目的はそうじゃなくて
教会をでると、少し暗くなっていた。でも歩くのに困る程でもないから、少し急ぎめに家まで帰った。
「ふー……」
(疲れた)
なんか今日は色々あった。知らない女の子助けてあげて、リズの戦闘を見て、リズのことを聞いて、エルザと一緒にオーリン教会に行って……そりゃあ疲れる。
「………お金も稼がないと」
今日は偶然、少し貰えたけどこんなんじゃまだダメ。できるだけ多く依頼をこなして、お金を稼いでおかないとこの家にも住めなくなるし、最終的に何をされるか分かったものじゃない。せっかく転生出来たんだから、頑張らないと……!夢も見えてきたしね!
「でも今日はお風呂入ったら寝る!」
さすがに今日、このあと何かする気力はない。爆速で溜まるお風呂に直ぐに入り、ベッドに横になる。おやすみ。
――――――――――――――――――
それから数日間。意外なことに、リズにもマリアにもカレンにもエルザにもルイにも出会わなかった。1人ですぐ近くの森とかで取れる草を取ってくるよくわからない依頼をひたすら受けていた。どこに需要のある依頼だか知らないけど、こんなんでお金もらえるならありがたい。
そんなんで、何日かたったある日。
「おはようございます!」
ギルドにいくと、またいつもの受付の人がいた。
「どうも……」
「今日も草の依頼ですか?あの依頼、私もよくわかんないですけど毎日くるんですよね〜。不思議です。」
(なんか『草の人』って認識されてるな……)
「今日は……たまには違うのにする。討伐系ってない?」
「討伐系ですか〜」
受付の人は手元の紙をパラパラとめくりながら言う。
「『ランク無し』のレベルですと、ほとんどないですね……あ、ひとつあった。『蛇』の討伐……ていうよりこれはただの駆除ですね……」
「駆除って……」
「街のすぐ近くに、馬車の待機場があるんですけど、その近くに毒を持った蛇がなぜか沢山いるみたいです。ですので、目につく限りの蛇を駆除して欲しいんです。……どうします?一応報酬はそこそこですし、これ成功すれば多分ブロンズになれますけど。」
「まじ……ならやろっかな。」
駆除。業者みたい……いや、冒険者ってある意味では業者みたいなものか。蛇……好きではないけど、なんとかなるかな……毒とか持ってても、今のわたしなら平気だろうし。
「ではこれをお願いします。地図と、念の為の血清です。噛まれたら使ってください。余ったら返却を……。」
「はーい、じゃいってきます。」
「お気を付けて!」
待ってろ蛇ども……わたしがブロンズランクに上がる最後の踏み台にしてやろう!
――――――――――――――
「ここ……かな」
街から出て五分くらいの場所。木でできた古い建物があって、いくつか馬車もある。あくまでもひく車だけで、馬はいない。何故。
(とくに誰かに声をかけるとかはしなくてもいいかな)
「きゃっ!い、いや……」
「だれ!?」
(どこから!?)
