ノーザンライトのししゃ
「ですから……アタシが嘘ついてたらどうするですか?」
「???」
何が言いたいかさっぱりわからない。
「ノーザンライトがどうとかが全部嘘で、アタシは妄想を語ってる単なる変な子……だったとしたら、ユイさんは勝手な思い込みでなんの罪もない人を殺すことになってしまいますよ〜?」
「んなっ……」
笑顔の表情は崩さないで、ティアナはわたしを見つめてくる。
「ふふっ……ふふ、そんな顔しないでくださいよ」
(ムカつく……)
「イブちゃん本人に確認すれば済む話です。とは言っても、ユイさんはまだしばらくここを離れられないでしょうし、今すぐには無理だと思いますけど。ですので、暫くはアタシもここに滞在しようと思ってます」
「なんでそうなるの?」
すると、ティアナは自分の顔を指さしながら言う。
「ほら、アタシってものすごくかわいいじゃないですか。村の人達からもすごい褒められて、この村にいて欲しいって言われちゃいましたし」
ティアナは (大したことない)胸を張って自慢げに言う。
「いや……お年寄りの人達は若い人にはみんなそう言うし……」
(偏見だけど)
「え?」
でも、ティアナはどうやらそれをマジに受け止めてたみたいで、本気で驚いてる。なんか可哀想になってきて、一旦剣をおさめる。
「お世辞……ってわけじゃないけどさ。かわいいとは思ってるだろうし。……まあ多分、わたし達の言うかわいいとは意味合いが違うけど……。それに、どう考えてもわたしの方がかわいいし……」
「ぷっ、年下相手にムキになってどうしたんですか?」
「あーはいはい、かわいいかわいい……。それで、結局なんなの? わたしはどうしたらいいの?」
ティアナがなんのためにここに来たのかとか、わたしと話してどうしたいのかとか全く分からない。
「アタシはイブちゃんに会いたいんです、それは本当です。でも、どうやらここからライズヴェルに向かうにはかなり時間がかかるみたいですし……ユイさん達が帰る時に一緒に行きます。ですからそれまでは村長のお家に居候させてもらうことにしました。あ、ご安心を。さすがにこの村でいきなり暴れだして人殺したりとかはしませんので。」
「わたしはどういう感情でいればいいの……」
可愛らしい笑顔のティアナだけど、その裏にどんな感情があるかまるで読めない。怖いっていうか、普通にムカつく。
「リズさんをあんまり待たせるのも良くないのでそろそろ戻りましょうか。アタシの目的についてはあとでまた2人だけになった時にお話するので」
ティアナはまたわたしの腕を引っ張って歩き出す。元いた広場まで戻ると、そこにはリズは居なくてセレナさんがいた。
「あれ?」
わたしの言いたいことがすぐにわかったのか、何か言う前にセレナさんが口を開く。
「偶然ここを通ったらリズさんがいたんです。そしたらリズさん、『いつまで待たされるかわかんないからあたしは一旦帰るわ。ユイ達が戻ってきたら伝えておいて』って言って帰りました。なので代わりに私がここで待ってましたよ。……ユイさん、その子誰ですか?」
(……まずいな)
セレナさんがティアナのことを怪しむような目で見てる……のは正直どうでも良い。何がマズイって常に敬語で喋る人が2人いる上に、わたしもセレナさんに対しては敬語使うから誰が誰に向けて喋ってるのか訳わかんなくなる恐れがあるよね。
「アタシは……冒険者になりたくてこの村に来た、ティアナです。その……ギルドの支部に行けば登録ができるって聞いたので……それに、村長さんからあなたがギルドの職員って聞いてて……」
急にオドオドした喋り方になるティアナ。安っぽい演技なんてしちゃってさ……。
「わざわざこんな田舎に? どこから来たんですか? 自分の住んでた場所にはギルドの支部が無かったんですかね?」
さらに怪しんだ様子になるセレナさん。明らかにティアナを信用してない。どうするのかと思ったら、今度はティアナが反論する。
「……え、そんなの別に関係ないじゃないですか〜? アタシは冒険者になりたくて、あなたはギルド関係者ってことだけが今大切なことなんです。冒険者になりたいって言う人がいるなら登録するのがギルド職員の仕事だと思うんですけど〜? 主観的な『怪しい』ってだけで拒否するんです? そういうルールがギルドにはあるんでしょうか?」
さっきのオドオドはどこにいったのか、元の調子にもう戻ってる。
(うざ……)
わたしだったら多分キレてるけど、そこはさすが大人なセレナさん。感情を表に出さず、いつもの調子で言う。
「それもそうですね。私としたことが失礼しました。この制服を着てる以上、今はギルド職員としての職務を全うするべきでしたね。……それでは……せっかくですので、試しにモンスターの討伐をしてみますか? 上手くいったら高いランクから始められますよ」
(ん?)
あれ、そんなルールなかった気がするけど……。
(高いランクの人と一緒に依頼に行って、1人で達成出来たらどうのこうのはあったけど、わたしはまだブロンズだし……)
「それならアタシにピッタリですよね! めっちゃ強いモンスター倒してすごい高いランクになりたいです!」
「そうですか。ならユイさんの付き添いでモンスターのいる場所まで行って、討伐はおひとりでお願いします。対象は海……というより、浜辺にいる『クラーケン』です。海はこの村を出て南に少し行くとありますから、ぜひお願いしますね」
それだけ言って、セレナさんは立ち去ってしまった。
(……ああ、これ怒ってるのか)
クラーケンっていままでの傾向と対策からいくと間違いなく狂獣でしょ。いきなりそんなやつ倒せとか、まずありえない。ってことはセレナさん、やっぱりめっちゃイライラしててあろう事かギルドのルールに私情挟んでるじゃん。ダメでしょそれは。
(最悪の場合はわたしが何とかしろってことか……)
「どんな敵が現れてもアタシの武器にかかれば瞬殺ですけどね〜」
対してはティアナはお気楽余裕そうな顔。クラーケンが……狂獣がどんなモンスターか知らないんだろうけど……。
(どうなるかな……)
色々心配だけど、ティアナが早く行こいこうるさいからとりあえず海に向かって歩き出した。