紅染まる世界
「まだ、ここに残りたいです」
メルは凛とした表情で、わたし達3人を順番に見て、確かにそう言った。
「おい、正気か?」
「こればっかりはわたしもイブと同じ意見だよ。メル、どういうつもり?」
「私……どうしても、この世界を放ってとくことが出来ません。どうしてなのか、自分でも分かりませんが……」
そんなメルを見て、エルザは首を振る。
「……それには同意出来ません。一体どうしてメルリア様がユイ達と仲がいいのかは分かりませんが……どのような事情があるにしろ、あなたはライズヴェルの姫……その身になにかあってからでは遅い……と」
「そうだよ、ほんとにそれ! こんな訳の分からない世界で何かあったら……っていうかそういうことあったら一緒にいたわたし達が真っ先に疑われるし!」
「いくらボク達がお姫サマと仲良しだって言ったところできいてもらえないだろーしな。わかったか? とっとと帰るぞ」
イブはメルの方へ行き、腕を掴んで無理やり連れてくる。傍から見ればこの行動も普通にダメだとは思うけど、しょうがない。メルは不服そうにしながらも、仕方なしにイブに従う。
「あ、わたし先頭で降りるよ。……その次がメル、次がエルザ……で最後がイブ。どう?」
階段は狭いから2人並ぶのはちょっと厳しそう。そうなると、前と後ろを強いひとにして、もしも何かあった時に対処できるようにする方がいいと思う。
「お前にしてはいい考えだな、賛成。ほら、行くぞ」
わたしの意見を聞くや否や、イブはその順番になるようにエルザとメルを並び替えた。やたらと手際のいい所から見るに、イブもこんなところ早くおさらばしたいって所かな。変な生き物殺して、返り血も浴びてるし尚更だよね。
「……まって」
階段を降り始めてすぐ、自分の中のその思考の無視できない部分に気がついて、足を止める。
「ユイ様?」
「あのさ……一応なんだけど……メルとイブのその返り血……大丈夫かな? もしなんか変なものが付着してて、元の世界にそれを持って帰っちゃって、なんか大変なことになったりとか……ない?」
「あ? 未知のウィルスとかそういう話か? んなもん心配ねーぜ。だろ?」
イブは何故かエルザに向けて言う。すると、エルザはものすごく嫌そうな顔で言う。
「ええ……そうですね。気にしなくてもいいかと」
「ふーん」
(何、今の……ムカつくし)
もしかしたら教会にはどんな病気でも直せたりウィルスでも除去できるスーパーなアイテムがあるのかもしれないけども、そういう話じゃなくて、イブとエルザだけが共有する秘密があるのがムカつく。なんでわたしの知らない間に仲良くなってるの。そういうの普通に嫌、ほんとに。
「……」
イブが後で照らしてくれてるおかげで、視界は良好。踊り場で階段の向きを変えて、さらに下っていくと……。
「……ふっ……なるほどね」
予想外の事態に直面して、謎の笑いが出てしまった。だって、これは……
「……これは?」
メルが後ろから覗き込んでくる。その後ろからエルザとイブも。
「見ての通り……階段が途中で埋まっちゃってて、これ以上下にいけない。さっきはこんなのなかったでしょ? だから……この空間諸共別の世界? になってる……よねこれは」
(元の世界に戻ろうにも、この方法は使えないと……そうなると、出来ることは……)
正体不明の生き物が徘徊する上に、謎のメッセージの残されたあの世界の探索……しかない。
(なんでこんなとこに……本来ならわたしは辺境でセレナさんやマリア達と依頼をこなしてれば良かったはずなのに……)
それに、ティアナがどうしてるのかも気になる。もしも無責任なあの女神がどっかで見てるなら……怒らないから助けてよ