勇者って
ギルドへ戻るまでの間も、イブは無言だった。不機嫌なのかどうなのかもよくわからない。そんな空気のままギルドの中へ入り、受付の所へ行く。
「あ、おかえりなさい〜どうですか?話は終わりましたか?」
イブはその質問には答えずに、受付の人に言う。
「依頼受けたいんだけどさ、なんかいいのない?」
「依頼?まずはこの国での冒険者登録のために簡単な依頼をひとつ受けて……」
「簡単な依頼なんかボクが受ける必要無いだろ?その辺の有象無象の冒険者にでもやらせとけよ。…いいよ別に、ランクは最低からのスタートでも構わない。でもそれとは別に、難しいやつ……危ないモンスターの討伐の依頼とか受けさせてよ。こいつ……ユイと2人で行くからさ。」
「え、でも……」
「なんだよ、文句あんの?わざわざ遠い国から来てやって、ライズヴェル領に出現したヤバいやつを倒そうとしてる勇者様にも、そんなくたらないルール押し付ける気?だったら勝手に死ねばいいじゃん。ボクもう帰ろっかな〜?」
「ちょっと!そんな言い方……!」
(さすがにこれは……)
黙って見てたけど、見過ごせない。ずっと思ってたけど、イブの態度は全然納得できない。何でもかんでも自分基準で、すぐに人を馬鹿にしたりルールを無視しようとしたり……子供じゃないんだからさ………!
「……わかりました。それではこちらの依頼てどうでしょうか。本来ならこのようなことは絶対にしないのですが、今回は……勇者イブが対象ということなので、特例とします。ただし……もしも失敗した場合は」
『失敗した場合』と受付の人が言った途端、話をさえぎりイブが口を開く。
「失敗した場合?そんなこと考えなくていいって。ユイが相当足引っ張ったりしない限りはボクが負けるなんてことないし。負けたらユイのせいだからこいつに責任とらせればいいし。」
イブはカウンターに手を付き、さも当然のような態度で言う。
「……ユイさん」
受付の人はなんもとも言えない顔でわたしを見ている。いや、そんな申し訳なさそうな感じだしてるけど、元はと言えばあなた達がわたしを紹介したことが原因ですよ。
「大丈夫、わたしなら平気。それで、どんなモンスターなの?」
「はい、討伐対象は『ガルグイユ』……巨大なコウモリと龍を合わせたようなモンスターです。体は龍のようですが、翼はコウモリで、超音波を放つことも出来るといいます。本来ならばゴールドランクが対象のモンスターです。」
(……もともと龍の翼ってコウモリっぽい気がするけど)
それって超音波つかえる龍じゃん。いや、普通に危ないとは思うけどさ。
「ふーん……ゴールドね。ならそれでいいよ。で、ボクはもういつでも行ける準備は出来てるけど、ユイは?その背中にある変な金属の棒が武器なの?」
イブはわたしの金属バットをみて笑いながら言う。
「そうだよ。…………わたしもいつでもいける。で、場所は?」
「はい、場所は……ここから南西に向かった場所にある荒野です。馬車で1時間ほどかと。」
「なんだよ、馬車で移動?転移の魔法とかないのかこの国は?」
イブの嫌味っぽい問に、受付の人は言いにくそうに答える。
「ありますけど……その」
(あるんだ……)
「ん、なんだよ?」
「転移の魔法は誰でもどこでも使えるものではなく、ゲートというものを介して決まった場所から決まった場所への移動でのみ使えます。もちろん、今回の目的ちへの転移ゲートもありますよ。でも……お金がかかるんですよね〜使用するのには。」
「……いくら?」
「往復で4000ルピアです」
「……ユイ、後でお前が払っといて。」
「え!?」
いやお金ないし。と思ったら
「ユイさんの返すお金に追加しとけばいますぐつかってもいいですけどどうします?」
「………もうそれでいいよ。行こ………」
ということで移動時間とイブの機嫌と引替えに、わたしの借金また増えました。
「はーい!それではこちらにどうぞ」
ギルドの裏に通されると、そこにはたくさんの門のようなものがあった。ここを通ると指定の場所まで一瞬で行けるらしい。つまり、向こう側にも門があるってことだから、ギルドの管理下にある土地にしか行けないってことだね。
(………あ、マリアのこと忘れてた)
ゲートに入る直前。本来なら出かける予定だったから、街の入口で待ってるはずのマリアのことを思い出した。マリア、約束とかにはうるさそうだから後でちゃんと謝らないと……ごめん。
―――――――――――――――――
「おぉ……ほんとにワープした」
一瞬にして、わたし達は荒野にいた。後ろを見ると同じようなゲートがある。帰りはここを開いてくぐればいいみたい。
「こっからなら歩いてるうちにすぐ見つかるだろ。見つけたらすぐ言えよな。」
「うん」
イブはもう既に剣を抜き、左手に持っている。さっきまでとはすこし雰囲気が違く感じる。戦闘モードってこと?
