違和感しかない
(…………?)
先陣切って階段をあがっていくと、地上に近づくにつれて妙な違和感を覚えた。なんていうか……なんか、こう……なんかアレな感じ。
「なんかさ……ちょっとアレじゃない?」
振り返って後ろのふたりに言ってみると、メルもイブも同じような顔をした。『は?』……って感じ。
「まあ……いいや」
(どう考えてアレなんだけどなぁ……)
なんか、ほら……だいたいそんな感じ。
「明るくなってきた……」
少し早足で歩いて、もうすぐ地上。階段の先の方からオレンジ色の光が差し込んでる……オレンジ色?
「あれ?」
「……まだ夕方にははえーよな」
「私がここに来た時はまだ太陽はいちばん高いくらいの場所でした……」
「誰かが間違って時間進めたのかな」
「お前の中での世界観どうなってんだよ」
ちょっとふざけてみたけど、心の中のモヤモヤはまるで晴れない。
(……やっぱり、変な感じがする)
でも、だからといってやっぱりやめた、なんてのは無理。外に出ないとなんにも始まらない。
「……わ……」
階段を登りきり、地上へと出る。見間違いでも何でもなく、空を照らす光の色はオレンジ色で、辺り一面夕暮れ……よりもさらに赤に近い色に染っている。だと言うのに、太陽は空のいちばん高い所にある。
「私……このような空、初めて見ました……」
「ボクもだな。めちゃくちゃでかい山火事でもあったのかよってくらいの色に染まってやがるな……。真昼間からこんな空……こんなふうになる天体現象なんてないだろーしな」
(……天体現象)
ふと、関係の無いことに考えがいった。イブが今自然に『天体現象』って言ったってことは、この世界……わたしたちが暮らしているこの場所は地球みたいな惑星なのかな。いや、そんな事今はどうでもいいけど、気にしてもいなかったな……。
「……ユイ、それに……メルリア様……何故ここに?」
「あれ? エルザいるじゃん……」
地下からでてきたわたし達に声をかけてきたのは、居ないはずのエルザ。もう戻ってきちゃってた?
「いる、とは……? 私はずっとここで待っていましたが。むしろ、ユイとメルリア様こそいつの間に……?」
「めんどくさいから先に言うけど、わたしはエルザたちが来る前から地下にいたよ。死角に隠れてた」
「……そうですか」
「いや、ほんとだからね?」
なんかわたしっていまいち信用されてない感じしない? なんでかなぁ。
「それがホントってことはボクも証言してやるよ。だけどさ……お姫サマはボク達より後から地下におりて来たんだぜ。で、その時は空の色はこんなんじゃなかったみたいだし、墓には誰もいなかったって言ってるぜ?」
(そう言えば……エルザとイブは今回一緒にここに来るまで接点はなかったと思うし、メルとエルザも多分ほぼ接点ないよね。なんか……変な組み合わせの4人になっちゃったなぁ…)
仲良くできるかな。
「おかしいですね……私は間違いなく、ずっとここで待っていましたが。その間、誰も来てはいませんし、そもそも……私が外に来た時点で、空の色はこのようになっていましたよ。それに……どうしてメルリア様がこのような場所に……」
「そっそれは今は……あ、後で説明をします……」
たしかに、一般人 (?)のエルザからしたらこんなところにお姫様がいるのなんて意味わからないよね。
「うーん……なんで意見が食い違ってるんだろ……?」
別に、どっちかが嘘をついてるなんて思わない。意味無いし。でも、それだと理屈が成り立たない。時系列的な矛盾が絶対に生じるもん。
わたしもイブもメルもエルザも、しばらく黙り込む。4人がそれぞれ、この状態に対する合理的な解釈を考えてる……んだと思う。
「あの……」
すると、メルが控えめに声を出す。
「なんだよ?」
「あ、あの……仮に……例えばの話なんですが……この地下を通じて、異なる場所……いや、異なる【世界】との行き来をしている……という可能性はどうでしょうか……。1度この地下に降りて、再び地上に戻ることで、元いた世界とよく似た異なる世界……」
「平行世界ってこと?」
「それですっ!」
メルは嬉しそうに、わたしの言葉に賛同した。なるほど、この世界にもそういう概念はあるんだね。でも、それをきいたエルザは納得してない様子で言う。
「平行世界……しかし、そのようなものがあるとはとても思えませんね。こことは異なる別の世界……そのようものが実在すると……? ユイはどう思うでしょうか?」
「あーーーーーーーーーーーー……」
「……ッッ」
(イブめちゃくちゃ笑いそうじゃん……)
イブも知ってるもんね。変な女神がいて、この世界以外にも色んな世界があるってこと。あと、メルも知ってるのか。……ていうか、セレナさん達のことを深く理解してるはずのエルザも、その辺に対してもう少し寛容な考え方を持ってそうなもんだけど。
「異なる世界……ここがそうなのかは別として、それ自体はあってもいいんじゃないかな? ね? うん!」