紆余曲折は無いけど
その後、特に何ごともなくギルドに帰れた。受付の人にきくと、カレンはもう帰ってきていて、報告も済んでいたみたい。もちろん報酬は全部カレン………当たり前だけど。
「あ……そういえば」
ついでに、気になっていたことを受付の人に聞くことにした。
「どうされました?」
「閉鎖になったギルドの人たちもこっち来るって言ってましたけど………アリスって子は来てないですか?」
アリス、また会おうって約束したからには会っておきたい。
「アリス……ああ……あの子は………ここにはいませんよ。」
受付の人は気まずそうにいう。
「なんでですか?」
「……ききたいですか?」
「うん、一応知り合いだから……」
(なんで言いにくそうなんだろう……)
「アリスはですね〜、ユイさんの冒険者の登録情報……つまり、個人情報を勝手に見て持ち帰ろうとしてたんですよね〜。そういうのはルール違反なので、処分として遠くの方のギルドに行ってもらうことにしました。」
「えぇ……」
(左遷されてるじゃん……)
アリス……まさかあなたがそんなクレイジーなレズだったなんて………びっくりだぜ。
「もちろん、もう二度とそんなことが起きないようにするのでご安心を!ユイさんを初め、冒険者の皆さんの個人情報は絶対に、厳重に保管しますよ!」
「頼みましたよ……」
「というわけで、これどうぞ。」
「ん?」
受付の人は、何かの袋をくれた。もってみると、そんなに重くはない。
「それ……まあ、アレです。お詫びというか……とにかく、差し上げます!」
「これって………!!」
(お金だ!)
袋の中には銀色の硬貨が入っていた。硬貨には500と書かれていて、全部で10枚くらい入ってる。(500って数字は見たことも無い記号だけど、何故かそれが『500』だってことが理解できた。これも不思議な力のおかげかな。)
「いいんですか!?」
「いいんです!!もちろんこれは別途でお渡ししてるお金なので、あれとかコレが引かれることはありません。」
「はーい!」
(じゃあなんか食べようかな……!)
よく考えたらこっち来てから全然何も食べてない。ここらで思いっきり沢山食べようかな。今ならカレンもいなし、安心。
「それじゃあまた来ます」
「お疲れ様でしたー」
そう挨拶して、いつもとは違う方にカウンターに向かう。こっち側のカウンターは依頼とか冒険者の受付じゃなくて、料理のカウンター。ここで頼めば、ギルドの中で食べられる。
(何にしようか………)
壁に書かれているメニューをみると、知ってるものと知らないものが入り乱れている。せっかくの異世界だし、知らないものに挑戦……!
「すいませーん。『龍リブロースステーキ(1500ルピア)』1つください」
「かしこまりましたー」
カウンターの奥から声が聞こえて、お金を受け取りに来てくれた。500の硬貨を3枚渡し、近くの席に座って待つ。
(なんで龍にリブロースとかいう部位があるんだろう………どの辺だ?)
そもそも『龍』って生物の分類じゃないの? 一口にリブロースって言っても、なんの龍なのかによって違う気がするけど………。この世界のこと、まだまだ分からないな………。
「お待たせしましたー」
割と早く料理が運ばれてきて、ウェイトレスの人がお皿をテーブルに置いてくれた。
「おおおお……」
(なんと美味しそうな……)
龍のリブロース………一体どんなものかと思ったけど、見た目は牛肉っぽい。ナイフで切ってみると、中はほんのり赤いから、調理法も牛肉と似てるのかも。匂いは周りの人の料理とかのせいでよくわからない。
(タレと塩がついてる………なんて現代風)
まあわたしはタレ派だけどね。
「いただきマース」
タレをつけて一口。
「これは………」
(美味しい……!美味しい……けど!)
見た目、味、食感、風味、何から何まで牛肉とほぼ同じ。これ牛じゃない? 龍って牛みたいな感じだったんだ……。ていうか多分あれだ、この世界のことだから翼の生えた牛のことも『龍』とか呼んでんじゃないの?
