勇者覚醒?
もちろんイブも百合ハーレムに
「そうさ、ボクは勇者……お前だってきいたことぐらいはあるだろ?ノーザンライトの勇者の伝説。ライズヴェルの図書館にも置いてあるって話だぜ。」
イブ……と言われた女の子は、得意げにわたしに言う。でも……
「ご、ごめん……知らない……」
「は?」
「え、ユイさん知らないんですか!?遠い国とはいえ、ノーザンライトの勇者伝説はライズヴェルでも有名……というより、世界中で有名なのに!」
「お前マジでいってんの?ノーザンライトの勇者伝説……おお昔に、たった1人でその地に住まう、数多の邪悪なモンスターを倒してノーザンライトの国を築いた最強の戦士の話……知らない奴とかいるの?」
「ほ、ほんとに知らない……ごめん」
(そんなに有名なんだ……)
世界史みたいな感じで、知ってるのが常識?たった1人で国を作った最強の戦士とか、紀元前のローマやギリシャにもそんな人いなかったはず。どれだけ強かったんだその勇者さん。ってまあ、わたしの世界の基準で語っても意味ないか……。
「だったら教えてやる……とその前に。ここで話したら邪魔だよな?」
イブは受付の人に確認をとる。意外としっかりしてる。
「ですね〜。今は人が少ないですが、多くなると邪魔だと思われるかも知れません。……裏に部屋があるのでそちらにしますか?イブさんが普通にテーブルの方の席にいると目立ってしまいますし。」
「んー……なんか微妙だな……よし!決めた!ユイ、お前の家連れてけ!そこで話してやる!」
イブはわたしを指さしてとんでもないことを言う。
「えぇ!?わたしの家!?」
「ああ、文句あるか?」
「な、ないです……」
色々言いたいけど、睨むようにこちらを見られると何も言えなくなる。なんとも言えない威圧感がある……これが勇者?
「それじゃあ、お話が終わったらまた来てくださいね。色々準備もあるので〜それでは!」
受付の人も特に止める様子もなくわたし達のことを送り出す……今更拒否も出来ないし、しょうがない……連れてこう。
――――――――――――――
道中、何か言われるかと思ってたけど、イブは街を見回して一人でなにかをつぶやくだけだった。
「ついたよ、ここがわたしの家。」
幸か不幸か、家に着くまで誰とも合わなかった。エルザあたりには会いたかった気もするし、マリアやリズとはあわなくてよかった気もする……。
「ふーん、ここか……ま、おまえらしい感じなんじゃない?ボクは住みたくないけどさ。」
「………」
(なんなの、その態度……)
ムカつく。勇者だかなんだか知らないけどさ、そんな態度はないよ。わたしだって強いけどさすがにそんなに態度とらない。
「何ボサっとしてんだよ、早くこっち来て。」
イブはもう馴染んだ気でいるのか、わたしのベッドに座っている。………………。
「はいはい……。」
自分の家なのに、何故か招かれて入る。イブの近くに椅子を持っていき、向かい合う形で座る。
「……さて、と。無知なお前に教えてやるよ。ノーザンライトの勇者の伝説……それから、ボクがどんな存在なのかをさ。」
「どうも……。」
(そんな話知りたくないし……)
別に異国の歴史なんて知らなくたっていいのに。わたしがこの世界で生きるのに必要ないと思う。でも、そんなこと言えない。だって怖いし。ヤンキーじゃん。こえーー。
「さっきも言ったけど、ボクの出身はノーザンライト……ライズヴェルなんかとは比較にならないくらいの大国だよ。歴史も全然違う。ていうか、アルカディア歴はノーザンライトができた年を0としてカウントが始まってるわけ。つまり、ノーザンライトこそが世界の中心なのさ。」
(西暦がキリストの……ってのと同じ感じなのかな)
「かつてその地は何も無かった……いや、違う。邪悪なモンスター達が巣食う魔境だったんだ。とても人は住めない、どころか1歩でも入ったら死ぬ。お前みたいなやつじゃあ5秒ももたないんじゃない?」
「……」
「でも、その地に踏み込んだ、どこから来たかもわからない無謀なバカがいた。そのバカこそ勇者……『イブ』さ。」
「イブ?同じ名前……」
この子の名前もイブ……イブ・アイテール。
「ああそうさ。ボクの名前はその勇者と同じだ。偶然じゃあない。ボクが勇者だからこそこの名前なんだよ。はじまりを意味するこの名前は……」
「?」
「お前に言ってもわかんないよな。まあそれはいいとして……その勇者はたった1人で、数多の邪悪なモンスターを同時に相手にして、自分は無傷で、モンスター全てを殺した。そしてその地にノーザンライトを建国した。その国には勇者の名の元にたくさんの優秀な奴らが集ったんだぜ。だからこそ、今この時代にまで続く大国になれた。ライズヴェルなんかじゃ比べるのもあほらしいくらいにな。」
(いちいち人を馬鹿にするようなことを……)
ベッドに座って、わたしを見つめながら喋るイブはどうにも、嫌な奴って感じしかしない。
「でも勇者と言えども人間だ。寿命が来れば死ぬ。だから死の間際、次の王を決めるのと同時に、世界が勇者を必要とした時に、その時代に勇者が誕生するようにしたんだ……そして今のこの時代、世界は勇者を必要とした!その結果生まれたのがこのボク……勇者イブ・アイテール!! どうだ、わかったか?」
「えっと……イブはその当時のイブの血を引いてる訳では無いの?」
「当たり前だろ?だってもしボクがその血を引いてたら、ボクは王族ってことになっちゃうじゃん。王族が前線に出て戦うわけが無いだろ?お前バカかよ」
「……」
(わたしの憧れたお姫様全否定……!)
