豊かな時代です
「おーい……黙っちゃってどうしたの?」
「…………」
(男?嘘でしょ?)
だって、今目の前に座っているルイの姿、声も、全部女の子にしか感じない。
「あ、信じてない?ほら、これみて。あたしの冒険者登録証。」
「……………おぉ」
名前の横に、確かに性別が書かれている…………男だと。ここには嘘は書けないはずだから、ルイは間違いなく男だ…………。
「驚いた?」
ルイはいたずらっぽく笑い、わたしに問いかけてくる。
「当たり前だよ………驚いた。驚きすぎて逆に驚いてないを通り越してやっぱり驚いた。」
「それはよくわかんないけど………でも、あたしは本当に男だよ!」
「う、うん…………」
(これあんまり深く聞かない方がいいよね)
「あ、ちなみに………あたしは別に女の子になりたいとか、精神的には女性とか………そういうのじゃない。ただ単純に、こういうかわいい格好して、可愛く振る舞うのが楽しいだけ!だからあたしの恋愛対象は女の子だよ!………なのに、どうしてかなー。ユイはこんなにかわいいのに全くそういう気持ちが出てこない。不思議だね?」
「そうだね………」
(『異性から全く好かれなくなる』………かぁ。)
あのふざけた能力のせいでわたしは………!
「あ!ちょっとあたしこの後用があるんだった!また今度!それじゃあね!」
「あ、うん………」
ルイはすぐに立ち上がり、どこかに走っていった。ルイが男の子………おとこの娘…………なるほど、そういうのもあるのか。
(さて…………あきらめてギルドに行こうかな)
どうか、カレンがいませんように………
――――――――――――――――――――――
ギルドの前に来て、さあいざ建物に入ろうとしたところ、背後から声をかけられた。
「ユイ様!」
「おっ」
そこに居たのはマリア。相変わらずのお嬢様スタイル。日傘は持ってるけどさしてない。
「早速依頼を受けるのですよね!?それならわたくしも同行致しますわ!」
相変わらずに熱量でマリアは迫ってくる。と、そこに………
「………なにしてんのよあんた」
「リズ………」
呆れたような顔でリズが立っていた。今日は、背中に大きな斧を背負っている………なにかの討伐にいくところかな?
「あら、リズさんではありませんか。」
「マリア………あんた相変わらず惚れっぽいのね。」
(なるほど………2人は知り合い。それと、マリアは元々惚れっぽい………と。そこにわたしの能力が合わさってせいでここまで大変なことになったんだ。)
「たしかに、わたくしがそのような性格であることは認めますわ。しかし……ユイ様に対してはわたくしは本気の本気でしてよ!このような素晴らしい方、世界のどこを探しても絶対にいないと断言してもいいですわよ!」
「そりゃどうも………」
「ふーん………」
「ですので、ユイ様……もしもなにかあってもご安心を!危険な時はわたくしがこの身を呈してでも絶対にお守り致しますわ!」
「それはありがたいけど………たぶんわたしは、マリアに守ってもらうほど弱くないよ。自分のことくらい、自分で守るからさ。」
「…………あんたも大概ね。無自覚かしら。」
吐き捨てるようにリズが言う。
「え? なにが?」
「………別になんでもないわよ。ま、せいぜい頑張りなさいよ。じゃあね」
全然意味のわからないことを言い残して、リズは立ち去った。その後ろ姿をマリアと見送り、改めてギルドの中に入る。
「今日も人多いね」
「ギルドは年中無休で常に依頼が来るので、昼夜問わず冒険者の方もいらっしゃいますわ。…………うっ、あの方は………」
マリアの視線の先。それはわたしにとっても会いたくない人だった。………カレン。1人で4人用のテーブルを使い、昨日よりも多い料理をどんどん食べている。
「マリアもあの人のこと知ってるの?」
バレないようにギルドの端に移動し、マリアにきく。
「ええ、もちろんですわ。知らない人はいないと言っても過言ではないほどでしてよ。………規格外の大食いかつ支離滅裂なことを言う女性。どう考えても関わりたくは無いですわ。」
(だよね〜………)
「ていうか、あんなに食べるとお金とかもヤバそう………」
「当然ですわ。しかし、あの方はゴールドに近いシルバーランクの冒険者。依頼をかなりこなしているので、お金は沢山持っているはずですわ。噂によると、なにかの目的のために仕方なく冒険者になり、モンスターの素材を集めたりお金を稼いだりしている………らしいですわよ。」
(何かの目的? どうせ沢山食べることでしょ。)
カレンの方を見ながらコソコソ話していると、不意にカレンが顔を上げてこっちを見た。………バレた。
