微睡みの夜明け
部屋についてるお風呂はライズヴェルのと同じ仕組み……めっちゃドバドバお湯が出てすぐ溜まるやつだった。まあ、お湯自体はもう溜まってたからそれを温めたけど。壁についてるレバーみたいなのを回すと少しづつお湯の温度が上がるけど、これどういう仕組みなんだろ。こういうのも魔法なのかな。
(仕組みは知らないけど、便利な世界でほんとによかった……)
湯船に使って少し考える。そもそもなんで転生だとか転移が出来たかすらも謎だけど、沢山ある世界のなかでもこういう世界に来れたのは本当にラッキー。魔法もなくて縄文時代みたいな暮らしの世界とかだったら終わってたし。逆に、科学が超発展した世界でも嫌だった。SFチックなディストピアとかチート能力ありでも生きていける自信ないし。そういうことで考えるなら、この世界みたいなファンタジー的なのは1番良かったかも。
(……転生ねぇ)
スティア、カレン、ナナミ……色んなタイプの女神と関わってるけど、わたしの事情に関して直接関与してる女神はいない。転移とか転生させる力をもってるナナミですら知らないって言うのがほんとに謎。じゃあ他にも……
(……だから、もういいんだってば)
何回、何百回こんなこと考えても永遠に答えは出ないなんてわかってる。究極の時間の無駄。理由とか関係なく、事実として起こってるんだからそれでもういい。この話終わり!
(明日から頑張ろ……)
お風呂から出て、溜まったお湯を流して着替える。いつもの服じゃなくて、わたしも寝るとき用の服。さすがに寝る時にいつもみたいなスカートとかは履かない (この辺の荷物はライズヴェルからちゃんと持ってきた)。
「おやすみ、リズ」
小さく声をかけて、わたしもわたしのベッドに入る。
――――――――――――
「……あぁ」
感覚的にいえば、目をつぶって開けたらもう朝だった。窓からは日差しが入ってきてる。いい天気。こんなによく寝れるなんてよっぽど疲れてたのかな。
「リズ……いないし……」
体を起こして窓際のベッドをみると、リズはいないし部屋に置いてあったオノもない。昨日の夜着てた服も畳んで置いてあるから、もう出かけた? えらい、偉すぎ。
「ん……」
よく見ると、ベッドの近くに紙が落ちてる。起き上がってそれを拾ってみると、手書きで文字が書いてあった。
「えー……『あんたがいつまでも起きないから先にギルド行ってるから。起きたらすぐ来なさい。』……あれ、まさか……」
内心慌てつつ、でも焦らずに窓の外を見る………太陽はもう結構高いところにある…ああ、朝じゃなくてもうお昼だったわけだ。
「……ごめん!!」
誰もいない部屋で大声で謝って、急いで着替えて準備する。
「…よし、服はこれで平気……ベルトしたし……髪もちゃんとしばれたしリボンも……あとは武器!」
玄関近くに置いてあった、ソフィアさんに貰った剣が収まった鞘を腰につける。これで完璧!
「よしっ!!」
ギルド支部の建物までの道は覚えてる。ここからそんなに遠くない。とはいえ、今からいくら急いでも寝坊は寝坊。だからここはあえて落ち着いてゆっくりと歩いていこうね。
――――――――――――
ギルド支部、ゆっくりでも10分くらいでついた。ライズヴェルと違ってほんとに人がいない。すれ違った人、畑仕事するような格好したおじいちゃん1人だけ。
「おはよーございまーす」
あえて朝の挨拶をしつつ建物の中にはいる。当然、誰もいな……いと思ったら、カウンターにおばあちゃんがひとり居た。一体どうしてそうなるのかわからないけど、服装とか諸々、わたしの世界の田舎のおばあちゃんのイメージとよく似てる。よく聞いてよく見ると、セレナさんに話しかけてる。
「この村はどうだい? 年寄りばっかりでやっぱり嫌かい?」
「いえいえ、そんなことないですよ。若い人が多いからいいとか、お年寄りが多いからダメとか、そんなのは無いですから。聞いてた話と違って皆さんいい人そうなので安心です。」
「そうだねぇ……余所から来た人に嫌がらせしたり文句言ったりするような偏屈な人達はここ数年でみんな死んじゃったからさあ……なんて、冗談冗談」
「……はは」
(セレナさんでも反応に困ってるじゃん……)
話に聞き耳をたてて少しづつ近づいていると、セレナさんがこっちに気がついた。
「あ、ユイさん。遅いです。リズさんとマリアはもう先に行ってますよ。依頼の数が多いので、それぞれ別のものをやってもらいたいらしいです。」
(……まさか、一晩で呼び捨てにするほどに!?)
でも、そんな思考を巡らせる暇なくおばあちゃんが話しかけてくる。
「おやおやおや、あんたがユイちゃんかい。なかなか来なくてお友達が心配してたよ。それにしてもえらく変わった髪色だねぇ……都会ではそういうのが流行ってるんかい?」
「あ……これは……そういう訳じゃなくて……」
「ま、あたしらジジババがきいた所でわからんよねぇ。いやそれにしてもね、嫌がらせだとかなんだとか、そんなことはするはずもないさ。以前に常識知らずの大人が来た時はそういうこともあったけどねぇ、村に協力してくれる、こんなに可愛い子供たちが4人も来てくれたなら大歓迎に決まってるさぁ」
歳を感じさせない元気な声で喋るおばあちゃんを見てると、嬉しそうなのがすごい伝わってくる。でも……
(子供が4人?)
「私は子供じゃないですけどね、ユイさん達は確かに一応まだ子供かも知れませんけど……17前後とかですし。」
わたしが思ったことと同じことを言ってくれたセレナさん。でも、それはおばあちゃんには通用しない。
「何言ってんだい。あんたもあたしらから見りゃあ十分な子供だよ? 孫たちも同じくらいの年齢でね……最近は全然帰ってきてくれなくて……若い人らはやっぱりお城に近い街の方が……。だからほんとにほんとに、4人ともかわいくてねぇ。えっと……セレナちゃんだった? お仕事終わったらお菓子作ってあげるからうちに……」
「い、いや! ほんとに平気なので! 申し訳ないですけどいまからユイさんと話すことがあるので、またいつか……」
「そうかいそうかい、なら年寄りは帰ろうかねぇ。また遊びにくるからね。」
「……はは……お元気なようですね……」
よく喋る元気なおばあちゃんはしっかりとした足取りで外に出ていった。セレナさんの方に向き直ると、疲れたような、でも少し嬉しそうな顔をしている。そして今更ながらに気がつく。服装が昨日の夜のと同じ……これここの制服だったの?じゃあなんで昨日の夜も着てたの。
「……嫌われないのはいいですけど、これはこれで疲れますよ。」
「でも、なんか嬉しそうですけど」
「……気の所為ですよ。さてユイさん。よく眠れましたか?」
「ほんとごめんなさい。」
(いきなり笑顔になるのさすがだな……)
「今更それを攻めても意味無いので、本題です。さっきも言ったように、村長さんからお願いされたことが少し多くて分担して貰ってます。リズさんには小さめの危険の少ないモンスターの討伐、マリアさんには植物や鉱石の採取……さて、そうなるとユイさんは?」