叫び声。どこから聞こえた?見える範囲には人はいない。となると、建物の裏?念の為バットを片手にもって、裏手に向かってはしる。
「大丈夫………」
そこにいたのは
「ユイ様!助けてくださいませ!」
「ああ……うん。」
マリア。それも、蛇に囲まれている。まだ噛まれては居ないみたいだけど、このままだと足あたりが危ない。
「マリア、動かないでね!すぐ終わらせる!」
「お願いしますわ!」
「蛇……悪く思わないでね……これがあなたとわたしの運命!わたしの魔力の炎よ……燃え上がって焼き払え!」
そして手を強くふる。その瞬間、マリアの周りに火柱があがり、蛇は多分焼けた。火が治まると、周りには1匹たりとも残されていない。
「ふう……」
(逆に助かった……一気にしとめられたし)
「ユイ様!助かりましたわ!」
「わふ」
マリアは勢いよくわたしに抱きついてきた。苦しい。
「マリア……こんな所で何してたの?」
「昨日、わたくしの両親がこっちに来ていたのですわ。今日は帰るということで、いま見送ってきたところでしたの。ここから出発する馬車に乗って帰っていきましたわ。」
「あ、そうじゃなくてさ。なんでこんな建物の裏側に……ってこと。」
「特に深い理由はないですわ。なんとなく歩いていて裏側に来たら、信じられないくらいの数の毒蛇がいて、困っていましたの。そこに颯爽と現れたのがユイ様……!」
「そ、そっか……まあ無事でよかったよ………」
「ところで、ユイ様こそどうしてこんな場所に?」
「ん、まさにその蛇達を駆除しに来たんだよ。変な感じだけど、そういう依頼。ついでに巣みたいなところがあれば潰しておきたいんだけど……」
すると、マリアはわたしから離れて静かに言う。
「ユイ様……それも依頼でして?」
「? 依頼は目につく限りの蛇を駆除することだけど……」
「でしたら、巣を見つけ出して壊してはいけませんわ。冒険者というのは自然を破壊したり、生態系を壊すための職業ではありませんわ。それは対象が動物でもモンスターでも植物でも同じ……必要のない破壊行為は慎むべきなのです。毒蛇も、多すぎては人間にとって害になりますが、全てを殺していいということでは無いのですわ。」
「おぉ……なるほど!」
「モンスターや危険な動物は確かに脅威ですわ。それに、街の外には有用な植物も沢山生えています。だからといってモンスター達を意味もなく全滅させたり、植物を全て取ってしまうと、それは巡ってわたくしたち冒険者や多くの人々の不利益にも繋がっていくのですわ。ユイ様ならわかりますわよね?」
「そうだね……」
確かに、この世界の人達……すくなくとも、ライズヴェル領の人たちはモンスターや動物の恩恵を少なからず受けて生活している。もちろん、モンスターのせいで危険に晒されることもあるけど……それらを全滅させてしまえば、一時の平穏は訪れるだろうね。でも、長い目で見ればわたし達が困るんだ。だから、無駄な殺しはしてはいけない……理にかなっている。
「ですので、依頼はもう完了ですわ。ここは街から近いですし、報告すればすぐにギルドの人が確認に来てくれるはずですわ。」
マリアはもう一度地面を見渡し、もう蛇が居ないことを確認してくれた。
「わかった!じゃあ一緒に戻ろ。」
「はい!喜んで!」
――――――――――――――――
「はーい、ご苦労さまでした!こちら報酬……からいろいろ抜いたものです。どうぞ。」
ギルドに戻り報告すると、受付の人が報酬をくれた。薄い皮の袋の中を確認すると、小さい銅色の高価が3枚。合計すると……
「……300ルピア」
「す、少ないですわね……」
「本当なら4桁はいってもいい依頼だったんですよ〜。なぜか誰も受けたがらなくて……ま、色々引かれてるんでご理解ください!」
「はーい……」
「ユイ様……気を落とさずに頑張ってくださいまし……」
マリアに励まされる……うん、頑張る……。
「それでですね、ユイさんはこれでブロンズランクになりました!おめでとうございます!」
「お!」
「おめでとうございますわ!わたくし、とても嬉しいですわ!」
マリアもまるで、自分の事のように喜んでくれている。やさしい。
「と、いうわけで。明日からはもう少し難しい依頼も受けられますよ!じゃんじゃん稼いで……返済よろしくお願いします。」
「………がんばります」
(常にそれが付きまとうんだよなぁ……)
まあ、考えても仕方ない。頑張るよ!
報告が終わり、カウンターから少し離れて店の中を見渡す。
「どうなされましたの?」
マリアが心配そうに聞いてくる。
「……いないなって思って。あの人。」
わたしのその言葉だけでマリアは察してくれて、答える。
「……カレンさんですわね。あの方、全然いないと思ったらある日突然ギルドに現れて、沢山食べてまたどこかに行く……全く不思議な方ですわ。」
「うん……ちょっと苦手。」
(出来ればもう関わりたくない)
「ところで、ユイ様はこのあと何か予定はありまして?」
「ん、ないよ。どっかいく?」
「そうですわね……すこし、着いてきて欲しい場所がありますの……お付き合いお願いしてもよろしいでしょうか?」
「いいよ」