白の狂騒
「……あれ?」
気がつけばそこは外。人通りのない、街から少し外れたような道……見たことある景色……。
「あっ!」
すぐに思い出した。ここはライズヴェルの中心地からオーリン教会に向かう道だ。何回か往復したこともある。それにしても……
(てっきりギルド本部に出るのものかと……?)
ギルド支部にある簡易ゲートをくぐったら、オーリン教会に続く道に出たってことでしょ? ギルド本部どころか、建物内部ですらない。外って。せめて室内にしようよ。
「だとしても、なんでこんな所に……」
もしかしてランダムとか? ライズヴェル城下町のどこかに出るからまあいいや的な適当な設計?
(とはいえ、ラッキーかも)
フィリアさんに何かあったんだとすれば、どちらにせよ教会に行かないと行けないのはわかっていた。それなら、この道を真っ直ぐ進めば教会に着くわけで、好都合……?
「ん?」
たしかに、好都合は好都合。でも、教会に向かいたいのはわたしだけじゃないはず。オーリン教の人達だって、絶対大人しくしてるわけが無い。少し形は違えど、教祖である人が亡くなったわけだから。なのに……
(誰もいないじゃん……)
教会に続く道はもちろん、そこを歩いて教会の目の前に行っても誰もいない。墓地の方を覗いても誰もいないし、中に誰かいる気配も感じない。
(オーリン教独自のしきたりでもあったのかな……)
例えば、こういう時は信徒はみんな家で1週間は大人しくしましょう、とか、教会へはしばらく来ては行けませんよ、とか……。だとしても、野次馬的な人くらいいてもいい気がするけど。こんなに大きい宗教なんだし。
「そうだ、エルザは……」
エルザは教会で働く人では無いけど、フィリアさんと仲が良かったし、なにか特別な恩でもあるような感じだった。きっと、セレナさんもそれを心配してくれてたんだと思う。
(えっと……エルザは普段どこにいるんだろ……?)
よく考えたら、ここかギルド本部でしか会わないからよく分からない。さっきの考え方から行くと多分ないけど、もしかしたら教会の中にいるかもしれないと、ドアに手をかけた時
「ユイ、来てくれましたか」
背後からエルザの声が聞こえた。びっくりして振り返ると、そこにはいつもと変わらない様子のエルザが立っていた。
「エルザ? ……え、その言い方……わたしが来ること知ってたの?」
「はい……というより、ユイを呼んだのは私です。フィリア様が亡くなった今だからこそ、どうしてもユイに伝えたいことがあるのです。それ故に、ギルド本部の方たちに無理を言って手紙を出していただきました」
「え……そ、そうなんだ……?」
エルザにそんな権限が? それとも、フィリアさんが無くなった今はもう既にエルザがその位置に着いたとか?……いや、それは無いか。エルザは単なる信者のひとりって、自分で言ってたし。
「さて……こちらへ来てください」
「あ、うん……」
何だか釈然としないまま、エルザに言われるがままに墓地の方へと入っていく。そして、とある墓の前で立ち止まった。その墓……見覚えがある、というか忘れようがない。
「これって……カレンがまえにお参りしてたやつ……」
「そうです……彼女、最近めっきりと姿を見なくなりましたが……何かあったのでしょうか」
エルザは少し鋭い目になって言う。別に、エルザにとってそれはいい事だと思うけど。
「さ、さあ……? それより、カレンの両親?のお墓がどうかしたの?」
「……ここをこうすると……」
エルザは突然、カレンの両親のものと思われるお墓を弄り出した。いくら嫌いな相手だとしても、そういうことするのはさすがに……と思っていると、どうやらそう言う簡単な話でもないってことがわかった。突然、そのお墓が後ろ側にスライドし、地面に隠されていた階段が現れた。
「こ、これは……?」
「この先に行けばわかるはずです。さあ、来てください」
「うん……」
若干行きたくない気もするけど、セレナさんとの約束もあるし帰る訳にも行かない。エルザの後について少し急な階段を下っていく。何度か折り返しどんどん深く下っていくけど、不思議なことに常にうっすらとあかるい。わたしは当然として、エルザも明かりなんて持ってないはずなのに……?
「ねえ……こんなに深く地面をほったのかな……?」
「……階段はここまでです」
わたしの質問は無視して、エルザは淡々と奥に進んでいく。階段が終わると、そこは不思議な空間だった。お墓って感じでもなく……そう、例えば……なにかの遺跡の様な空間。しかも何故か、さっきまでよりさらに明るい。そのおかげで、奥の壁に埋め込まれている変な装置のようなものがよく見える。
(……?)
エルザはその真ん中あたりで立ち止まった。声をかけようとしたけど、それより先にわたしの脳内に変な違和感が生まれた。
(あれ? ここ……始めてきたのに……)
こんな場所、絶対に来たことない。来たら忘れるはずもない。なのに、そのはずなのに。わたしの記憶の片隅にはこの場所が存在している。わたし……この場所を知ってる?