プリンセスモード
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「あ……実は、これが……」
階段の途中だと話しにくいから、一旦踊り場に引き返す。そして、メルがとあるものを見せてきた。
「なんだこれ? 宝石か?」
メルの手のひらに乗っていたのは紫色の石。よく見ると、真ん中が青く光ってる。
「転移のやつ……とは別だよね。なにこれ?」
「その……ええっと……」
「メル?」
何故なのか、メルはその石のことを説明するのをとても渋っている。自分から見せてきたくせに!
「これは……感応石というものです。私が生まれた時に、お父様が王家に従える魔法使いの方に作ってもらったらしいんです。……私の心と共鳴して、その心の様子を強く表す力があります」
「……ユイ、言ってる意味わかるか?」
「効果とかはわかるけど、どうしてそんなものを作ったのかと、どうして作れるのかは全く分からない」
「だよな……ノーザンライトにもそんな力ねーぞ…」
イブはその石をジロジロ見ながら、少し疑うような顔をしている。とにかく……ホントだったとしても、これがどうしたのって話。
「ギルドの方からきいていたのですが、ユイちゃんとその他何名かの方は辺境に言っていて、暫くはこの街に帰ってこない……と。……そうなると、私も暫くのあいだユイちゃんに会……戦いを教えて貰えなくなってしまうので、寂し……どうしようかと考えていたんです」
(必死じゃん)
「そう言えばそんな約束あったな。ってかボク1回も頼まれてねーけど?」
「……それで、結局ここに来た理由とその石の関連は?」
「はい。つい先程、この石が突然激しく煌めいたんです。それはつまり、私の心が強く動いたということ……すなわち、ユイちゃんが帰ってきたということなんです!」
「……」
イブが黙って灯りを消す。だけど、メルの手のひらの石の激しい煌めきで割と明るい。なるほど、めっちゃ嫌だなその石…。そもそもなんでメルはわたしが帰ってきたことを無意識のうちに気がつけるの。怖い。
「そして! 転移石を使い、ユイちゃんのいる所に行きたいと願ったところ、教会の墓地にワープすることが出来ました。……お墓の下の地下になんて行きたくはありませんでしたけど、この先にユイちゃんがいるなら…と思い、来た……という訳です。」
(……転移のやつってそんな抽象的な感じでも好きなところ行けちゃうんだ。それなら別にわたしが辺境にいてもワープしてくればいいのに…。)
それとも、やっぱり圏外はあるのかな? はたまた、さすがに王族だしそんな遠くには行けない?
「なあ……上に誰もいなかったのか? 墓地とか、この墓のすぐ近く」
「ああ、たしかに……」
イブは冷静で、真っ当な質問をメルにしてくれた。たしかに、本来ならエルザが上で待ってるはずだよね?
「え? 私が見たかぎりは……どなたもいませんでした」
どうしてそんなことを聞かれたのか、まるで分からない……といった様子でこたえるメル。嘘ついてるわけでもないだろうしね。
「なるほど……じゃああいつ、どこいったんだ……?」
「トイレいってたんじゃない」
「お前じゃねーんだからありえないだろ。目離したらダメなんだからちょっとくらい我慢すんだろそれは」
(わたしのことなんだとおもってるんだろ……)
でも、エルザがいなくなる理由、確かに思いつかない。あのエルザの事だから、ちょっとの事じゃその場から離れたりしないだろうし。
「……そうだ。メル、わたしがいない間になにか変わったこととかあった? ライズヴェルとかその周辺で……とくに、王族だからこそ分かることとかないかな」
「え……そ、そうですね……うーん……」
「おい、今それ関係ないだろ」
「いいから」
「ほとんどない……ですけど、少し気になることなら……」
メルは少し間を置いて、なにか思い出すようにゆっくりと言う。
「兵士の人たちの話なんですが……少し前に、怪しい人? がいたらしいんです」
「なんで疑問形?」
わたしの問いかけに、メルもまた困ったように答える。
「話によると、遠目に見る限りではそれは全身黒のローブを纏ったような人間に見えるのですが、ある程度近くに行くとうっすらと透けていて、向こう側の景色が見えた……との事です。さらに近くに行くと、まるでそれは実態を持たない影のようになり、消えてしまった……と。少し調べでたんですが、そのような力の魔法はないはずですし、そんなことができる道具もないんです。……一般的には」
(一般的、ねぇ……。王家の力とか禁忌の魔法まで視野に入れたなら無くはないってことかな……なんにしても、どう考えても怪しい。それに、影って言うと……)
ティアナが極度に恐れている、アレ。あれとの関連も気になる。
「ふーん……ま、なんでもいいだろ。それより、あいつが居ないならとっとと外に出よーぜ。あれこれ考えるのは外に出てからの方がいいだろうしさ。誰かまた来たらそれこそ面倒だろ」
「うんうん、それわたしも賛成! こんなところもういたくない、早く外行こ!」
「は、はい……」
少し戸惑うメルの肩を叩いて、わたしが一番先頭になって階段を昇っていく。良かった良かった。とりあえず外に出れれば一安心ってところもある。こんな所にずっとなんていられないしねっ!
(……それにしても、またやらないといけないであろうことが増えちゃった。辺境の方にも早く戻らないとなのに。ほんとに全部偶然なの? ナナミもスティアもアイテールも、ついでにカレンも……女神とか女神だった人とか誰も信用ならないしなぁ……)
わたしの運命……操って愉しんだりしてないよね?