最後のピース
「さて……どこに隠れているか〜……」
だいぶ森の奥まで来た。確かに、他の動物やモンスターは全く居ない。鳥や虫すら見かけないのは、普通に考えたらちょっとありえない。みんな逃げた……ならまだいいけど……バジリスクが食い尽くしたとかだと、生態系的にも無視できない問題になる。
(そういう部分も含めて、駆除対象か……)
なんか、外来種みたい。アメリカザリガニとかブラックバスは沼や川の在来種を殺しちゃって、生態系を壊すし。
(『外の世界からの外来種』……なんてね)
訳の分からないことを考えながらどんどん森を進み、いつどこから飛び出してきてもおかしくないような雰囲気になってきた。地面をよく見ると、なにかが這いずり回ったような痕跡もある。だから多分、この辺りに……
「……そこ……」
(ん?)
風に揺れる葉っぱの音に混じって、声が聞こえた……のは気のせいかな。わたししかいないし。
「そこ……」
「……だれ」
(気のせいじゃない……)
誰もいないはずの森の中。なのに、間違いなく声がした。聞き間違いなはずがない。わたしの耳もまだそこまで終わってない。そして、風が止む。
「そこにいた…ずっと探してた……やっと見つけたぞ! 」
「だからどこの誰!!」
声の主は現れないけど、声はさっきより近い。男女どちらとも言えないような声がどこからが聞こえている。
「……!」
一瞬、風も吹いてないのに頭上の葉っぱが揺れた。目線を上にあげながら、半歩後ろに下がり体をそらす。その瞬間、ついさっきまでわたしの頭があった場所を槍が通過し、地面に深深と突き刺さった。しかもそのサイズ、尋常じゃない。わたしの身長なんて優に超える長さで、ぶっとい。大木の先端に巨大な刃をくっつけたかのようなむちゃくちゃな槍。
「さすがだよ、普通の人間なら気がつく前に死んでる……ま、それくらいはやってもらわないと……君は異世界からチート能力盛で転生してきた七海ユイなんだから。」
「えっ」
(わたしの個人情報だ!)
しかもその情報は、わたしとナナミしか知らないはず。でも、声の主はどう考えてもナナミじゃない。そうなると……?
「よいしょっと……ふぅ、遂にこうして対面することができた。」
多分、木の上から降りてきたんだと思う。突然わたしの目の前に現れたのは見たことない女の子。声が低めだからもしかしたら男かな〜って思ってたけど違った。セーフ。
でも困ったことに、髪型が完全にわたしと同じ。色は茶色だからそこは被らなかったけど、やめて欲しいな。服装はさすがにそんなに被ってないけど、短めスカートにストッキングは同じだし、もしかしたらわたしのファンかも。多分わたしと同じくらいの年齢だし。
「いや、だれですか」
「誰だと思う?」
女の子はいたずらっぽい笑みで言う。女の子っぽいのに男の子っぽい感じする、すごい不思議な子。でもこれは普通にムカつく。
「いや〜……なんていうか、もうそろそろ無理な気がするけど……」
「なにがかな?」
「人、多すぎて。わたしがこっち来てからそんな、半年も経ってないのに色んな人と会いすぎて、わたしも覚えるの大変だし……そんなに大した用事じゃなかったらわたしの記憶領域を埋める前に帰って欲しいな〜って……」
「ああ、でもそれは仕方ないことなんだよ。やっぱり君は多少なりともそういう因果に囚われる。……いや、遠回しとか意味深な物言いはもうたくさんか。……だけど、あいつだけは倒してしまおう。」
女の子が指を指した方を見ると、バカでかい蛇がいた。思ってるよりでかい。長さ4mくらいあると思うしめっちゃ太い。これはどう見ても普通の蛇じゃあないね。
「わたしひとりでやる感じ?」
「もとよりそのつもりだろう? 僕はここで見ててあげるよ。」
そう言って、女の子が謎の槍に触れると槍が消滅した。理屈はどうあれ、戦うつもりは無いっていう意思表示だ。
「ま、わたしひとりで余裕だもんね。誰だか知らないけどそこで見てて。一瞬で終わるから!」