そしてイブは立ち上がり言う。
「でさ、じゃあ世界はどうして勇者を必要としたのか……なんでだと思う?」
「勇者ってことは……倒すべき闇の存在が世界に出現した……とか?」
「んー……倒すべき存在がいるってのはあってる。闇とかは関係ないけど。」
思いのほかわたしの答えが近かったのか、イブはすこし戸惑いながらも言う。
「ここ、ライズヴェル領……その最北にある霊峰『ベルズバイン』……そこに邪悪な存在が生まれた。あれは放置しておいたらいずれは世界を壊す悪魔のようなものになるんだ……。」
「な、なにそれ……」
(ライズヴェル領って……)
この国にそんなものが……確かに、遠くに山があるとは思ってたけど……。
「本来ならとっととそこに行きたいんだけどさ、ライズヴェルの王族達は頭が固い。ボクが勇者だと知りながら、『あの山にいくにはゴッドランクにならないと許可できない』とかいいやがる。たしかに時間的にはまだまだ沢山猶予はあるさ。でも……無駄だろ。ボクは勇者で、強いんだから。きいたはなしだと、ゴッドって最高ランクなんだろ? めんどくさいったらありゃしない。」
不機嫌そうに、半ギレで喋るイブ。こわい。
「高いランクのやつに同行してもらって高いランクからはじめるってのもできるらしいけどさ、誰に頼んでもほとんどのやつが断るし、やっと来てくれるやつがいると思ったら、ボクの容姿しか見てないような……下心丸出しの気持ちわりぃ男ばっかりさ。ばーか。誰がそんなやつと行くか。」
(……確かに、外見は悪くないけどさ)
若干ボーイッシュ感ありで、まあ綺麗でかっこいい感じ。ただ性格がね……。
「で、わたしがどう関係するの?」
「ギルドの奴に言われたんだ。ユイってやつと組むといいって。確かにボクは一人よりは2人の方がいいとは思うさ。でもなんでだよ? お前みたいなやつとボクが組むメリットとかあるか?ランクもブロンズなんだろ?」
「うーん……」
(考えられる可能性は)
多分あれかな……。誰かと組みたいイブだけど、性格地雷すぎるから誰も組みたがらない……けど、わたしなら?クソ多額借金のわたしなら、ギルドから頼まれたら断りにくいし、もし借金少なくするとか言われたらわたしだって多分、喜んでうけるし。組むよ。ただ、それを素直にイブにいってもどうせ怒る。それならいっそ……
「理由……理由ならあるよ。」
「ほーん、言ってみろよ。」
イブは疑いの目でわたしを見つめている。だったらわたしは自信を持って……!
「ギルドの人も言ってたじゃん。わたしは強いって……そう、嘘じゃない。たしかにランクは低いけど、それは理由がある。ホントのわたしの強さはゴールド……いやもっと上かもしれない。いいよ別に信じなくても。でも……多分わたし、イブより強いけど?」
(さあどう来る……)
「おい……」
イブは低い声で一言いい、わたしに顔を近づけてきて続けて言う。
「言うなあ……おまえがボクより強い?あのな、ボクは勇者……あの勇者の力をひいているんだぜ。世界中探したってボクより強いヤツなんてそう簡単にいるわけないだろ!? 自分の強さに自信があるのは結構だけどなぁ……あんまり舐めんなよ?」
(わかりやすい……)
挑発にのりやすいタイプ……!
「ああわかったぜ!お前と組んでやる!ただもしおまえがボクより弱かったら……覚悟しとけよな。依頼でも何でも受けてみて、とっととお前の強さをボクに示してみろよ。」
鋭く睨んでくるイブ。少し怖いけど、大丈夫……わたしは強い。
「うん、いいよ……じゃあギルドに戻ろっか。」
「……大した強さも示せなくて、無様なお前の姿を見るのが今から楽しみだな。」
わかりやすい前フリ……(?)




