封じられし禁術
「禁忌の魔法そのものに関する説明はもうしなくても平気かなぁ。2人とも知ってるもんね〜。」
「わたしが知ってるのは……大昔にすごい魔法使いだか魔術師が作ったってこと、その魔法は魔力とか……要するに才能とかに関係なく誰でもめちゃくちゃ威力を発揮できて、とにかく危険すぎるから封印されたってこと。」
わたしに続いてセレナさんも頷きながら言う。
「そうですね、だいたい私も同じ認識です。とにかく強大で、世界を壊せる程の力がある……そして、その魔法はこのライズヴェルで生まれたものと。」
(へぇ……)
それは知らなかった……というか、やっぱりなんか変な感じする。スティアはこの前『適当に言っただけだよ』なんて言ってたけど、やっぱりわたしの身の回りとかライズヴェルに色々集まりすぎな気がする。世界を壊せる程の禁忌の魔法はライズヴェルで作られたし、オーリン教は強すぎる願いでスティアなんていう女神を生み出しちゃったし、イブは世界でいちばんすごい国からこの国にわざわざ来たし、そもそもライズヴェルの霊峰に全ての世界を司るような女神が住み着いてるし……本当に偶然?
「ユイちゃ〜ん、きいてる〜?」
「あっ……ごめん、ちょっとぼーっとしてた……」
顔の目の前でスティアが手を振っていたことに不意に気がつく。……今は考えても仕方ないか。
「セレナちゃんはわかると思うけど……ユイちゃんはアルカディア歴ってわかるかしら〜?」
「?」
一瞬、セレナさんがわたしをみて不思議そうな顔をした。なに?
「ん……前に図書館で少し読んだ……のと、イブから聞いた。イブの出身の国……ノーザンライトの建国を元年とした世界共通の年の数え方だよね。1000年以上も続いてる。その歴史の中で1回だけすごい大きい戦争があったとか……そんな感じ」
わたしが喋り終わるのを待っていたのか、セレナさんは間髪を入れずに口を開く。
「……スティアさんの質問、すごい変ですね。普通に考えて……生まれや育ちがライズヴェルだとかどこだとか関係なく、この世界に生きているならアルカディア歴を知らない人なんていないと思いますけど……今の質問だと……なんだかまるで、ユイさんが……」
(やっば)
確かにそうだ。わたしの世界で言うならある程度の年齢で、一般常識のある人なら普通に西暦は知ってるだろうし、昔2回の世界大戦があったことも知ってるはず。そう考えるといまのスティアの質問ってたしかにすごい変だし、わたしの答えも違和感がある訳か。正確な年数もわかんないし、そりゃあ怪しい。
「…………まるで、ものすごくおバカみたいですね」
「……」
(そっちかい)
疑うような眼差しじゃなく、呆れたような目になったセレナさんは、またスティアの方に顔を向けた。まあそれはそれでいいけどさ、おバカと思われる方がまだマシだし……。
「まあ、また今度ちゃんと勉強します……」
「それでね、話の続き。禁忌の魔法はそのアルカディア歴唯一の大きな戦争に関係あったの。それだけが理由じゃなかったけど、それも大きな理由のひとつ。」
「図書館で本を読んだ時(12話辺り)は『些細な領土の争いから始まった』とか書いてあったきがするけど、じゃあそれも禁忌の魔法を隠すための嘘ってこと?」
「領土の争い自体はあったけみたいだけど、それはほんとに小さいもの。そういう意味では確かに嘘ってことになるわね〜。」
(嘘をかけるってことはあの本は王家か教会が作った本だったりして……それか、正真正銘本当の歴史だと思われてるから疑いもせずそういう本が作られるのか……)
セレナさんはこの話をどこまで知っているのか、無言で話を聞いている。
「だいたい600年くらい前かしら〜……禁忌の魔法を封印したい勢力と、それを阻止したい勢力との全面的な衝突。当然、阻止したい勢力は禁忌の魔法を沢山使って戦ったの。」
「えっ、でもそんなことしたら……」
世界を壊せるような魔法をみんなして使ったらさ……
「うん。世界はめちゃくちゃ。炎に包まれて雷鳴が轟いて凍りついたの。」
「地獄……」
「私もそれは聞いたことありますね。あ、どこでかは内緒でお願いしますよ。でも……その後どうなったのか、どうして世界はまた元の平和な形に戻ったのか……それはよくわかりません。」
セレナさんが言い終わると、しばらく間を置いてスティアがしゃべる。
「壊れた世界を直せる存在は一つ。女神だけ。まだ失望の闇にのまれてない女神は禁忌の魔法を封印したい勢力を味方した。女神を味方につけた人々はあっさりと勝利し、禁忌の魔法をもう二度と使わないという約束で世界を綺麗に治して貰ったの。……それで終われば、よかったけど。」
(カレン……昔はちゃんといい女神だったんだね……)
「なるほどなるほど……そして、この村には……封印したはずの禁忌の魔法……を使うための術が隠されてるんですね? スティアさんはその事をユイさんに教えようとしてたんですか?」
(なんか楽しそう……)
服装のせいもあって、ほんと別人みたい。普段真面目そうだけど、案外こう言ういけないことに足を踏み入れるの好きだったりするのかな。
「……ん?……あっ! セレナさん! カウンターの方に料理置いてあります!」
急に気がついてセレナさんに声をかける。店員みたいな人、出来たなら声かけてよ。
「おっと……では続きは食べながらにしましょうか。ユイさん、取りに行きましょう。」