
(でも……自分の考えがちゃんとあるのは悪いことじゃない)
実際、そう語るイブの目はいつもより真剣だし、顔も本気で……少しかっこよく見える。綺麗なキリッとした瞳をこちらに向けて熱弁するイブ……きっと、こっちの方がイブ本来の姿な気がする。
「……やっぱりおまえのことも、ライズヴェルのことも理解出来る気はしないね。言葉が通じて同じような生活様式の人達が住んでたとしても、考え方はまるで違う。……でも、ボクはおまえをボクに協力させてやる。心の広い勇者様に感謝しろよな。」
「そ、そう……」
「だけどな!ボクはあくまでもボクを貫く!ボクはノーザンライトの勇者だ!」
「あっ!?」
(油断した!)
一瞬の隙をつかれ、イブに逃げられる。振り向いた時にはもうモンスターのすぐ近くまで行っていて、次の瞬間……イブの剣が舞い、荒野に血が飛び散った。間に合わなかった……。
遠くで倒れたモンスター。その姿を呆然と眺めていると、少し返り血を浴びたイブが、手にツノをもって嬉しそうに帰ってきた。
「ほら、見ろよこれ!かなりでかくて丈夫だぜ!これなら……この国の相場とかお金価値は知らないけど、何日か暮らせるくらいの金額は手に入る……はずだ。おまえにも少し分けてやるから安心………なんだよその顔。言いたいことがあるなら言えよ。」
「……やっぱり無理。わたしはイブとは組みたくない。」
わたしの言葉をきいたイブは、せっかく手に入れたツノを地面に投げて言う。
「はぁ!? 今更それは無しだろ!? なんだよ、ボクがあのモンスター殺したことがそんなに気に入らないのか!?」
「当たり前じゃん!あのモンスターはただここを歩いていただけなのに……そりゃあ正式に依頼がきたら躊躇うことなく討伐してもいいけど……今はダメだよ!」
(そうだよ……モンスターだって生き物だよ。)
別にわたしは普通に動物やモンスターの肉食べるし、必要があれば討伐だってすると思う。でもそれは必要だから、生きるため、自分たちを守るために必要なもの。それに、そもそもギルドのルールだし。
「でもさー、ボクはこのツノが欲しかった……必要だったんだよ。それなら別に良くない? 意味の無い殺しじゃないよね?」
「……それは今回偶然そうだっただけじゃん。だってイブはモンスターがいたら殺してたんでしょ?」
「うん。だって危ないだろ?その時点では子供だったり、温厚な時期かもしれないけど、そのうち人間を襲う可能性があるなら殺しておくべきだ。」
「じゃあその理屈なら人を殺す可能性がある人間だってみんな殺さないとじゃん!!」
「おいおい……どんな極論だそれ。人を殺しちゃいけないなんてのは最低限のルール、それくらいはボクだってわかるぜ。」
イブは当然のように言う。ルール……その通りだよ。だからこそ。
「そう、ルール。モンスターを意味もなく殺しちゃダメなのもギルドのルールじゃん。それは守らないの? そんなのダブルスタンダードだよ。」
「残念だけど、ボクはこの時点ではまだギルドに所属してない。それならギルドのルールなんてやつを守る必要は無いよね?」
得意げに、まるで言い争いに勝ったかのような表情で言うイブ。でも残念。わたしにはまだ武器があるよ。
「……ライズヴェルの法律。」
「あ?」
「『ギルドに所属しないものの独断によるモンスターの討伐を禁ずる』……ギルドに所属してる人が勝手にモンスターを討伐したらギルドの処罰だけで済むけど、所属してない人は……国から裁かれる。イブ、ギルドに所属してないのにモンスター討伐したよね??? あーあ……」
「なっ!? そんなのはきいてない!! それにボクは勇者だぞ!そんなルール……」
「その理屈なら……勇者は人殺ししてもいいってことになるけど?」
(勝ったね……論破したでしょこれ)
もはや最初の議題がなんだったか忘れたけど、これはもう完璧な反論。わたしの勝ち。
「……ああ、そうかもな。」
「へ?」
「だった今ここでおまえも殺してやろうか?」
イブは剣を抜き、魔法を手に纏ってわたしを睨んでいる。炎の魔法で巻き起こる微風で髪が揺れるイブは普段よりさらに圧がある……。
「ちょ、ストップストップ!なんでそうなる!?見境なしの狂戦士じゃん!?」
「……嘘に決まってんだろ。」
イブはつまんなそうに言う。
「だ、だよね〜。あ、ちなみにさっきの法律の話は嘘だよ。ていうかわたしもライズヴェルの法律とか知らないし。」
「………マジでなんなんだおまえ………ふっ……ま、いいや。」
「なに?」
少し笑みを浮かべて、イブはわたしに手を伸ばして言う。
「ボクの考えは変わらないし、おまえのことを理解するつもりもない。そしてもちろん、ボクのこの考えをおまえにも押し付ける気もないし、理解させる気もない。それでも……ボクはおまえの力が欲しい。ボクだけしか使えないと思っていた勇者の力を当然のように使う、アホみたいなおまえの力……。だから、ボクに協力させてやる。」
「イブ……」
(これでいいのかな……)
きっとイブも、これ以上言い合ってもお互いに絶対に理解し合えないって思ったんだ。それはわたしも同じ。だからイブの出した答えは……『お前のことはわからないし理解しない。おまえもボクのことを理解しなくていい。だけど、それでも一緒にいてやる』か。……とんだツンデレさんだぜ………やれやれ。
(とは言っても、わたしもイブの考えは確かに認められない。いつか絶対わかってもらいたけど……どうだろ)
「よし、それじゃ帰るか。」
「うん、そうだね」
今は考えても仕方ない。納得できないことも沢山あるけど、ひとまずはイブに協力してあげようかな。あと多分、イブがいきなりこんな風に(つまりデレた感じに)なったの、わたしの例の能力の影響もありそうだし……。しばらく観察。




