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雷鳴の鳥獣

「ユイ様! わたくしに着いてきてくださいまし!」


 わたしの前に出てマリアはそのまま走り続けて、村の外に出たら西に向かいだした。たしか、マリアは何かしらの採取に行ってて、リズは弱めのモンスターの討伐だったかな……。


(リズはサンダーバードに不意打ちされてそのまま連れ去られたのかな……)


 弱めのモンスターしかいないと思っていた所にいきなり狂獣のサンダーバードなんて出てきたら、そりゃあどうしようもないもんね。


 ――――――――――――――


「はぁ……この……この辺りのはずですわ……」


 しばらく走ってたどり着いたのは、森……ってよりは林くらいの木々の生えた場所。少し周りを見回すと、すぐに落ちている斧が目に付いた。たしかに、あの斧は間違いなくリズの……


「マリアがこれを最初に見つけてから今ここに戻ってくるまでに……まあまあ時間かかってるよね?」


「……そうですわね。わたくしが強ければ1人でリズさんを探していましたが、今のわたくしではサンダーバードなど到底かなうはずもありませんわ……ユイ様を頼る他ありませんでしたの。」


「あ、別に責めてるわけじゃないからね……よし、急いでリズを探そう!」


 斧を拾って、とりあえずマリアに渡す。見た目に反するこの軽さ、分かっててもびっくりする。


「……ど、どこから探せばいいか全く検討もつきませんわ……」


 オロオロして泣きそうなマリアを見てると、逆に冷静になってくる。ここでわたしまで慌てたらもうどうしようも無くなるし。


「よし、まずは───」


「おい、お前ら……リズの知り合いか?」


 不意に後ろから声をかけられた。それも、男の人の声だ。


「……?」


 振り返ると、背の高い赤い髪の男の人がいた。見たことない人……ってかこっち来てから男の人とほとんど絡んでないし。ちゃんとした(?)男の人はギルドマスターくらい。だってそういう方向性だしね。


「誰ですか?」


「俺が先に質問したんだからまずはそれにこたえろ。それが当然の礼儀だろ? ……お前、リズの知り合いなのか?」


(はぁ〜ムカつく)


 何この人。ギルドマスタータイプの人間か。顔はいいのかもしれないけど性格が全てを台無しにするタイプだ。初対面でこんなこと言える人が真っ当な人間なわけが無い。……けど、言い方からすると()()()はリズの知り合い? だとしてもこんなムカつく男は絶対メインキャラになるわけないね!


「わ、わたくし達は…リズさんのお友達ですわ。ここにリズさんの斧が落ちていて、サンダーバードの羽も落ちているのを見つけて……リズさんが心配で助けに来たのですわ。」


 勝手にイライラしてるわたしに代わって、リズが的確に答えてくれた。その答えをきいた男は、なんか微妙に不服そうな顔で言う。


「リズの友達……か。なるほどな、どうりで2人揃って弱そうなわけだ。」


「はぁ?」


 よく見たら、こいつも背中に武器を背負ってる。大きいハンマー?みたいな形……ってことは冒険者?


「あの……どなたですの? 今度はわたくし達の質問に答えて頂きたいですわ」


 いつの間にかマリアの方が冷静になってる。ちゃんと必要なことを聞き出そうとしてくれている。


「俺は『レオン・シュバルツハイン』……名前でわかるだろ、アイツ(リズ)の兄だ。」


 心底めんどくさいって感じで喋るその姿は本当にムカつく。ってそれより……


「……リズって兄弟いたんだ……マリアは知ってた?」


 マリアはたしか元々リズと知り合いだったはず。


「い、いえ……わたくしも初めて知りましたわ……」


「友達だって言うならお前らも知ってるだろ? アイツは弱いんだよ。シュバルツハイン家の名前を継ぐのは俺とアイツになる訳だが……あんな雑魚には到底無理だ。産まれてきたこと自体が失敗みたいなもんだろ。だってのに弱いくせにアイツにあっちこっちフラフラされて迷惑してんだよ。だから親父に頼まれてわざわざ、金かけて特別な馬車使ってまでこんなクソ田舎にまで連れ戻しに来てやったが……サンダーバードに襲われたってんなら仕方がない。死んで誰も文句言わないだろうな。狂獣に襲われた事故だったってな。弱いのが悪いんだ。」


