虹の結晶
「………ふふ、」
めちゃくちゃ顔を近づけて、ソフィアさんが何かを言おうとした時、店の入口のドアが開いた。そして
「そうでしたわ!ソフィアさん、わすれ」
「あ」
「あら」
「……また来ますわね。」
「待って!!」
(とても誤解された気がする!)
慌ててマリアの腕を掴む。するとマリアはなんとも言えない表情で言う。
「わたくしはユイ様のことを邪魔する気は全くありませんわ。もちろん最終的にはわたくしがユイ様の隣りにいられるようにするつもり……ですが、1番はユイ様の意思を尊重いたしますの。」
「なんかいい感じのこと言ってるけど違うから!ちょ、ソフィアさんも何か言ってくださいよ!」
(ていうかあなたのせいなんですけど)
「うーん……特に言うことはないかしらね……。」
ソフィアさんは拗ねたような顔で言う。
「……そ、そうだ!マリアはなんの用!?なにか忘れてたの!?」
「……ソフィアさんに言い忘れていたことがありましたの。わたくしの魔法武器についてなのですけど」
「ん、なにかしら?」
ソフィアさんは一瞬にして笑顔になり、お仕事モードになった……なんなんだこの人は……
「先程申し上げたとおり、あの武器は異国の地で作られたものですわ。それ故に……希少な素材が使われていること、という大切なことをお伝えするのを忘れていましたわ。」
「あら……たしかにそれは無視できないポイントよね。もし修理箇所とかあったら、必要になるかもしれないものね。」
「その素材は『レインクリスタル』……ですわ。その国では一般的に使われる素材とききましたわ……しかし……」
(レインクリスタル……)
知らない名前だ……鉱石っぽいけど。この世界特有の結晶かな?
その『レインクリスタル』の名前を聞いたソフィアさんは、少し驚きつつもいう。
「それはまた……厄介なものよね。ライズヴェル領でも取れるには取れるけど……結構遠くの、海の近くの洞窟でしか取れないはず……。」
「……『虹の海』と呼ばれる場所ですわね。わたくしも本では読んだことがありますわ。……ユイ様はご存知……なくても仕方ありませんわ。」
「うん、知らない。」
「ちょっとまっててね」
すると、ソフィアさんはカウンターの奥に行き、すぐに戻ってきた。手には綺麗な鉱石を持っている。
「それがレインクリスタルですか?」
「これは違うわ。これは虹の海の浜辺に落ちているただの石よ。虹の海は絶えることなく虹が掛かり続ける神秘の海……そこに流れ着くものはみんなとても幻想的で綺麗なの。そんな海のすぐ近くにある洞窟の奥に、レインクリスタルはあるの。……でも」
「その洞窟はモンスターにとってもいい餌場となっているのですの。だからとても危険で、シルバーランクとして経験を積んだ冒険者以上でないと行くことが許可されていませんの。」
「へぇ……」
(じゃあわたしには無理だ)
「さすがに私もレインクリスタルの蓄えはないわね……どうしようかしら?」
綺麗な石をしまいつつ、ソフィアさんは言った。それに対して、マリアはゆっくりと言う。
「……ユイ様。」
「え、わたし? なに?」
「ライズヴェル城下町から西にある程度行った場所にある街……『メンゼル』に一緒に来ていただけないでしょうか?」
「え?」
突然の提案にそれしか言葉が出てこなかった。でも、ソフィアさんにはその意図が伝わっていたようで、明るく言う。
「いい考えね。あそこならきっとなんとかなると思うわね。」
「なんの話し……」
「それはまた後で説明いたしますわ。明日の朝、街の入口に来てくださいまし。それでは、今度こそわたくしは失礼いたしますわ。……ユイ様。」
またまた丁寧にお辞儀をして、マリアは店の外に出ていった。最後の一言、なにかとても深い意味を感じずにはいられない……。
「……」
マリアが居なくなり、不自然に動きを止めてわたしを見つめてくるソフィアさん。
「ねえユイちゃ」
「わたしも帰ります!武器が調子悪かったらまた来ますね!」
「あっ」
何か言いかけたソフィアさんを振り切り、店の外に出る。また変なことがはじまったら困るし。
―――――――――――――――――
(ソフィアさんのことよくわからない……)
そのまま家に帰るのもなんかアレだったから、街の中を探索することにした。普段行くところが決まっちゃってるから、普段行かないところにも足を伸ばして見ることにした。大通りをぬけて少し歩くと、すぐに静かな道になる。建物も少ない。
(あれは本気だったのかな……)
静かな道を歩きつつ、思い返す。いきなり雰囲気が変わってわたしにせまってきたソフィアさん。喋りかたも行動も、すごかった。もう少しで……ってところでマリアが来たけど、もし来なかったら……。
(それに、エルザがいるとダメって言ってたのもわからないな)
ソフィアさんとエルザ……この2人は一体……。
「おや?」
考えながらどんどん歩いていてら、変な場所に来てしまってた。教会とは全然別の場所なのに、古びた三本槍の彫刻があって、そのまわりには何かの破片が沢山落ちている。
「……?」
近くによってみると、それは元々なにか人を象った像だったようで、手足だったと思われるパーツや顔と思われるものがある。
(なんだここ……)
その周りは森っぽくなってて、古い看板には『危険なので立ち入り禁止』と書いてある。街の中なのに珍しい……。
(??)
その森のおく。何かが動いた。絶対に見間違えではない。音もした。ガサッと。
(人に見えた気もする……入ってみよう)
もし森の中に何かあっても、わたしは強いから怖くない。未知なるものに怯えるというのは自分の弱さや、考えられない脅威に怯えるということなんだよ!だからいまのわたしには恐れる理由なんてない!




