災禍の中心
「ノーザンライトから来たってホント?」
まずはそれを確かめないと、話を進める気にもなれない。だって、今のノーザンライトはそんなお気軽に出かけるような状態じゃないはずだし、イブがこの国に来てるのも一部の人しか知らないはずだし、その一部の人が今もちゃんと生きてるかわからないし。
「え、それはもちろん……あ、……ユイさん、ちょっとこっち来てください。リズさんは少し待っててください。」
わたしの了承を得るまでもなく、ティアナはやたらと強い力でわたしの腕を引っ張って歩き出す。そのまま少し離れた建物の裏に回り、ようやく離してくれた。
「な、なに……」
「あの〜……アタシの予想ですけど、イブちゃんからきいちゃいましたよね?ノーザンライトが今どうなってるかと、イブちゃんの目的」
ティアナはさっきまでと打って変わって、それこそ普段のイブみたいな『めんどくさい時の顔』をしてる。可愛げもない。
「……そうだね、きいてるよ。なんかよくわかんない奴のせいでみんな死にそうだから、それを何とかするためにライズヴェルに来たって」
まあ、目的としてた縋りたい女神はクソ女神だったんだけどさ……。
「それならわかるんじゃないですか〜? 初対面だけど初登場じゃないって意味。それから、アタシがノーザンライトから来たってことも併せて考えれば」
「?」
「どうせイブちゃんは仲良くなった人には自分のこと話すタイプだろ〜な〜とは思ってましたし。村長からユイさんがイブちゃんと仲良いって話を聞いてすぐに思いましたよ、ユイさんはイブちゃんの事情を知ってるなって」
(なんで村長さんがイブのことを……)
村長さんギルドと仲良い?みたいだし、わたしがここに来ることになる時にそれも併せて教えて貰ってたのかな。一応ペア組んでたし。
「ん? ……あっ? ……えっ、待って……ってことはティアナって……ノーザンライトに現れた正体不明の1人の人間ってやつのこと?」
そんなわけない……と思いつつ聞いてみると、ティアナは可愛らしい笑顔に戻って頷く。
「そうですそうです、そういうことです。……ですので、アタシはユイさんが知らないであろうこういう道具を持ってるわけです!」
突然、ティアナはスカートの裾をめくった。気でも狂ったかと思ったら、そこには足に巻いた装飾品に引っ掛けてなにかが隠してあった。ティアナはその何かを素早く手に取ると、それをわたしのおでこに当ててきた。
「わかりませんよね、見たことないはずです。本来であればこの時代には存在しないはずの武器なんですから」
「っ……!」
(いや……わかる!)
ティアナが右手に持つそれ。多少見た目に差異はあれど、それが『銃』であることは一目でわかった。要するに、ティアナは銃をスパイ映画の女スパイみたいな隠し方してたわけだ。それにしても、見た目が現代的な物にすごい似てる気がする。
(……? 安全装置の近くに液晶みたいのが着いてる……)
さらによく目をこらすと、なにか映し出されている。明らかに、この世界に無いはずの技術……。
「わたしがいま指をかけているところ……トリガーを引けばユイさんは即死ですかね。どんな優れた魔法も剣術も、アタシのもつ道具たちの前には無力です。」
「……」
流石のこのまま頭をぶち抜くつもりなんてないだろうけど、銃をおでこに突きつけられた経験なんて当然ないから、緊張感がやばい。ティアナの指1本にわたしの命がかかってる。
(流石のわたしもゼロ距離で銃撃されたら死ぬよね……)
傷がすぐ治るとか、そもそも動きが早いから攻撃を避けられるとか、そういう問題じゃない。この体制になったら基本的に圧倒的不利。まあ、逆にここでわたしがゼロ距離で魔法ぶち込めばかなりきくだろうけど、多分銃の方が早いから死ぬ。
「な〜んて、さすがにここでユイさんを殺す気なんてありません」
ティアナは笑って、また銃を元の場所に戻した。……ちょっとかっこいいよねあの隠し方。
「……その道具は何? そんなもの、どこで……」
すると、ティアナは今度は胸の辺り (ていうか完全に服の中だった気がする)から、小さい石版のようなものをとりだした。
「これなんだとおもいますか〜?」
「石」
「あってるけどちがいまーす。ちょっと見ててくださいよ……」
最初っからわたしの答えなんて期待してなかったようにしか見えないけど、まあそれはいいとして。ティアナは手のひらに乗った小さくて薄いその石版を何回か軽く叩いた。すると……
「ほらほら、でました」
「これって……」
その石版自体にはなんの変化も無かったけど、石版に対して垂直に、少し浮いたところに画面のような物が出現した。
(えっと……これホログラムかなにか……? どうしてそんなものが……)
わたしの世界でもまだ確立されてなかったはずなのに。
「んーと……名前は『ユイ』、年齢は17……身長体重……」
「ちょ、え? なに? そんなの見れるの?」
慌てて画面をのぞき込むと、そこにはわたしの画像とともに色んな情報が出てた。なにこれ怖い。
「石版からでてきたこの面の前に立ってる人の情報が出るんですよ、例えば……あれ? ここおかしいですね……出身地……『▓▓▓▓▓▓▓▓』……読めなくなってます?」
「ほ、ほんとだ〜……不思議なこともあるんだね〜」
「ま、それはいいです」
ティアナはまた石版をしまって、すこし周りをキョロキョロと見た後に、わたしに近づいてきて言う。
「知りたいなら教えてあげますよ。アタシのこの力がなんなのか、どうしてノーザンライトをめちゃくちゃにしたのか……」
ティアナの方が身長が低いから、下から上目遣いでわたしを見てくる。
「……そんなの、どうでもいい」
ティアナから1歩距離を取り、鞘にしまった剣を引き抜く。太陽の光が反射してキラッと輝く刀身をティアナに向ける。
「あれ、なんのつもりですかね〜?」
「ティアナがノーザンライトを破壊したって言うなら……わたしは許さない。たくさんの人の命を奪って、それだけじゃ飽き足らずに今度はライズヴェルまでイブを追いかけてきて……放っておいたら何をするかわからない。たしかに、わたしは直接なにかされたって訳じゃないけど、わたしの大切な友達を不幸にしたなら……」
「……勇者イブを信じるんですか?」
「へ?」
予想外の発言に、ついつい間抜けな声が出てしまう。
「ふふっ……だから、どうして一方的にイブちゃんを信じてるんですか? ノーザンライトでの出来事、イブちゃんが勝手に語ってるだけかも知れませんよね? 本当は何も起きてなくて、イブちゃんは異国で好き勝手するためにライズヴェルに来たのかも知れませんけどね」
「……そんな揺さぶりで今更動揺するようなわたしじゃないから。わたしはイブを信じてる。ついでに言うと、イブを信じる自分のことも信じてる。わたしはわたしのことも信じるよ」
我ながら意味のわからない理屈だけど、嘘じゃない。直接聞いたからわかる。イブは嘘なんてついてないって。これは断言出来る。
「……ま、さすがにこの程度で動揺はしませんか」
なんでかわからないけど、ティアナと話してるとナナミを思い出してイライラする。何となく似てるのかな?
「じゃあ次です。……アタシにたいして妄信的なのはどうなんですか?」
「え、なにそれどういう意味?」