懸念と注意
「着きましたよ〜あとはここから少し歩けば目的の村です。」
理由は知らないけど、目的地までは馬車で行かずに、その少し手前で馬車をおりた。4人が降りたことを確認すると、馬はすぐに来た道を戻り始めた。ちゃんと1人(?)で帰れるんだ、偉い。
(………それより)
セレナさんはニコニコしてるけど、リズとマリアはなんとも言えない表情。多分、わたしも2人と同じような表情になってると思う。だって……
「ほんとに村なんてあるんですか?」
「なによここ……」
正面はどこまでも続く平原。右を向けば少し遠くにまるでジャングルみたいな森、左を向けば海が見えてる。で、後ろは今来た道なわけで………。
「……少なくとも、ここからでは村や集落らしきものは見えませんわね。」
「1時間くらい歩けば着きますよ……とは言っても、ユイさんには以前もお伝えしましたが……本当に人の少ない場所でして。……住んでる人3桁もいないと思いますよ。だからすぐ近くまで行っても『本当にここが村?』ってなると思います。」
「さ、3桁もいないって……」
(限界集落どころじゃないよ……)
でも、ギルドの支部はあるらしいから少なくとも1人は冒険者がいるってことなのかな。
「それじゃあ今から向かうので着いてきてください。あと……あらかじめ言っておきますが……多分、あんまり歓迎されないと思います。ですけど、怒ったりしないでください………お願いしますね、リズさん。」
「……なんであたし名指しなのよ」
(この中だとリズが1番怒るタイプ……ていうか、歓迎されないってどういう……)
よく分からないけど、とりあえずセレナさんに続いて歩き出す。少し進んだところでマリアが口を開く。
「……わたくし、歓迎されない理由………なんとなくですがわかる気がしますわ。」
「え、なになに?」
「言うならば、これから向かう場所は物凄い田舎……観光客も訪れずに、遠くから来る冒険者も基本的にはいない……そのような環境で残された人々だけが生活していると、起こりうる可能性は十分にあると思いますわ。……排他な村社会、とでも言うべきでしょうか……。」
「あっなるほど〜」
(嫌な言葉……わたしの世界にも嫌という程あったね。国や地域の広い範囲から市町村レベル……。村や島なんてその極み……漫画や映画ではよく題材になるけど、実在するかはしらない。)
すると、少し先を歩くセレナさんが前を向いたまま言う。
「マリアさんの言う通りなんです。元々、昔はギルドの支部もなかった地域だったんですけど……ライズヴェル城下町からこんなに遠いのに支部がないのは不便ですし、なによりギルドを介さない密猟やら違法行為が横行する恐れがあるのでしばらくしてからギルド支部ができたんです。でも、その頃にはもうとっくに特定の人達社会……コミュニティが出来てたので、ギルドは邪魔者扱い。派遣された職員の人たちも嫌になってすぐ辞めます。そんなことが続いたので今回私が行くことにしたんです。私やユイさん…なら結構な嫌がらせとか邪魔者扱いされても平気そうですし。」
「生卵ぶつけられたり家に馬糞かけられたり自分にだけもの高く売りつれられたりするかもしれませんよ?????」
「え、ユイさんってそんな地域からライズヴェルに来たんですか?」
「適当に言いました」
その後しばらく誰も喋らなくなる。え、これわたしが悪いの??
(ちょっと不安だな……えげつないくらいの陰湿な老人しかいないような終わってる村社会だったらどうしよ……)
「あっそうだ」
黙ってしばらく歩いて、気まづくなってきたからわざとらしく声を上げる。
「今度は何よ?」
「これから向かう村にも冒険者の人っているんですよね? どんな人なんですか?」
セレナさんにきくと、また振り返らずに答える。
「あー……いますけど、実質居ないようなものです。結構な歳の人で、ほとんど依頼とかも受けてませんし。でもそれだと危険なので……たまーーーにライズヴェル方面の冒険者が村の人達にバレない程度に付近の調査したり、危ないモンスターが居ないか確認してますよ。バレるとまたうるさいんです。何もしないで守ってもらってる癖に。」
(なんかイライラしてる……)
大丈夫かなこれ? めっちゃ不安になってきた……。
「あ、もしかしてあそこでしょうか……何件か家が建っていますわ。」
マリアが指を指した方向をみると、確かに家がある。でも、とてもとても村なんて言えない。
「そうですね、あそこが目的地です。」