本当の強さは
とりあえずティアナ放っておいて、倒したクラーケンを処理する。とは言っても、わたしはギルドの職員でもないし、モンスターの死体の処理の専門家でもないから正解は分からない。だから、倒した証拠として持ち帰るために足を切り落とし、残った大部分は魔法で沖に吹き飛ばした。きっとそのうち、ほかの生き物の餌になるでしょ。狂獣がめちゃくちゃ不味かったり、普通の生き物みたいに分解されなかった場合はもうごめんなさい。
「立てる?」
クラーケンの処理を終え、浜辺に座り込んでるティアナに声を開ける。するとティアナは涙目になって立ち上がり、足に着いた砂を払いながら言う。
「もう平気ですから。ユイちゃん、ちょっと強いからって調子に乗らないでくださいよ。アタシは本気出せばユイちゃんのことも、他のみんなも……それに、村ひとつ破壊するくらいも簡単なんですから。ふん」
そう言って、ティアナはわたしから顔を背ける。声が震えててかわいい。
「ふーん」
でもちょっとムカついたから、イタズラでティアナの首筋に剣を近づけてみる。もちろん触れないようにギリギリ。
「わたしは今すぐにでも殺せるけどね」
「な、な、なっ……!」
わたしのイタズラに相当びびったのか、身体を震わせながらティアナの足にまた液体がつたる。
(……この子、本当に……)
目の前に女の子を見てると、こんな奴が『世界大国』なんて呼ばれるほどすごい国のノーザンライトを1人で壊滅させたなんて信じられない。たしかに、持っている道具は特別だし、強いと思うけど。思うけど、本人がこんなんじゃあねぇ? でも、イブですら勝てなかったんだから、弱いはずがない。強さを隠してる? 本気出してない? それとも、なにか道具を無くしたとか?
「あ、そうだ」
剣を収めて、浜辺に落ちてた銃2つともを拾ってあげる。
「あ、それ…アタシの……」
「うん、そうそう……これってどう使うの?
わたしにも使える感じ? もしそうならひとつ欲しいんだけど……だめ?」
(もしこれを奪……貰えれば、わたしもさらに強くなるしティアナは弱くなる……完璧)
と思ったけど、現実はそんなに甘くない。
「……なに、なにバカいってんですか! それはアタシの大事な大事な大事な! あげるわけが無いですから! ふふふっ! ユイちゃん、油断しましたね!」
ティアナは背中に手を回し、どこに隠してたのか3つ目の武器を取り出した。
「うわっ……そんなものまで……!?」
ティアナが取りだしたのはまたまたこの世界にはなさそうなもの……ではなかった。どう考えても、物理的にそれは背中にしまっておけないでしょってくらいの長さの剣。ティアナの身長の3分の2くらいはある。
(……見た目はこの世界でごく一般的に存在してる剣……だけど、どんな力を持ってるかわからない)
わたしも剣を……と思ったけど、試しに右手に持っていたSFチックな銃をティアナに向けて発射してみる。見様見真似というか、わたしの中のイメージで適当に触ったらちゃんと発射された。
「あ!! ずる!!」
発射された熱線を紙一重で避け、ティアナは顔を赤くして怒る。
(発射の反動ゼロなんだ……すご……)
「返してください!」
「……だって、これ返したらまた悪いことするんでしょ? わたしはイブを信じてるから、ティアナは悪い子だって思ってるよ。沢山人を殺して、色んな人の大切な場所を奪ってるんでしょ? なら、返す訳にはいかないよ……。それより、こんなものは……!」
わたしは2つの銃を空に向かって高く高く放り投げる。そして、それが落ちてくるより前に天に向かって手を伸ばし、力を込める。
「数多る命を奪いし凶器に今こそ断罪を与える……紅蓮の裁きを! 燃え滾れ! 陽光の猛炎」
「あっ! バカ!」
わたしの手から放たれた、熱く燃える魔法は空中で2つの銃に命中し、より激しく燃える。そして、一瞬だけすごい光を放ち、銃諸共消滅した。
「はい、おわり」
「死ね! バカ! ゆいちゃんのバカ!」
ティアナはめっちゃ感情を剥き出しにして、わたしに向かって走ってきた。もちろん、その手には剣が握られている。そして、わたしの近くに来ると直ぐにそれを振り下ろしてきた。でも
「……見えてる」
どう見ても不慣れなその振り方は簡単に避けられた。ティアナがムキになって何度も何度もわたしに剣を振るってきても、結果は何も変わらない。
「はぁ……はぁ……」
そのうち、ティアナは疲れてその場に座り込んでしまった。やっぱり、この子は弱い。どう考えたってこんな子が国ひとつ壊せるはずもない。
「もういいでしょ。村に戻るよ」
わたしが声をかけてもティアナはわたしの方を見たまま動かない。
「話は後で聞かせて。とりあえず、帰ってセレナさんに報告。ティアナひとりじゃ勝てなかったから冒険者としてはゼロからスタートだよ」
手を伸びしてもティアナは動かない。その目線はわたし……じゃない!
「後ろ!?」
ティアナの視線は微妙にわたしから逸れて、わたしの後ろを見ていた。急いで振り返ると、海ではなく浜辺の奥……森の方からなにかがこちらに向かってきていた。