そういうのもあったんだ
昨日は更新なくて申し訳ないです
ちょっと不安だったけど、森からは直ぐに抜けることが出来て、誰かに見つかることもなかった。スティアの件で、オーリン教会に行こうかとも思ったけど……
(普通に考えて、その宗教の人相手に『女神スティアと出会った』なんて言ったら……怒られるなんてことじゃすまないよね)
それが真実か嘘かなんてどうでも良くて、それを言うこと自体が冒涜になる気もするし……少し気になることもあるし、まずは家に帰って考えたい。少し日も傾いてきて、お腹も空いた。
(……お腹も空いた……けど)
色々食べたいけど、そんなにお金もない。だから今は、草とる依頼のときに許可をちゃんととった上で、ついでに取っておいた食べられる草を家に保管して、食べている。なんて悲しき異世界生活。栄養はあるんだよ……栄養はさ。
「ただいま」
家に戻り、誰もいない室内に向かって挨拶。これはもうルーティンだね。ついつい言ってしまう。
「よし……」
まずは『爆速でたまるお風呂』の用意をする。まじでこの蛇口から出てくる水量狂ってる。水圧で人殺せるんじゃないの?
溜まるまでの短い間に、髪のリボンをとって、ツインテールをほどく。元の世界で生きていた頃は考えられなかったこの髪も、少し慣れてきた。現実でこんなことしてたら痛いやつだよね。
「もうたまってるじゃん……」
わたしが髪をほどくあいだにもうたまってる。おもしろ。
「ふぅ……」
ぬる過ぎず熱すぎない、長く入るのにはちょうどいい温度のお湯に浸かり、スティアのことを考える。いや、正確にはスティアの言っていたことか……。
(スティアが女神なのは多分ホント……じゃないとわたしの事はわからないし。それを前提として……人の祈りから女神が生まれた……これは……)
やっぱり逆。オーリン教が何かの理由で『原初の炎を灯した創成の女神スティア』を祈って、それが人々に広まり、その結果スティアが生まれた。なのに、オーリン教では『初代のフィリアと呼ばれる人物が女神スティアの信託を受けた』ことがオーリン教の始まりと言っていた。別にエルザやフィリアさんを疑いたくなんてないけど、女神が嘘つくとも思えない、思いたくないし……どっちも疑いたくない。
(でも……両方の言ってることが同時に成り立つのは不可能だし……)
オーリン教のことが嘘だとするなら、どうしてそんな嘘をつくのか、やっぱり裏に何かあるのか……って思っちゃうし、スティアが嘘をついているなら、女神ですら嘘をついて人を騙そうとするなんて嫌な世界……なんて思っちゃうかも。それに、そんなことしてスティアになんの得が?
(ダメだ……わかんないや)
だいたい、わたしは難しいことを考えるのは苦手だし。勉強も出来ないし、本読むのも苦手。ゲームは好きだったけど、難しい謎ときなんて出来ない。そんなわたしが考えたところで、何もわからないよ。今のわたしが考えるべきなのは自分の借金のことだけでいい!
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お風呂からあがったあとはすぐ寝た。草食べたけど、その後すぐ寝た。
そして朝起きると、玄関のドアになにか挟まっていた。挟まっていた紙を抜いてみるとなにか書いてある。
「『ユイさんへ 大切な用事があるのでこれを見たらすぐにギルドへお越しください』……え、こわ……」
眠気も一気に吹き飛ぶ文面。こんな呼び出し、嫌な想像しかできないでしょ。
(でも無視するのもなぁ……)
無視したら余計面倒なことになるのは目に見えてるし、行こう。そうと決めて、すぐに家を出る。
(用事ってなんだろ………)
ギルドへの道を歩き色々考える。考えるほどに足取りは重くなって、いつもの同じ道なのにやたらと時間がかかる。
(借金の話かな……)
正確には確認してないけど、当然全然まだまだ残っている。草取ってるだけじゃあ、いつ返し終わるかわかったもんじゃない。幸い、ランクはあがったから、次からはもう少しましなものも受けられるはず……。
(ついた)
ギルドまでは、一日に数回とか、それなりには往復した慣れた道なのにやたらと時間がかかった。
「あ、来ましたね。まってました。」
中に入ると、受付にはいつもいるひとがまた今日もいる。この人休んでなくない? やっぱりアリスがいなくなったから?
「用事ってなんですかね?」
気のせいかもしれないけど、店内には人が少ない。
「それはですね………」
受付の人がなにか言おうとした時、それより早く背後から声がした。
「………お前がユイ?」
「ん」
振り返ると、見たことない子がいた。
紫色の髪………の女の子。その紫色の髪は割と短めで、耳が隠れるくらいの長さで肩にギリギリ届くかどうかくらい。前髪は綺麗に流れている。わたしがこの世界で出会った女の子の中では1番短い。服装はこの街では見かけないような服を着ていて、なんかマントつけてる。腰には剣もある……冒険者かな?
「おい、なんだよ……黙ってジロジロみて。なんか言えよ」
「うわ…ヤンキー?」
「あ?」
「こわっ……」
「おまえユイだよな?」
女の子はジロっとわたしを睨んでいる。こわー。
「う、うん……ユイだよ。一応ブロンズランクの冒険者。」
「ブロンズランク……ってあれだろ?かなり下の方の雑魚ランク。」
「返す言葉もない……」
色々言い返したいこともあるけど、雰囲気に気圧されて何も言えない。そうそう、これこそわたしっぽいんだよ。元の世界にいた頃もピアス付けてたり、金髪に染めてる人見ただけでビビってたし。思い出してしまった、弱かった頃のわたしを………ふっ……。
「おい」
「な、なに?」
「………なあ、ホントにボクはこいつと組むのか?」
女の子はカウンターの方を向き、受付の人に話しかけた。
「そうですよね〜。嫌ですか?」
「別にそうじゃないけど……なんか、どーみても弱そうじゃん。ランクは低いけど実は強いとか、そんなのほんとにあるのか?」
「ユイさんはたしかにブロンズランクですけど、強いと思いますよ。色々あってランクは下からのスタートですけど、多分強いと思います。」
「あぁ?」
「いやそれはどうかな……わたし多分そんな強くないよ……うん」
「だろーな、ボクもそう思うし」
(いやいや、いつもの自信はどうしたわたし!)
女の子は受付とわたしの方を交互にみて、何か言いたそうな目をしている。ていうかさっき……
「あの……さっきいってた組むってなんですか?それが用事……?」
受付の人に聞いてみると、少し意地悪そうな笑顔でこたえる。
「そうですよ〜!詳しいことは後でまとめてお話しますけど、この方は『イブ・アイテール』さん……ライズヴェル領から遠く離れた、山も海も超えた場所り存在する歴史ある王国『ノーザンライト』から来た……勇者様なんですよ!」
「ゆ、勇者……?」
なに、この世界にもそういう概念があったの?




