当然必然俄然
「そりゃあもちろん……強かったり大きかったりするモンスターの討伐……だと思いますけど!」
「その通りです。はい、こちらをご覧ください。」
セレナさんはカウンターに置いてある紙を広げ、注目するべき場所を指さしてくれる。どうやら村長さんの手書きの依頼書?みたいな感じ。こういうのでもいいんだ。
「ここに書いてあるモンスターが現状この辺りで確認されてます。一気に討伐するのは大変だと思うので、とりあえず選んでください。森、海辺、山の麓……遠くは無いですけどみんな方角が違うので一気にやるのは移動が面倒なんです。」
(どんなモンスターだろ……ウミウシみたいなやつじゃなければいいけど……)
いままで戦ったモンスター、変化球なやつばっかりだったし。
「……『セイレーン』『ガーゴイル』『フェニックス』『サンダーバード』……あの、これって……なんでしたっけ、アレですよね。めっちゃヤバいやつ。前に倒したペガサスと同じやつ。」
「『狂獣』ですね。とにかく危険で、例外的に依頼等介さずとも一方的な討伐や駆除が許されています。見つけたら即殺さないと危険なんです。放っておいたらいつ何をするかわからないので……でも、とても強いのでその討伐も簡単じゃない……ので、今回はユイさんにお願いしたいとのことです。」
(狂獣……どうしてなのか、そこに名を連ねる生き物はみんな、神話や伝説としてわたしの世界で空想上の生き物とされてたものばっかり……これもやっぱりナナミが関係あるのかな……)
……いや、それよりさ。
「多くないですか?」
「……私もびっくりしました。狂獣って無理やり1つの分類にしてますけど、生物的な繋がりは一切なく、同じモンスター以外とは群れを生したりもしないんですけど……どういう訳か、この辺りは色んな種類の狂獣が共存しちゃってます。」
「それはそれは……ヤバいですね」
「というわけで、とりあえず何か一体討伐してきてください。ユイさんすごく強いってよく言ってますし、余裕だと思うので。もちろん、報酬は多めに出ますよ。ランク的言えば普通はありえない依頼ですけど、事情が事情なので特別です。」
なんの躊躇いもなく、超危険な狂獣の討伐を任せてくれるのは、以前のペガサスのことを知ってるからなのか、それともそれはそれとして、わたしの強さをまだ信じてないからこその無理なお願い……のつもりなのか。
「わかりました〜……じゃあ、森にいるって書いてある『バジリスク』で。これってでかい蛇みたいなやつですよね多分。」
すると、セレナさんは少し驚いた顔をして言う。
「あれ? 知ってますか? バジリスクは狂獣の中でもマイナーですし、見つけても大きい蛇だとしか思わなくて無視して、そのまま殺されちゃう人もいるんですよ。」
「……サラッと言いますね」
(たしかにペガサスとかフェニックスみたいなとんでもないインパクトこそないけど、あの大きさの蛇は……あ、そうか)
それはあくまでもわたしの基準だ。この世界ならでかい蛇くらいでいちいち驚かないのかな。……そう考えるとますます狂獣とそうじゃない生き物の線引きが理解できない。普通のでかい蛇とバジリスク、どう区別してるんだろ。
「場所は村を出て北西の森の奥です。バジリスクがいるせいでほかのモンスターはいないと思いますけど、念の為気をつけてくださいね。せっかくの立派な武器を使う前に不意打ちでやられる……とか、ダメですからね。」
「もちろん!気をつけて行ってきますから!」
立派な武器……うん。
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村をでて徒歩で1時間くらい。目的の森にたどり着いた。1時間程度歩いただけで着く場所にバジリスクがいるってことは、いつか村の方に来てもおかしくない……それなら、早く倒すに越したことはないないね。
「……思い出すなぁ」
深い森の中、木々のせいで昼間でもやたらとくらい。暗い森の中を歩いていると、この世界で目覚めた時のことを思い出す。あの時は夜だったけど……ふらふら歩いて、リズと出会って……でもその後のことは思い出したくない!!
「よし、いくよ」
いつ、何が出てきてもいいように予め抜刀しておく。右手に持った剣は暗い森の中でも僅かな光を反射してキラりと輝く。……バジリスクだろうがなんだろうが、蛇くらいスパッと切れちゃいそう。
(……真っ当な討伐を一人でやるの、初めてかも……)
思い返せばいつも誰かいたり、突発的な戦闘だった。ここに来てようやく、この世界の冒険者として馴染めるのかもしれない……なんてね。
「ま、普通の冒険者はいきなり1人で狂獣とか倒さないか」