じゃあ問題
「……靴の音でわかんねーのか?」
イブが呆れたように、でも小声で言ってくる。
「え、普通わかんないでしょ……むしろ音でわかるとかキモいし……」
「あ?」
「うそでーす」
あんまり変な事言うと怒りそうだしこの辺でやめて置いて……そんなことよりも。
「ねぇ……エルザじゃないなら誰なんだろ?」
「しらねーよ……音の感じからすると多分、女だとは思うけどな」
「まあ男の人ってほぼ出てこないもんねこれ」
ギルドマスターくらい? ああ、一応ルイもそうだった。もう長いこと見かけてない気がするけど。所謂おとこの娘のルイね。まあイブの推測の仕方からすると多分ルイも女って思われるだろうけど。
「誰だったとしてもめんどくさい事にかわりはねーな……こんな所に来るやつなんてどうせろくでもねぇ奴しかいないだろ?」
「わたし達みたいに?」
「おい……なんかおまえ今日調子いいな?」
「ごめんて」
イブは軽く舌打ちしながらわたしを睨んでいる。
(ヤンキーじゃん……)
わたしよりイブの方があのバット似合ってたような気がする……ついでに釘でも刺したら完璧でしょ。
「……足音、止まったな。ボク達に気がついたかもしれないぜ」
イブはほんの少しだけ階段に近づいてそう言う。たしかに、音が全く聞こえない。ちょっと喋りすぎちゃったかも?
「ならこっちから階段上がってみる?」
「……それはまだはやいな。もう少しここで待って様子を見た方がいいだろーな。……よし、ならちょっと考えてみろよ。今階段に居るのは……だれだったらおもしろい?」
「え、それは……」
(実は誰もいませんでした〜!! が1番面白いけどなぁ……)
でもそれはまず有り得ないし、そんなこと言ったら殺されちゃう。
(エルザ以外だとすると……まずはやっぱりフィリアさんだよね。ここは教会にとって都合の悪い物があるはずだし、そもそも今は外でエルザが待ってるはずだから、部外者だったらエルザが止めてるはず。そう考えるならもうフィリアさん一択だし、おもしろいもつまんないも無いな……)
そして、もしフィリアさんだとしたら結構良くないよね。わたし達、帰してもらえる?
(あ……でも。もしフィリアさんだったらエルザも一緒に着いてきそう……? それと……このお墓って一応はカレンの物って扱いなんだっけ。だとしたら、カレンがまた戻ってきてエルザになんか文句つけて1人で降りてきたって可能性も大いにあるよね……でもそれも別におもしろくはないけど)
もしカレンならまた誰かに変身してそう。いっその事わたしになってくれてたらおもしろくない? イブにどっちが本物か当ててもらおうよ。
「おい、なんか変なこと考えてねーか? ニヤニヤして気持ちわるいぜ……」
「おっと……ごめんね」
そんなことしたら本物偽物まとめて殺されそう。却下。
(あ、そうだ……)
「ちょっと思いついた……わたしもイブも知らない人は? 別にここに来るのがわたし達の知り合いだなんて決まってないし。もしかしたらわたし達が知らないだけで、エルザの知り合いの人がいたりで……」
「よし、階段登るか」
「それはわたしの回答がつまんないってこと?」
自分から問いかけをしておいて、イブはわたしの答えになんの反応も見せずに階段をゆっくりと登り始めた。この上にいるであろう人と鉢合わせた時にいったいどうする気なのか、まさか出会い頭に攻撃とかはしないだろうけど……。
(まあ、着いてくしかないよね……)
イブのすぐ後ろに続いてわたしもゆっくりと階段を上がる。そして、最初の踊り場が見えてくる。多分、ここを曲がったところにその誰かはいるはず。だと言うのにイブはなんの躊躇いもなくそのまま進んでいく。
(……)
「……おまえ……」
先に曲がったイブは、直ぐにその『誰か』と鉢合わせたみたいで、少しだけ驚いたような声を上げた。なに? やっぱり意外な人? 知り合いの誰か?
「ユイ。これは予想出来たか?」
そう言いながら、イブは自分の手のひらに小さい魔法の炎を出して (そういう使い方で来たんだ)、暗い階段を照らしだした。わたしも踊り場に行き、イブの背中から向こう側を覗くと。
「……メルじゃん……予想外」
「まさかお姫サマだとはな」
「おふたりこそどうして……」
正解はライズヴェルのお姫様、メルリア姫でした……と。でも、どうして?