 レオンはまったくなんとも思ってないような顔をして、信じられないことをスラスラと言う。自分の妹が死んでもいい? しかも見殺しにする気? ……意味がわかんない。


「……リズを助けないで帰るつもり? 」


「ああ、もちろん……そもそも、もう手遅れだろうしな。武器も落としてる上にそれなりに時間も経ってる……見つけたところでズタズタの死体だけだ。あの鳥の嘴は薄い鎧くらい貫通するぞ」


 それだけ言うと、レオンはわたし達に背中を向けて歩き出した。マリアの持っているリズの斧すら受け取らずに、妹のことなんて本当にどうでもいいって感じで。


「……ちょっと」


「お待ちになってくださる!?」


 このまま帰らせる訳には行かない……と思った矢先、わたしより先にマリアが動いた。いつも持っている魔法の傘……の持ち手のフックみたいになってる部分をレオンの足首に引っ掛けて、転ばした。要するに、小学生のやるイタズラ的な、原始的なアレ。


「いってぇ……なんなんだよ……グッ……」


 マリアは倒れたレオンの背中に突然飛び乗った。そして、背骨のあたりを何度も踏み付ける。


「信じられませんわ! 自分の妹の命が危ないのに見捨てて帰る……どころかその事態を肯定的に捉えるなんて!! 同じ人間とは思いたくありませんわ!!」


「マリア! ダメだよ! たとえ相手が人として終わってるゴミクズみたいなムカつくカス野郎だとしても一方的な暴力は犯罪だから!!」


 マリアの腕を引っ張ってレオンの上から下ろす。レオンはすぐに立ち上がり、ため息をついて言う。


「そっちの女の言う通りだ……俺のことをどう思うかは勝手だけどな、今のは普通にダメだろ。……と言いたいところだが、特別に許してやる。その代わり─────」


「あ、やば……マリア! レオン! 伏せて! とにかく姿勢を低く!」


 ()()()()が目に付いた時には、理由を説明する暇もなかった。2人に指示を出しつつ、マリアの腕を引っ張って一緒にしゃがむ。レオンには手が届かなかったけど、マリアがまた傘で転ばしたくれた。瞬時にそれができるのはすごい。


「いてぇ…今度はなんのつもりだ?」


「わ、わたくしもよくわから」


 その瞬間、わたし達3人のすぐ上をものすごい速さで何かが通り抜けた。そして少し遅れて、数枚の羽が落ちてきた。


「……サンダーバードか?」


「多分……。 木の間を縫ってこっちに向かって滑空してきてるのが見えたから、やばいと思って……。立ってたら3人ともあの羽で首飛んでたかも……でも、いきなりどうして……」


 また戻ってくるかもしれないから、とりあえず3人で姿勢を低くしたまま様子をみる。すると、マリアが口を開く。


「あ、あの……わたくしの気のせいかもしれないのですけれど……サンダーバードのしっぽが燃えているように見えましたわ……」


 そもそも、わたしはサンダーバードがどんな姿の鳥なのかよく知らないけど、さっき見えた一瞬の感じだと、雷雲?みたいのを身にまとった大きい鳥って感じだった。しっぽまで見る余裕はなかったからマリアの言うことはわからないけど……。


「サンダーバード自体には発火の能力なんて無いよな……だとするなら外部からの攻撃……とはいえリズにそれが出来るわけないしな……」


「ふん……それはどうかしらね」


「えっ」


「とりあえずサンダーバードはもう戻って来ないわ……ほら、とっとと立ちなさいよ。」


 突然、わたし達の前にリズが現れた。上から来た訳でもないし、死角もなかった気がするけど……?

 言われた通り立ち上がると、リズの様子が少し違うことに気がついた。何がって言われるとよくわからないけど、なんか違う。


(……あ、斧持ってる)


 リズの斧は今マリアが持ってるはずなのに、リズも斧を持っていた。








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