古代の戦術
「ユイさんってイブちゃんとほんとに仲良いんですか〜?」
目的に向かう途中、隣をあるくティアナが突然変なことを言い出した。
「わたしはそう思ってるよ。たぶんイブも本心ではそう思ってくれてると思う。だから色々話してくれたし」
「え〜? ユイちゃんの仲良しの基準ガバガバです?」
「は?」
「だって、じゃあ仮に……ふふっ、アタシはアタシ自身のことを後で話す予定ですけど……そしたらアタシとユイちゃんは仲良しなんですか〜? 」
「そういうことではないでしょ」
「そう? アタシにとっては同じに感じますけど」
(めんどくさ……)
もう永遠に黙ってて欲しい。今更だけど、ティアナにはわたしのあの能力効いてないのかな? それとも、実はゴリゴリに効いてて、超ツンデレだからこんな態度だとか。
(そう考えると少しはかわい……くはないな)
やっぱりムカつくものはムカつく。たしかに見た目的にはわたしの次くらいにはかわいいけどさ。
「ところで、冒険者のランクってどういう仕組みなんですか? ユイちゃんはいまどのくらい?」
「……ランク無しから始まって、結構色々あって最後は『ゴッドランク』。わたしは……下から二番目のブロンズだよ」
「ぷっ……大したことないですね、このあとすぐアタシが超えちゃいそうで残念です」
「はいはい……」
(なんなのこの自信……)
ティアナ自身は多分、普通の女の子なんだと思う。きっと、なにかのきっかけであの不思議な道具を沢山見つけて、その道具のおかげで強くなれたからイキリ散らしてるんだと思う。自分が強い訳じゃなくて、偶然手に入れた不思議な力が強いだけなのにね。そんなの……
(……わたしもか)
――――――――――――――
「あそこにいるやつが多分そうだと思う……」
もう少し歩いて浜辺につくと、ターゲットの狂獣はすぐに見つかった。でも、名前から考えてたイメージとはだいぶ違う。
(そもそも、『クラーケン』なんて名前なのに浜辺にいるって時点でおかしいって思うべきか……)
岩場から隠れて浜辺をみると、クラーケンはすぐそこにいた。そう、浅瀬どころか浜辺……陸上にいるわけだし。陸上に、大きいタコがいる。気持ち悪い。あと、思ったより小さい。クラーケンって島と間違えるくらい大きいってよく言うけど、あいつはそんなに大きくない。『タコにしてはかなりデカい』ていどのタコ。大きいタコ。そもそもクラーケンってタコなの?
「へぇ〜あれがクラーケンですか。間抜けな顔でひょろひょろぬちょぬちょしてて弱そうですね」
「……否定はしないけど、油断はしないでね」
(たしかに、浜辺で何をする訳でもなくぬちょぬちょしてるだけなのはそうだし、気持ち悪い以外の害もなさそう)
でっかい頭足類をみてると何となくカレンのことを思い出す。あれはもっと気持ち悪いけど。
「それじゃ行ってきますよ。見ててくださいよ、アタシとアタシの道具による華麗な戦い。剣術や魔法なんてダサいもの使わなくても戦えるんですよ」
そういいのこして、ティアナは岩場から飛び出した。右手にはわたしに突きつけてきた現代的な銃、左手にはそれとは別の、初めて見るSFチックな細身の謎の銃。
(そんなものもあるの?)