「うっヤバい………」
「…………?」
カレンは嬉しそうに微笑むと、残っていた料理を一気に食べ、こちらに向かって歩いてきた。
「ふふ……待っていたわよ………ユイ。あなたならきっと来ると思っていたわ………さあ、ワタシはいつでも準備は出来ているわ。」
「ユイ様………この方とお知り合いですの?」
「あー……まあ………うん」
「あら……誰かしら。あなたはユイのお友達?」
カレンはマリアの方に近づき、下から見上げるようにマリアのかおを見ている。
「わ、わたくしは………現在はユイ様のお友達………でしてよ。しかしいずれは将来を約束する仲になるとここに誓っておりますのよ。カレンさんがユイ様とどのような関係かは存じ上げませんが、わたくしの邪魔はしないで頂きたいですわね。」
「邪魔? 邪魔だなんてそんな………ワタシはただ、ユイが欲しいだけ………ユイの秘めてるモノはワタシの望む始まりに近い力を持っているのよ………だからワタシはユイに惹かれ、共に居たい………ふふふ…………。」
(な、なんなのこの人は………)
全く意味のわからないことを言いつつ、わたしとマリアを交互に見て変な笑い方をしている。いつの間にか、ギルドの中にいる人たちもこっちを見ている人が増えている。
「全く意味がわかりませんわ。あなたが何を考えているかなど興味はありませんが、ユイ様に危害を加えるような事だとしたら、絶対に許しませんわよ……!」
「そう熱くなられても困るわ……ワタシは何も危ないことなどしていないもの。それより………昨日は、ユイはワタシと一緒に依頼を受けてくれると約束したのよ。むしろ邪魔なのはあなた。」
「ちょっと………」
そんな言い方はないでしょ………。と思ったら
「………そうでしたのね。それが本当なら、たしかに今回はわたくしが引き下がるべきですわ。ユイ様には約束を破るような人間であってほしくないのですの。」
「あ、そう………」
(そういう所はしっかりしてるんだよなぁ……変なの)
こんな変人が相手でも、礼儀はちゃんとしてるあたり、マリアはまじのお嬢様の気質ある気がする。
「といことで、わたくしは別の依頼を受けることに致しますわ。ユイ様と共に依頼を受けるのは、次の機会の楽しみ……といことにしておきますわね。それではごきげんよう………。」
綺麗にお辞儀をして、マリアは行ってしまった。ってことは結局わたしはカレンと2人で行くのか………はぁ。
「ふふ……これで2人になれたわね。受ける依頼はもう決めてあるの………これよ。」
一旦テーブルに戻り、カレンに依頼について書いてある紙を見せてもらう。その間に、カレンはまた別のものを持ってきて食べ始めた。
「『雫の原石の採取』………なるほど」
雫の原石っていうのがどんなものかは知らないけど、普通に考えれば鉱山とかから取れるものだろうね。
「そう………あなたにとってはこれが初めての依頼になるのかしら………。ここから少し離れた場所にある洞窟でとれる鉱物よ。場所はワタシが案内してあげるわ………ランク無しレベルの依頼だから、きっとすぐに終わってしまうわね。」
「う、うん………」
ギルドの規則によると、複数人で依頼を受ける時は、1番ランクの低い人に合わせないといけないんだって。だから今回は、わたしに合わせて『ランク無し』しか受けられない。
「さて、早速行きましょう。道中、あなたに話したいことが沢山あるのよ………」
あっという間に料理を食べ終わっていたカレンは、すぐに立ち上がった。
「ちょ、ちょっと……カレンはその格好のまま行くの? わたしが言えたことじゃないけど……装備とかは?」
わたしは一応武器を持っている。防具は着てないけど、これはちゃんと理由があるんだよ実は。昨日寝る前にふと思った。『防具ないと危ないよね』って。でも、その後すぐ思ったことは『鎧なんて着たら重いし、かわいくない。』って。だからわたしはこの服のまま。でも平気なんだよね。攻撃に当たんないし。全部避ける。だからむしろ軽い方がいいの。
でも、カレンは? わたしはズルしてめちゃくちゃ強いけど、カレンはそんなことないはず。武器も防具もないなんて………。
でも、カレンは言う。
「心配いらない………。それが何を意味するかは後でしっかりと示してあげるわよ………さあ、行きましょう…………」
「……………」
(分からない人だ…………)
不思議な人だし、怖い。でもそう思う一方で、『この人は何者なんだろう』っていう好奇心も止められない。だからこそ、こうやって一緒に依頼にいって、何か一つでも新しいことを知りたい。さあ、何が待ってるかな………
ルイはあくまでもユイのお友達枠です………