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火急の件

久しぶりです

 ギルド支部に戻る途中、気になってたけどタイミングなくて聞けてなかったことがあったのを思い出した。


「そもそもセレナさん、なんであの浜辺に来てたんですか?」


「それはもちろん、万が一のことがあったら困るからです。半ば私の思いつきのような形で送り出したガキ……子供が仮にもモンスターにやられるようなことがあったら困るので。まあ、ユイさんがいるから平気だとは思ってたのですが……なにやら予想外の厄介事に巻き込まれてましたね?」


「そうそう、そうですよ! セレナさんがぶん殴ってくれたから何とかなったけど……あれ、なんなんですか?」


「私から言わせてもらえば……何も見えませんでしたよ。ユイさんは何も無いところで一人で立ち止まって、なにやら呟いてました。まるで……世界全てが嫌いになってしまったかのように」


「まあ基本的に世界は嫌いなんですけど……」


「あ、そうですか」


(冗談はさておき……)


 あの影のようなもの。あれが発した理解できない声のような物を聞いた瞬間、わたしの中のなにかが壊れたように感じた。負の感情のリミッター……とでも言えばいいのか、とにかく……『今すぐ死にたい』みたいな気持ちに支配された。それと、ティアラ。ティアラはあの影をみてなんか異常に恐れてた。まるで、ずっと前からアイツに付きまとわれてるかのような。


 ――――――――――――――


 ギルドの支部に戻るとリズが居た。マリアはいない。どっかでなんかしてるらしい。


「あのガキは?」


 リズは椅子に座ってなにか飲みながらきいてきた。


「うっわ、口悪……イブみたい」


「あの子なら村長さんのいえに帰ったと思います。まあ、その……わがままで自分勝手な、()()の子でした。ですよね、ユイさん?」


 セレナさんの有無を言わさない笑顔。それを向けられるともうわたしは肯定するしかなくて、黙って頷く。


「ふーん、あたし子供の相手って苦手なのよね。もし今後もなんかあったらあんたに頼むことにするわ」


 興味無さそうに椅子を揺らすリズ。そんなこと言わなくてもいいじゃんねぇ。


「いやリズも子供じゃん」


「……精神年齢で言えばあんたが一番ガキだと思うわよ」


「まあたしかに中学2年生位で止まってるかも……」


「……? なんのはなし?」


「あっ! 気にしないで!!」


(あぶなっ)


 ついつい普通に言ってしまった。学校の概念とか伝わるわけないのに。なにか怪しむような顔のリズを見て、何とか話を逸らそうといつの間にかカウンターの方に立っていたセレナさんに話を振る。


「そうだっ……セレナさん、今後の予定は? どんな依頼があって、何を倒して……頑張った場合はいつ頃になったら戻れるかとか……」


「……」


 わたしが話しかけてもセレナさんは何も言わずに手元に置いてある紙を見ている。


「あの〜?」


「ちょっと、いくらユイがウザくても無視することはないんじゃないの?」


「……」


「あの、セレナさん?」


「……黙っててください。もう少し、静かに」


 セレナさんは顔もあげずに、小さく呟いた。


「あ、はい……」


「なんなのよ……」


 言われたとおり、リズと二人で黙って待つ。数分後、セレナさんは読んでいたと思われる紙を持ってわたしたちの方に近づいてきた。その表情はいつになく険しい。


「今、ユイさんと一緒にここに戻ってきたらカウンターにこれが置いてありました。ライズヴェルにある本部からの手紙のようなものです。このくらいのものであればギルドの所有する魔法の道具で簡単に転送できる……まあ、お金はかかりますが……なんて、説明はいいです。みてください」


「手紙?」


「ふーん……」


 セレナさんが机に置いた手紙をリズと覗き込む。


「簡単に説明しますと、この手法で送られてくる場合はそこそこ緊急性のある連絡です。そして今回は……文面からするにかなりの緊急性と思われます。モンスターの襲撃や、ルナやアルマのような罪人が暴れたとしてもここまでの緊急性を持たせることはありません」


「で、ギルドの本部がそんな急いで伝えたいことってなんなのよ?」


「ここです、ここに書いてあります」


 セレナさんは手紙の中の一部分を指さす。こういう大事なところは最初から赤いクソデカ文字とかで書いて欲しい。(ギルドは役所みたいな感じだから回りくどい無駄な文章が多いのかもね)


「うーんと……『オーリン教 現教祖フィリア逝去』……は?」


 逝去って、亡くなったってことだよね……?

 しかもフィリアさんが……??


(……現教祖ってなんか変な言い回し……?)


 『フィリア』の名前が襲名制だから?


「ちょ、ちょっと……オーリン教って……!」


「おふたりもご存知……特に、ユイさんはよくよく知ってるかと。ライズヴェル全土で信仰されている一大宗教で、信徒では無いもののエルザさんも深く関わっていますし。城下町の外れにある教会、行ったこと……それに、フィリアさんに直接あったこともあるのでは?」


 セレナさんも動揺してるだろうけど、ゆっくりとわたし達に話してくれている。


「あ、あります……ありますし、話しました。で、でも……亡くなったってそんな……全然元気でしたけど……?」


「私もそのように認識してたのですが……病気などの話もまるでききませんでしたし。特に教会、ギルド、ライズヴェル城の3拠点はそれぞれが密接な関わりを持つので、何かあればこんなことになる前に報告がありそうなものですが……」


 悲しいとかショックとか、そういう感情以前に何も理解できない。だって、そんなことある?


「ねえ、でも……用件はそれだけじゃないんでしょ? こういう言い方も変だけど……わざわざここの支部に手紙を送ってくるってことは……」


 リズは冷静に、セレナさんに問いかけた。よくよく考えたら、リズもエルザと仲良い(?)し、無関係な話でもなさそう。


「……そうです、そうなんですけど……正直、よくわかりません。えっと……ここですね。『至急、冒険者ユイをオーリン教会へ』……何故かユイさんを呼んでるんですよね……それもだいぶ急ぎで」


「わたし? なんで?? えっまさかわたしがオーリン教の次のトップに???? 『フィリア』の名前襲名する?」


「ふざけてないでください、こういう時くらいは真面目にしてくださいよ」


「ごめんなさい……」


 わりとちゃんと怒られた。


「なんにしても、どうするのよ? 今すぐこいなんて言われてもそんなの無理よね? あたしとマリアはなんか変な力のおかげで一瞬で移動してこれたけど、もうその力も使えないのよね? ってなるとどんなに急いでも数日は……」


 リズはご最もなことを言う。リズはふざけないし変に慌ててないし意外としっかりしてて偉い。こういう人もいないとね。


「それなら……大丈夫です。ちょっとこっちへ来てください」



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