禁忌の……
「戻りました〜」
3人揃ってギルド支部の建物に入ると、セレナさんがすぐに駆け寄ってきた。
「大丈夫でしたか? とくにリズさん……お怪我は?」
心配そうにリズの手を握るセレナさんを見てると、なんとも言えない気持ちになる。なんだろうね。
「平気よ……そんな心配されるとなんか逆に困るわよ。見ての通り体も防具も傷1つないわ、もちろん武器もよ。」
そう言って、リズはあのよく分からない斧を手に取る。でも、それをみたセレナさんは首を傾げる。
「ん……マリアがもってる斧がリズさんの武器なような……だとしたらそれはなんですか?」
(やっぱり気になるよねぇ)
なんて言って誤魔化すのか……なんて思ってたら、リズは
「これ? これがいまのあたしの武器なのよ。偶然見つけたの。あたしの予想だけど……これ、禁忌の魔法の触媒みたいなものなんじゃないかしら。これを持ってるだけであたしの魔法がさらに強力になったし。」
と、ほんとにサラッと言った。
「え」
「……」
(言うんだ……)
マリアはリズの方を見て固まってて、セレナさんは斧をじっくりと眺めている。
「あ、あの……禁忌の魔法とは……?」
(そっか、マリアはそれがなんなのかすらも知らないんだった)
でも、『なんかやばそうなもの』ってことは理解してるみたい。
「なんか……私が思っていたより色々面倒な感じになってますね……? こうなったら仕方ないので、マリアにも教えますよ、禁忌の魔法のこと」
――――――――――――――――
「という感じです」
セレナさんはわかりやすく、禁忌の魔法とそれに関する術について話してくれた。もちろんそれはマリアのための説明なんだけど、わたしもまた聞けて助かった。忘れちゃうもんね。
「……そのようなものがあったのですわね。……そして、禁忌として封じられたはずの力をリズさんは使えると……」
「そういうこと。別にあんた達には隠す意味もないって思っただけよ。でも、偶然にしてはありえないほどの幸運よ。……あたしはこの斧みたいな力をずっと探してたの。あたしの力をさらに増幅させるもの……歴史の闇に消された禁忌の魔法を上回る程の力が欲しいのよ。」
そう言って、リズは近くにあった椅子に座る。背中に背負った斧がわたしの方に向いて、よく見える。
(……もしかして、怪盗やってたのって……)
あんな派手なパフォーマンスにする意味があるかはさておいて、レインクリスタルだのなんだと盗んでたのはなにか特別な力がある可能性を考えてとか? だとしたら一緒にいたエルザも……
(前にスティアが見せてくれた映像とか、怪盗とか、セレナさん達との関係とか……エルザが色々と怪しい気がする…… )
まあ別に誰が何してても勝手だし、それはわたしには関係ないのかもしれないけど。わたしの目的はこの世界で普通に生きて、ナナミを殺すことだけ。
「禁忌の魔法ってそんな簡単に使えちゃうものじゃないと思うんですけど、リズさんはどうやって使えるようになったんですか?」
今1番気になること、セレナさんはそれをなんの躊躇いもなく聞いてくれた。わたしとマリアは何も言えずに、リズが答えてくれるのをまつ。
「小さい頃からずっと、パパや家の人達に言われてきたわ。『昔の世界にはとんでもない魔法があった』って。普通の人達はそんなこと知らないらしいけど、あたしの家には昔からその魔法のことが伝わってたわ」
「どうしてそんな話をしてきたのでしょうかね?」
「そんなこと知らないわよ。『それを使えるくらい強くなれ』なのか『そんなものを使うような人間になるな』って意味なのか……兄貴は後者の方の意味で捉えてたわね。……でも、あたしは子供のころから気がついてたわ。自分の中にその力が存在してるって」
「禁忌の魔法ってそういうもんなの? 昔の戦争の後に封印されたらしいし、生まれてきた人が偶然その力を宿してるとか無くない?」
ついつい口を挟んでしまうと、セレナさんが答えてくれる。
「たしかに、伝わってるとおりならそうなんですけど、大抵こういう話には抜けてる部分があるものですよ。現に、リズさんが拾った斧みたいな物もあった訳ですし。結局のところ、その魔法や術は完全に封印されてなくて、世界中に点在してる可能性も十分にあります」
(カレンが失敗したとかなのかな……とにかく、当時の女神でも完璧な封印が出来なかったんだ)
「……とくにこれ以上話すことはないわ。あたしにはそういう力があって、この斧にはそれを更に強める力がある……それだけよ。……このことがライズヴェルのお城にいる魔法の研究者とか兵士にバレたらあたしは多分、連れてかれると思うわ。……あんた達を信じてるってことよ」
それを言い終わるとリズは立ち上がって、マリアがずっと持っていた斧も持って、外に出ていった。