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月明かりの傘

「これとこれと……はい、これはユイさんのやつなのでご自分でお願いしますね」


 当然のようにわたしとセレナさんの2人で料理を取りに行く。スティアは黙って座ってる。渡されたお皿には……。


(これか……)


 大きさは椎茸くらいのキノコ。でも、色が紫色。恐らくバターのようなものを乗せて焼いてあるから、匂いは凄くいい。


「これがスティアさんのですね。ほら、ユイさんみてください。雲魚の頭の部分だけを揚げたから頭揚なんですよ」


 運びながらお皿を覗くと、確かに……少し大きめの頭がいくつかある。ほんとにそのまま……。


(頭だけって……)


 珍しいことする……それとも、この魚は頭だけ美味しいとかなのかな。


「はいどうぞ」


「ありがと〜」


 セレナさんは文句のひとつも言わずにスティアの前に料理を置いてあげる。メイドさんみたいな服きてるからウェイトレスにしか見えない。


「セレナさんがもってきたグラス……に入ってるそれが竜葉液ってやつですか?」


 わたしも席に戻り、それぞれの目の前に頼んだ料理を置いた後にきいてみる。セレナさんだけはお皿の料理じゃなくてグラスに入った飲み物。


「はい、この独特な水色の液体……ちょっと変わった色ですけどすごい美味しいですよ、せっかくですしユイさんも……と思いましたがダメでしたね。ユイさんって確かまだ16だか17歳ですよね?」


「……お酒?」


「そういうことですね。特殊な葉っぱを発酵させて……まあ、それはいいとして……食べたり飲んだりする前に、スティアさんの話を先に終わらせましょう。多分、食べたりし始めると話にならなくなるので。」


「はぁ……? じゃあスティア、続き教えて」


 よく分からないけど、話の続きが気になるのはわたしもだし、スティアに続きを聞く……スティアはもう食べ始めてたけど、一旦手を止めて喋り出す。


「ん〜……えっと……あ、そうそう〜。この村……か、この近くにはね、昔に封印された禁忌の魔法に関係する()()()があるのよ。でも、それがなにかはわたしもよく知らないし、村の人も知らないと思うの。わたしがそれのことを知ろうとすると、頭の中に靄がかかったみたいになって眠くなっちゃって、結局わからなくて……。でも、ユイちゃんならきっと見つけられと思うわ〜。」


 ニコニコしながらふわふわとしたことを喋る。結局何を伝えたいのかイマイチ分からない。


「なにかって……私もそこから先は知らないからなんとも言えないですけど……魔法について書かれた書物とか、力を封じた宝石とか……そういうものなんでしょうかね。」


「ていうかさ、それが本当にあったとして……わたしに何をしろと……? 見つけたとして、どうするの? スティアは禁忌の魔法をどうしたいの?」


「もちろん、完全に無くすつもりよ〜。危ないもの。」


「そりゃあそうか……」


(女神の力なら禁忌の魔法に関連するものも壊せるとか……だからわたしに見つけてもらいたいのかな。……でも)


 そもそもの話、わたしの使ってる魔法って禁忌の魔法と同じものをらしいんだよね。マリア達は禁忌の魔法なんてもの知らないからわたしの魔法見ても気が付かないけど、メルにバレたみたいに、スティアとかセレナさんに見せたらバレそう……しかも、この2人にバレたら何されるかわからない。一応気をつけないと。


「わたしのお話は終わりよ〜。もしなにか見つけたら変なことしないで大切に保管しておいてね〜。」


「あ、うん」


 それを言い終わると、スティアはまた雲魚の頭揚を食べ始めた。美味しいのかな。


(……これを言うためだけにわざわざ来たの? なんか変……)


 スティアのことだから『わたしに会いたい』も理由のひとつには含まれてそうだけど、だとしてもなんか違和感。話の内容も具体的なことはあんまりなくて、ふわふわ。それに、スティアがその事を知ろうとすると……って話も気になる。カレンがいなくなった今、スティアに干渉して妨害できる存在がいるとしたらそれって……