(まあ、変な味よりマシだけど。食べ慣れてる味のものが多い方が助かる)
さすがにラーメンとかはないかな………うん、無い。残念。麺類の料理は幾つかあるみたいだけど、知らない奴ばっかり。またいつか食べてみよう。
「おや……ユイ。」
「あ、エルザ。」
ちょうど食べ終わり、帰ろうとした時にエルザが声をかけてきた。
「今から出発?」
「いえ……今帰ってきたところです。報告も終わり、教会に行こうと考えていました。」
「へえ………うお……すごい武器もってるね……」
なんの依頼に行っていたかは知らないけど、エルザは背中に大きな鎌を背負っている。とても長くて刃も大きい。エルザはこんな武器使うんだ……。
「この武器は……私にとってとても大切なものです。冒険者になってすぐの時から今日まで、ずっと使っています。」
「すごい……」
(どんな風に戦うんだろう……)
鎌を振るって戦うエルザなんて想像できない。いつか見てみたいなぁ。
「ところで、ユイはこの後予定はありますか?」
「ん、ないけど?」
「でしたら……無理に、ということでは無いですが……教会に来ませんか?」
「教会かあ……」
教会と言えば、無宗派日本人のわたしの認識では結婚式とかする場所、ぐらいでしかない。普段行くこともないし。でも、異世界の教会っていうのも気になるよね…………よし。
「行こうかな………街の中にあるんだよね?」
「はい。ただ、広い場所が必要なため、少し外れた場所にあります。ですので私が案内しましょう。」
「ありがと!」
お皿だけ片付けて、エルザの後に続いてギルドの外に向かった。
――――――――――――――――
街の中をしばらく歩くと、どんどん建物の少なくなってきた。まさに都会の外れの方って感じ。なんかワクワクする。人も少ないし。
「………あとどれ位で着く?」
「そうですね……五分ぐらいでしょうか」
(ちょっとまずいな……油断してた)
まさかまた同じ失敗をするかもしれない危機になってしまうとは…………トイレ行きたい。なぜ、どうしてギルドで行っておかなかったのわたしは!!バカ!!
「ユイ?どうしました?体調が良くないのでしょうか?」
「ううん………気にしなくていいよ……それより、急ご。立ち止まるだけ時間の無駄だからさ………。」
「そうですね。しかし、無理はしないようにお願いします。」
「うん……」
(まだ大丈夫………)
本当にあと五分なら平気……。
――――――――――――――――――
「さあ、着きましたよ。ここが私がお世話になっている教会『オーリン教会』です。」
「あ、うん………」
とりあえず建物の中に入る。外観とか全然見てる余裕なかった。後でちゃんと見るから今は……!
「それでは……失礼ながら、私は御手洗に行かせていただきますので、ご自由に見学していてください。」
(そんなことある!?)
「ちょ待って!マジごめん!先行かせて!」
恥ずかしいけど、そんなこと言ってられない。エルザに全力で頼み込む。
「もちろん構いませんよ。そこの廊下の先のドアがそうなので、転ばないようにお気を付けて。」
「ありがと!!」
すぐ近くで良かった!
言われた通り、廊下の奥に行きドアを開き、直ぐに入り鍵をしめる。
「………はぁ」
間に合ったけど、コレは完全にわたしの計画性の無さが出たな………内面的にはチートも何も無いんだから、わたしが気をつけないといけないんだ。ていうか魔法でそういうのも何とか出来ないの? まあ出来ないんだろうなぁ……。
「……ん、なにこれ……」
座った場所からちょうど目線の位置にある、右側の壁。そこに何か紙が張り付いている。
「『オーリン教会は全ての人の幸せを願っています。お悩みがある方、そうでも無い方も是非オーリン教へ。』………この文面だけ見ると………」
非常に申し訳ないことに、どうしてもこういうのを見ると偏見的な考えが頭にチラついてしまう。裏でなにか企んでない? お金周りはどうなっている? 信者の方はどんな人達? こんなことばっかり考えちゃう自分が嫌になる。
「………ま、へいきでしょ。」
エルザみたいな人がお手伝いによく来てるんだし、きっと信じてもいい団体だと思う。……そうであって欲しい。
「エルザ、ごめんね。おまたせ。」
入口の方に戻ると、エルザは同じ場所で待っていてくれた。
「お構いなく。さて、それではご自由に見学していてくださいね。私は他にもやることがあるので、しばしお待ちを。」
「うん」
さて。とりあえず一旦外に出て外観を改めてよく見ようかな。
(………なるほど)
外観はなんとなく、『教会』って感じの建物。壁は白で屋根は青。大きいステンドグラスもあるけど………この世界にも、あんなふうな綺麗なステンドグラスを作れる人がいるんだ。すごい。
(さすがにシンボルは別のものか……)
屋根のてっぺんには、三本の槍が交わったような形のオブジェクトが着いている。所謂十字架てきな意味合いがあるんだと思う。
(……奥はお墓……だから広い土地が必要だったんだ)
エルザが言ってたのはそういうことで、だから街の中心から外れたところにあるんだ。お墓にも三本の槍の形が使われていて、岩に名前が掘られている。ここはそんなにジロジロ見ちゃダメだね。
(次は中かな)
とりあえず、外観はわかった。わりと教会らしい教会って感じだし。
「………あ」
教会の中に入り、そのまま真っ直ぐ奥に行ってみると、お祈りをするような場所だった。時間の都合か、そういう日なのかはわからないけど、人はいない。………いや、1人いるけど、明らかにお祈りをしに来た人じゃない。それどころか…………
「……女神様は全てを見通し、受け入れる存在。あなたはここに来るのは初めてのご様子。さあこちらへ………」
「えっ?」
(どうして………)
その人は、純白の……まるで、ウェディングドレスのような服を着ていて、地面までつきそうなほどの真っ白な長い髪………そして、目を覆う装飾品をつけている。なのに、わたしがここにいることに気がつき、初めて来たことも見抜いた………。