再誕の女神
「もうどうでもいいわね……隠す必要も騙す必要もないものね……ふふ……」
エルザは意味のわからないことを言って笑い、持っていた鎌を地面に投げ捨てた。それと同時に、暗い光がエルザの全身を包み込み、それが晴れるとそこには。
「……何となくそんな気はしてたよ」
出来ることならもう会いたくなかった人……じゃなくて女神、カレン。あの時と同じような黒いドレスを身にまとい、怪しい笑みを浮かべてわたしを見つめている。
「あら……割と上手くやれてたと思ったのだけど」
なんか、ちょっと見た事ない変な表情を見せながらカレンはため息混じりにそんなことを言う。
「……聞きたいことが多すぎる。どうしてここにいる……それに、今の変身はなに? そんな術まで使えたの?」
「どうして……それは何故存在しているかということかしら。あの時、あなたに消されたはずのワタシが……ふふ」
「そう。回りくどいのはいいから結論をさっさと教えてよ」
このままカレンのペースに持っていかれると、いつもみたいにはぐらかされて終わっちゃう。
「そうね……確かにワタシはあの時貴女に殺された……そして、消えたわ。でもそれは『神として』のワタシ」
カレンは両手で自分の体を抱きしめるような妙な仕草を見せる。なんのつもり……
「はぁ?」
「ワタシの身に宿っていた神力はあの偽物の全能神に奪われたわ……。でもね……ふふ。どうしてかしらね……ワタシは『人間として』は生き続けることを許された……それだけの事よ。気がつけば貴女に燃やし尽くされたはずのこの器は綺麗に復活していて、器から真なる体へと変わっていたのよ……」
「いや、わかんないし……人間になった……の?」
(ていうか、カレンもナナミのことちゃんと理解してたんだ)
結局、何が言いたいかわからない。わからないけど、今ここにいるカレンはあの時とおなじカレンだけど、普通に人間ってこと……かな?
「そう……いまのワタシは人工遺物を使うことが出来ない。貴女達とおなじ人間でしかないのよ」
「じゃあさ……さっきのは? どうしてエルザに?」
「闇の魔法は使い方によっては幻影を見せることも出来るのよ……きっと、貴女はまだその力には気がついていないでしょうけどね。ふふ……人間なんてみんな愚かなもの。ワタシがギルドの職員のフリをしても誰も気が付かないし、手紙を送ることも疑問に思わない。内容を確認する人もいなければ届いた側もそれを疑問に思わないなんてね。そして貴女はよく知るはずの人物が偽物だと気がつくのにも時間がかかった……ふふ、人間なんてそんなものね……」
カレンはわたしに背を向けて、奥の壁に向かって歩き出す。ドレスの背中側は大きく開いていて、肌が結構出ている。でも……そこにあの羽が生えていた痕跡はない。
わたしはその背中をゆっくり追い、言葉を向ける。
「え、じゃあ……フィリアさんは……」
「死ぬわけがないじゃない……あんな女が。今日ここに誰もいないのは忌々しいオーリン教が別の場所で集会をしているだけ……それに、仮に死んだとしても貴女を呼び出す理由なんてひとつもありはしないはずでしょう?」
「それはわたしも疑問だった……だから……むしろ、偽物だった方が納得出来たよ」
(今背中に攻撃すれば多分カレンは倒れるけど……それはなんか違う気がする……)
カレンは無防備にわたしに背中を晒している。神の力がないなら、わたしの方が強いのは確実。わたしより強い人間とかいないし。でも、だからといってここで今すぐ殺すほどのバーサーカーでもないよわたしは。
「わざわざそんなことしてまでわたしを呼んで……しかも、こんな訳の分からない場所に。それなりの理由と目的がえるんでしょ?」
「ええ、もちろんよ……」