特に話すことも無く、イブと二人で無言で荒野を歩く。広くて遠くまで見えるけど、モンスターらしき姿はない。もっと遠くにいるのかな……と思ったその時。
「……止まれ」
「………ん」
イブに言われて立ち止まる。なんとなく気配を感じて、上を見ると……いた。
「うお……」
「ガルグイユ……か。まあ悪くないな。」
ガルグイユ。思った通り、ほぼ龍。ぜんぜんコウモリ要素ない。大きい黒いトカゲみたいな体に、コウモリの翼。牙とか爪もしっかり生えてる。まさしく西洋の龍、ドラゴンって感じ。かっこいい……とか言ってる場合ではなくて。
「お前の強さを見たいところだけどさ……まずはそこで待ってろ。最初にボクの強さを見せてやるぜ……嫌になるほどにさ!!」
そしてイブは剣を構えて走り出す。それと同時にガルグイユもイブに気が付き、急降下して地面スレスレを滑空してくる。
「巨体の割には素早い動き……でもそれがなんだってんだ!ボクの前じゃお前なんてトカゲ未満だぜ!!」
イブは滑空してくるガルグイユを足場にして飛び跳ね、落下しながらガルグイユのしっぽに剣を振り下ろす。そのまま剣は尻尾を切り裂き、血が飛び散る。
「………確かに強い」
口だけじゃない。自分に対して向かってくるモンスターを踏み台にしつつ、素早く動く尻尾を確実に切り裂くなんて、そうそうできない。もちろんわたしは無理でーす。
尻尾をやられたガルグイユは苦しそうに喚きながらも、イブの方をしっかりと見据え、今度は炎のブレスを吐き出した。
「うわ、ブレスまで………」
「炎が相手ならこっちも見せてやるよ!くらえ!ボクの炎の方が何倍も熱いぜ!」
イブは剣を持っていない右手をガルグイユの方に向け、そこから炎の魔法を放った。その魔法はブレス諸共飲み込み、そのままガルグイユを包み込む。
「すご……」
でも、さすかは自分で炎を吐くモンスター。かなりのダメージを受けつつも、その炎のなかから現れ、まだ戦える意思があるかのように大きく鳴いた……耳が痛くなる。
「ふーん、また元気か……じゃあそろそろ見せてやるさ……ボクの、ボクだけに与えられた勇者が勇者たる所以の最強の魔法!ユイもよく見とけ!これを見ればもう二度とボクに舐めたくちなんてきけないだろーからな!」
イブはそう宣言して、まずは右手に炎の魔法で作った火球をだす。
(なにをするき……?)
「さあここからだぜ……火炎よ……雷鳴を纏い新たなる力を創造しろ……!創成魔法『紫電』!」
なんだか訳わかんないことを叫ぶイブ。すると直ぐに、てもとの火球は電気を帯び始め、見たことの無い魔法に変わった。電気を纏う火球……つまりそれは……
「2つのエレメントを混ぜて新しい属性に……?」
「理解力だけはあるじゃん。そうさ、これが勇者のボクだけに世界が許した秘術!複数のエレメントを同時に発動させ、消滅することなく結合させる……そして新たなる魔法を作る!さあ喰らえ!『紫電の裁き』だ!」
イブが手を振ると、電気の火球は一直線にモンスターに飛んでいき、直撃した。雷を纏った巨大な炎がガルグイユを包んでいる……!
「ふん……どう? これみてもまだ、おまえは自分の方が強いなんて言えるの?」
「これは……」
確かにこんなの初めて見たし、こんなことが出来るなんてのも知らなかった。魔法のことを説明してくれたマリアやエルザも言ってなかったから、概念として存在すらしてなかったのかもしれない。イブは得意げな顔でわたしみている………でも多分さ……これ……
(モンスターはまだ生きてる……)
「さ、ボクの番はこれで終わりだ。もしこれを見てもまだお前にやる気があるなら、あとはおまえがやればいいさ。どうする?」
「……イブ。みてて。」
「あ?なんだよ?」
「まずは炎……」
いつも通り、手のひらに火球を呼出す。これは慣れたもんだね。
「……なんだよ?そんな魔法、子供だって使える。」
「そこに雷……」
ウナハク相手に初めて魔法を使ったあの時も、2つのエレメントを同時に出せた。あの時は知識も何もなくて適当かつ、相反するエレメントを同時に放出させたから消滅した……けど、今なら……
「……でた! いける……!」
「お、おい……」
わたしの左手には火球、そしてそこにさらに雷の魔法を呼び出した。……そしてそこに生まれたものは……
「雷を纏った火球……イブと同じだ!」
「はあ!?な、なんでお前それ…!?」
イブはわたしの顔と左手を交互に見て、初めて焦ったような顔をわたしに向ける。ふふ……そうそれそれ! イブのその顔が見たかったんだよ!
「ふっ……だから言ったでしょ?わたしは強いんだよ……いけ!『紫電一閃』」
わたしが放った魔法は苦しそうにしていたガルグイユに直撃し、雷鳴と火炎がガルグイユを襲う。でもまだ生きてる……それなら次は!
「イブ! わたしも本気出せるかも!みててね!」
「や、やってみろよ!」
「炎と雷と闇……そして風もまきおこれ………!」
わたしの思いに答えるかのように、わたしの手には4つのエレメントの力が現れ、混ざり合う。本当は光も使いたいけど、何故か光の魔法はまだ上手く使えないから………。
「いけ……!四宝石の裁き!!」
もはやそれがなんなのかすらもわからないような魔法の塊は、轟音と共にガルグイユに直撃、そして大爆発を起こす。煙の晴れた後にはピクリとも動かなくなったガルグイユの死体……終わったね。
「どう?」
後ろを振り返り、イブの方を見て笑う。対してイブは悔しそうとも、怒ってるともなんとも言えないようなかおでわたしをみていた。
「……マジかよ。なんでおまえが……」
「ふふ……強いからね、わたし。」




