未知なるなんとか
席にもどり、テーブルを挟んでスティアの正面に座ると直ぐにスティアが口を開く。
「月光茸……ユイちゃんどんなものか知ってるの〜?」
「知らないけど……」
「あ〜やっぱりですか〜」
セレナさんがそう言い、スティアと2人で頷いている。………なに。
「月光茸はね〜、名前の通り。月の夜にだけかさを開く珍しいキノコなのよ〜。ライズヴェル城下町の周りにはあんまりないけど、こういう人の少ない所には生えてたりするの。」
「人が少ないとか関係あるの?」
「それがあるんです。普通の植物が太陽の光で育つように、あのキノコは月の光を沢山浴びて成長します。でも、さすがのユイさんでもご存知だと思いますけど、月って自ら発光してる訳じゃなくて、太陽の反射で光ってるわけです。なのでとてもか弱くて、周りに人工的な光が少しでもあると月光茸は月の光を感じられなくて成長出来なくなるらしいですよ。なので、こういう人の少ない村の外とかには生えたりするとか。」
若干数バカにしつつも、セレナさんは優しく教えてくれる。その横でスティアはずっとニコニコしてる。
(宇宙の仕組みはこの世界もだいたい同じ……なのかな。それはそれで、月の光に特殊な力があるのもよくわかんないけど……)
でも、ライズヴェルの街の周りそんなに明るい?街の外にでたら普通に街灯もないし真っ暗……人が感じられないレベルの明るさでもダメとか? まあ、事実そうやって育ってるんだから文句つけた所で。
「……ていうか別に成長過程とか興味ないけど………結局、どうなんですか? 不味い?」
スティアとセレナさん両方に話しかけると敬語とタメが混ざって意味わからなくなる。
「……スティアさん……でしたっけ。説明してあげてくださいよ。この村に住んでる人の方が多分分かると思いますし。」
(やっぱり勘違いしてる……)
それはいいとして、話を振られたスティアは嬉しそうに喋り出す。
「ん〜そうね〜……わたしが知ってる食べ物の中ではいちばん美味しくないわよ〜。」
「……おわりだ」
(この世界のこと全部知ってるような女神がそんなこと言うならもう終わりだよ、なんでそんなものをメニューに入れてるのここは)
「……何事も挑戦ですよ、ユイさん。」
「……………………………………………………」
いい笑顔してるよこの人。
「ね、ユイちゃん。わたしのお話してもいい?」
思い出したかのようにスティアが言う。
「あ、うん。どうぞ」
「おや? なんですか?」
セレナさんに聞かせてもいい話なのかどうかも知らないけど、セレナさんは少し身を乗り出して興味津々に見える。スティアがわたしの色々なことをちゃんと隠しつつ話せるような気の使い方できるといいけど。
「さっきも言ったけどね、わたしは女神なの。」
「あーはい」
0.1%も信じてないセレナさんの返事。スティアはそれを無視して続ける。
「だからね、色々なことを知ってるのよ。……この村のことも、もちろん知ってる。」
「この村のことって? 不味いキノコがあるとか?」
「ううん、そんなことはどうでも良くて……」
「あっ」
突然セレナさんが声を上げる。そして、得意げな笑みを浮かべたなんだな珍しい表情をして言う。
「それ、私わかりますよ。知ってます。女神じゃなくても分かりますよ。………この村にある、禁忌の魔法……と、それに関する術の話ですよね?」
「……うん」
ものすご〜く不服そうで不機嫌そうな顔で答えるスティア。子供か。………
「村の人でも知らないと思ってたんですけどね〜」
「禁忌の魔法……って、大昔にあったって言うやつ……だよね? ヤバすぎるから封印されたとか……でしたっけ。」
「おや、ユイさんご存知なんですか? ……一体どこで?」
「あ、えっと……」
(確か……そうだ、お姫様のメルが言ってた。でも、メルが知ってるのは姫だから……王家の人だからだと思ったけど、なんでセレナさんが知ってるの? スティアは別にいいけど……)
メルは『王家とオーリン教会に伝わる文献』に書いてあるって言ってた。あと、『普通の人は禁忌の魔法なんて知らない』とも。じゃあなんでそのどっちとも関係ないセレナさんが?
(うっ)
セレナさんはわたしを疑うような目で見てる。そうだね、セレナさんも同じことを思ってるはず。多分わたしがメルと仲いいことも知らないだろうし、わたしが禁忌の魔法について知ってるのはたしかに怪しい。こうなるとお互いに下手なこと言えない。別に、メルと仲良くて聞いたって言ってもいいけど、一応王族に関する事だし勝手に喋りたくもない。
(そうなるとやっぱり……ソフィアさんとエルザと何かあったのがそこに繋がるとか……)
「ねーねー、2人とも……わたしの話まだ続くのよ」
「あ、ごめん」
「おっと……これは失礼しました。」
「むぅ」
もっと機嫌が悪くなったと思われるスティア。初見でこれみたら女神なんて思えないよ。イタいお姉さんでしかない。
少し間を置いて、また笑顔になったスティアが口を開く。
「それでね」