深層の真実
「……なんでこんな所にいるの」
距離をとって警戒しても仕方ないから、アイテールと一緒にカレンの目の前まで行き、声をかける。
「さあ? ワタシにもわからないわね。ふふ……それにしても貴女はほんとうにおもしろいのね……。隣には誰がいるのかと思ったら、忌々しい全能神……」
カレンってほかの神様のことみんな嫌いなのかな?
「カレン……そんな言い方はないだろう?大体、ユイが巻き込まれた色んなことの大元の原因はかなり部分が君じゃないか。君が無責任にこの世界を捨てたりしなければ、ナナミの暴走もオーリン教の過ちも、」
「いやあなたがナナミなんて創ったのが悪いわよそれは」
カレンとは思えないくらい的確なツッコミ。珍しく少し呆れたような顔をして続ける。
「それに……ワタシが世界を捨てたのだって責められる筋合いはないわ。……何よりも混沌を望み、深き闇へ不可逆的な歩みを望んだのは人類なのよ。ふふ……ユイ、あなたはきっと疑問に思っていたはずよ。歴史書に載っている戦争の時期と、ワタシが人類に絶望したタイミングが大きくズレてるって……」
「あ……そうだ」
たしかカレンが消えたのは戦争の100年後位だったはず。さっきアイテールから聞いた話と合わせると……その歴史自体が嘘? でも、オーリン教にそこまでの力が……?
「オーリン教って……世界全土に向けて歴史を捏造できるほどの影響力があるの? さすがにそれは……」
わたしがそう呟くと、カレンは見慣れたような笑みを浮かべ、アイテールは少しため息を着く。
「そうじゃない。政治的な意味での影響力や捏造なんて次元の話じゃあないよ。あの金庫の奥に隠された最大の秘密、最大の兵器。禁忌の魔法ですら鼻で笑いたくなるレベルの力。……時空干渉と因果律操作さ」
「ちょ、ちょっと待って!」
ついでかい声が……でも!
「そ、それはなんか……こう、違くない!? 話の規模がデカすぎというか……そういう方向で良かったんだっけ!? 唐突すぎるし、もっとこう、なんか……ねえ?」
だけど2人ともなんとも思ってなさそうな顔をする。
「ふふ……でも……伏線はあったわよ」
「いやカレンもそういうこと言うんだ」
……え、あった?
「……ここまで話すつもりは無かったからさ、さっき実は少し事実とは違う言い方をしたけど、訂正するよ。オーリン教が使ったとされている『オーパーツ』……あれは本来、普通に世界に存在していたものだったんだ。むしろ逆で、魔法なんてものはほとんど使われていなかった。オーリン教は魔法が世界に広まりそうになったことを察知して、オーパーツ……『兵器』を使って人々を脅し、救済……魔法からの解放を謳ったってわけだ」
「わかるようなわからん様な……」
「……だけど愚かよね。その時点でもう魔法はとても発展していて、オーパーツごときじゃ太刀打ちか出来なかった。ふふ……外の世界と関わりを持ちたがらなかった当時のオーリン教らしい失敗だわ。追い詰められた果てに、フィリアは最終手段として時空、因果律に干渉する最強の兵器を使った……けど、それは勝つためではなく、『負けないため』……」
やけに饒舌なカレン。オーリン教嫌いなのかな。
「オーリン教が数百年かけて作ってたその兵器も、まだ未完成だったんだよ。一度使えば壊れてしまうし、自在には操れない。結果……『戦争が起きた理由は領土争い』『オーリン教から宣戦布告した事実はない』ってことになって、時間も少しズレた。カレンが世界を捨てたタイミングがおかしいのはそのせいなんじゃあないかな」
「そ、そんなぁ……」
(めちゃくちゃすぎるって……)
じゃあわたしが読んだ歴史書は全部嘘?フィリアさんが話してくれたオーリン教の設立も? 確かあの時は国ができてすぐオーリン教もできたとか言ってたけど、そうすると……いや、根本的に全部違うってことになるんだ。そりゃあまあ確かになんかオーリン教って怪しいなとは思ってたし、オーパーツってなんぞとも思ってたよ。だけどそれにしたって、こんな、なんかすごい力が働いてて過去が改変されてた、なんて……ズルくない?
「納得できないって顔してるね。だけど君がどんなに納得できなくても真実は真実……それに、いま僕たちがいるこの場所なら……改変される前の世界のものもあるかもしれない。帰る方法を探すついでに、色々探してみるとしようか。……カレンも来るんだろう?」
「そうさせてもらおうかしら。……ふふ、オーリン教が消した歴史の残骸を元の世界に持って帰るのも楽しそうね」
「……」
2人について歩きながら、さらに考える。
……不完全な世界改変のせいで、当時の武器が『オーパーツ』として残っちゃったり、消しきれなかったものを教会の地下に隠してるなら……そこはまあ分からなくもない。なら多分、ティアナが使ってるあの銃もそのはず……だとしたら、あの変な影はオーリン教の世界の改変となにか関係してるのかな? ていうか伏線絶対なかったと思う。絶対。わたしが忘れてる? そりゃあまあ神に記憶力で勝つのは無理だけども。
「ねえ」
「おわっ!?」
突然耳も度で囁かれる。慌てて横を見ると、くっつきそうなくらい近くにカレンがいる。
「な、なに……」
「ふふっ……やっぱりワタシ、貴女のことが好きみたい」
そう言いながら、両腕をわたしの腰に回してくる。
「え……」
「だって、ワタシはオーリン教のことなんてわざわざ人間に話そうなんて思わないもの。そもそも、人間のために時間を割くことすら苦痛だわ。だけど……どうしてかしらね、貴女にだけは何もかも話したいし、いくら時間を割いても苦痛にならないどころか、快感」
「ひ、ひぇ〜……」
女神の力のためとか関係なく普通にわたしのこと好きすぎるじゃん……。