「タコのくせに陸上にいるなんて自ら死にに来てるようなものですね! アタシの華麗な銃撃でたこ焼きになっちゃってください!」
そして、ティアナは高くジャンプする。
「いきますよ〜……ホーク・アイストリーム!」
(……名前のセンスはまたしてもわたしの勝ちだね)
この世界にわたしよりセンスのあるネーミングできる人はいないのかな〜。
それはさておき、ティアナは空中から落下しはじめて、地面に着くまでの間に体をひねりながらこれでもかと言うくらいの銃撃をクラーケンに浴びせる。右手の銃からは見た目通りの実弾が発射されて、左の謎の銃からは……レーザーのような物が発射されて、着弾した部分を焦がしている。なにそれずるい。
(銃の反動とかないのかな……)
ともかく、攻撃は確実にクラーケンにヒットしている。そして、ティアナは地面に足から綺麗に着地し、最後の一撃を頭に向けて放って言う。
「チェックメイト……古代より蘇りし鋼鉄と灼熱の豪雨に勝てる生き物なんていないんで……あれ?」
(あーあ……)
残念なことに、クラーケンはまだまだ元気。ちょっと体を焦がされたり撃ち抜かれたくらいじゃ狂獣は死なないらしい。
「ちょっと! ずる、反則ですけど!?」
そんなティアナの言葉は当然届くことなく、クラーケンは長い足の1つを巧みに操り、ティアナの胴体を掴んで持ち上げた。
「わー!? ぬる、ヌルヌルでキモいですから!! 離してください〜!」
リアクションを見る限り、まだ余裕そう。ほんとに危なくなるまでは見てようかな。面白いし。よく見ると、掴まれた時に銃を2つとも落としてる。
「やだー!!! なんでまだ生きてるんですか!! あ、アタシのことどうするんですか!? 食べちゃダメですからっ!! あっ、痛い……痛いですそれは!!」
実際クラーケンがティアナをどうするのか気になったけど、なんかクラーケンは腕 (足?)に力を入れ始めたみたいで、このままだとティアナの体が砕けちゃう。さすがにそれはまずいから、助けないとね。
「今助けるから待ってて」
岩場から飛び出し、クラーケンに向かって走る。まだ距離はあるけど、魔法なら充分届く。
「挨拶代わりの一手……吹き荒れる風と轟く雷鳴の二重奏……雷鳴の暴風域!」
「名前ダサい!」
うるさい外野は無視するとして。わたしの放った雷を纏った竜巻はクラーケンの体の半分を飲み込む。もちろんティアナを掴んでる腕は巻き込まない。竜巻に反応してそっち側にクラーケンの注意が向いてる好きに、一気に距離を詰めてジャンプする。
「女神じゃあるまいし……さすがに切り落とせば再生なんてしないでしょ……!」
落下の勢いを載せて、剣を振り下ろす。ティアナを掴んだ腕の根元にその斬撃が届くと、そのまま剣はクラーケンの体を切り裂き、足を切り落とした。
(……血が出ない)
不思議なことに、足が切り落とされた肉が顕になったクラーケンの体からは血が一滴も出てこない。やっぱり、普通の生き物とは違う。そして切り落とされた足はまるでトカゲのしっぽのようにしばらく動き回っていた。
「あ、ティアナ平気?」
後ろをむくと、切り落とされた足から脱出したティアナが座り込んでた。
「……うぅ」
何か言いたそうだけど、座り込んで何も言わない。前を向き直ると足を切られたクラーケンが逃げようとしていた。海に入って、泳いで逃げる気だ。
「逃がすかっ!! いけっ!!」
思いつきで、魔法で氷の刃を作って投げつけてみる。思いのほか大きくて鋭いそれはクラーケンの頭 (いや、頭足類的にいえばあそこは頭ではないのかもしれないけど)にぶっ刺さり、その場に倒れて動かなくなった。多分、死んだ。
「……とりあえず倒したよ。もう大丈夫だと思う」
死体の確認は後でするとして、まずはティアナに声をかける。
「……」
「どうしたの?」
何故かティアナはその場から動こうとしない。クラーケンに掴まれたのがよっぽど精神的にキツかったのかな。手を引っ張ってあげようと少し屈んだところであることに気がつく。
「あれ……掴まれたのお腹の辺りだったよね?」
掴まれたの辺りの服がクラーケンの体液かなにかで湿ってるのはまあわかる。そうじゃなくて、ティアナのスカートとか足も濡れてる。これって……
「……あー」
なるほど。
「な……なんですかその察した顔!! アタシをみて何を感じたんです! 」
「んふふ……いや〜……結構可愛いとこあるなって。クラーケンに襲われて怖かったんでしょ? 」
「だ、誰だってアタシと同じ状況なら絶対こうなるに決まってます! ユイちゃんだってそうですから!!」
「ないない、そんなビビりじゃないよわたし」
(……ここにリズがいなくてマジでよかった…)
『あんたは何も無くてもやらかすでしょ』なんて言われるのは簡単に想像できちゃうしね。