無責任もほどほどにして
とりあえず、どうしようもないからまた上に戻ることにした。これからどうするのか、しっかりと考えたい。
「……また戻ってちゃったね」
階段を昇りきり、相も変わらずな空模様の世界で呟く。……しばらく待っても、わたしの言葉には誰も答えてこない。
「?」
なんでこのタイミングで無視するの? と思い振り向くと、何故かそこには誰もいない。馬鹿にされてるのかとおもい、階段をのぞきこんだり辺りを見回したり、名前を呼んだりしても3人ともどこにもいない。隠れるところもないし、そもそもこんな時にふざけるような3人じゃない……。
「え、なに? 今度はそういう感じなの?」
もしかして途中まで下ってまた登るだけでも変なことが起きるの? 中途半端だったから、わたしだけここに残っちゃったとか…?
「あー……みつけたぞ」
「うわ、出た」
困り果ててたわたしの目の前に突如現れたのは……ほんとに、女神だった。本物の神様、アイテール。
「わざわざ来たのに……僕を見るなりそんな親の仇でも見るかのような目をするのはやめようよ」
「だって……アイテールのせいなんでしょ、多分」
そうじゃなきゃ、わざわざこんな所に来ないだろうし。そもそも、己の意思でここを訪れることができる時点でさ。
「何から話そうか」
「結論だけ言ってよ。人間も神も、偉くなればなるほど建前とか前置きが長くなって本質的な部分から遠ざかろうとするじゃん」
「でもその結論を言うためには前置きや建前がどうしても必要なこともあるんだよ」
「……」
(結局、こうやって神様的な存在が出てくるんだから……)
前にアイテールに文句を言った時のことを思い出す。だから、こういうのが1番ムカつくってことじゃん……!
「まあ……君が知りたいことをできるだけ分かりやすく伝えられるようには努力するさ。そもそも、僕としては……この世界に人間が入ってきてしまったことが予想外すぎるんだ」
「それはまあ……どう見ても普通じゃないところだし」
「……本来どんな方法を使っても、普通の人間はこの世界に来ることは出来ない……はずだったのに。まさかあの地下室……。ユイも見たはず。最初に地下に降りた時、妙なものがたくさんあっただろう?」
アイテールは相変わらず、妙に芝居かかったような言動をする。ムカつくけど、それに対していちいち文句を言ってたら話が進まない。
「会ったよ。変な装置みたいなものとか、妙な文章……明らかに、教会にとって不都合なものを隠していた感じ」
「その『不都合なもの』に関しては僕は何も言わないけどね。だって、そういうものの謎は自分の手で解きたいんだろう?」
「うっわ……」
たしかに、何でもかんでも神様がすぐに答えを教えてきたらつまんないけど……いまここで、それ言う? あなたが神じゃなきゃどうなってたかわかんないよそれ。
「まあとにかく……あそこに色々なものを無理やり隠したせいで、世界に少しの歪みが生じたんだ。そのせいで、本来はもう無かったことになったはずのこの世界に繋がってしまった。……それも、過去に何度も。」
「何度も?」
「……。……この世界は……そう、失敗作だよ」
「なんの?」
アイテールは少し目を逸らしながら言う。
「僕が作った、失敗作の世界。」
「は?」
「人間の君たちには想像も出来ないと思うけど、世界を創り出すのは大変なことなんだよ。何度も創ってても、いきなりイメージどおりに作れないものなんだ。だからこういう、真っ当な生き物が存在しないカスみたいな世界があるわけさ。元々この世界はなんにもない平坦な世界だった…けど、君たちが普段生活している世界と何かの拍子に繋がる度に、若干影響を受けてそっちの世界と似ている部分が現れて…」
アイテールは、まるで料理でも失敗したかのように平然と、とんでもないことを言う。そんなのまるで理解できない。
「あ、もういい。ちょっと静かにして」
「おっと……」
「だから……教会とかあるのもそういうことね……神様の創った世界の残りカスがどこかに残ってて、なにかの拍子につながって……え、じゃあさ……この世界に迷い込んで、帰れなくなってそのまま……」
(教会に書いてあった文字……)
すると、アイテールは少し面倒くさそうに言う。
「ああ、そうだよ。……そもそも、今回は君やあの勇者がいたから僕も気がつけたけど、普段はここに人が来てもすぐには気がつけない。気がついて向かう頃にはもうみんな死んでる」
「ねぇ……それって……」
「『僕のせいで人が死んでる』……だろう? でもこれは何もここに限って話じゃない。ユイの元いた世界で言うところの……神隠しもこれとほぼ同じだよ」
「……っ!」
なんとも思ってなさそうなアイテールを見てると、結局のところこの女神もナナミと変わらないんじゃ……と思い、怒りが湧いてくる。
「ちょ、なにか誤解してるだろう? 僕はそうやって死んだ人を見捨てるほど外道でもないさ。死んだ人をみつけて、記憶を消してこっそり生き返らせる……なんてことくらい簡単さ。僕の後始末は僕自身がやる……そう決めてる」
「そうなんだ。じゃあわたしもこんな世界いたくないし、帰りたい。イブ達も早く戻してあげてよ」
「いや……それはちょっと…」