「……食べよ」


 考えるのはもう終わりでいいや。冷める前に、目の前にあるキノコを食べないと。世界最強に不味いという月光茸……前にカレンに食べさせられた不味い肉より不味いのかな……。


「お、ついに食べますか〜?? ()()がどんなリアクションするか楽しみですね〜!! 暴れたりしないでくださいよ!」


「ふふ、わたしも気になるわ〜」


「……は?」


 顔を上げると、セレナさんはグラスに入った液体をほぼ飲み終わってた。これもしかしなくても酔ってる?


「ん? どうかしましたか〜?」


(ああ、そういうこと……)


 食べたり飲んだりすると話にならないって……セレナさんが酔うのと、わたしが不味すぎて暴れることを想定してるのか……自分のことよくわかってるなぁ。


「いただきまーす」


 バターのいい匂いに包まれたキノコをナイフで少し切り、フォークにさして口に運ぶ。下に乗せた感じはやっぱり椎茸で、この段階では溶けたバターの風味しか感じない。そして次は噛む……


「っ!?」


「あ、でた」


「ここからが本番よ〜」


(なにこれなにこれやばい)


 噛んだ瞬間、キノコの内側から知るが溢れてきた。ナイフで切ったときには出てきてなかったのに、どういう仕組み? ……なんてことは今はもうどうでも良くて、その汁がやばすぎる。雨が降った後の湿った土と雑草の青臭いような香りが溢れてきてバターの風味を全て殺す。一気に口の中が手入れしてない畑みたいになる(?)。それだけでももう十分なのに、さらにキノコそのものの味なのかなんなのか知らないけど、夏場に腐った生魚みたいなとんでもない臭さが鼻から突き抜ける。


「………………………」


「ほらほら、ちゃんと飲み込んでくださいよ」


「ユイちゃん頑張れ〜」


「…………んっ………ぐ………はぁ………ふぅ………き、気持ち悪……ありえない……毒がある方がまだ理解出来る……」


 何とか気合いで口に入れた一欠片を飲み込む。喉を通り抜ける不快感の塊。良くぞ吐かずに耐えた。


「まっず……」


 セレナさんとスティアは嬉しそうにわたしを見ている。ムカつくなぁ……。


「まあそれ、普通は食べませんし。ユイが面白いから言いませんでしたけど。」


「えっそうなの?」


「そうよ〜。普段は……お酒飲んで酔った人とかが面白がって頼むだけ。お店の人もそれをわかった上ジョークで置いてるのよ。本来は薬とかの調合に使うのよ〜。」


(スティアはまだしもセレナさんもそれを知ってて、さらに黙ってたとか……)


 人間も神も信頼できない!!


「実は、環境を整えた上で腐った魚と肉を捨てておくてそっか生えてきたりしますしね」


「最悪……」


 ――――――――――――――


 結局その後、申し訳ないけど食べきることは出来ないから残して帰ることにした。お金はセレナさんが3人分払ってくれた。お店を出る時、一瞬目を話すとスティアはもう消えてたけど、酔ってるセレナさんはなんとも思わずに帰っちゃった。


「ただいま〜」


 わたしも自分の家……というか部屋に戻ると、眠そうなリズが待ってた。


「あんた……どこ行ってたのよ…」


「ちょっとお散歩……あ、それかわいい……」


 流石に寝る時はリズも普通の服に着替えてるみたいで、ちょっとモコモコしたパジャマみたいなの着てる。いいな〜


「あっそ……じゃああたし寝るわ……お風呂のお湯多分ぬるいからもし入るなら温めなさいね……おやすみ」


「はーい」


 言い終わるとすぐ寝ちゃった………わたしがかえってくるの待っててくれたんだ。


(わたしもお風呂入って寝よ)


 禁忌の魔法だとか何とか、めんどくさいしどうでもいいや。そのうちなんか見つかるかもしれないし!


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