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闇と闇は惹かれ合うもの

「では、私はこれで失礼します。」


 討伐の報告が終わった途端、エルザはすぐに帰ってしまった。次に会った時こそわたしの虜にしてやるからな………待っていろ!


「では、今日はわたくしも失礼致します。ユイ様が呼んでくださればわたくしはいつでも駆けつけるので、好きなだけ頼ってくださいまし!」


「うん……ばいばい」


 マリアは元気に手を振って外に出ていった。


「では私もここまでですね。そろそろ交代の時間です。明日からは閉鎖になったギルドの子達も来るので、少し楽になりますよ〜」


(そっか、アリスも来るんだよね。)


「ではしつれいしまーす。」


「あ、はい」


(みんないなくなっちゃった………)


 寂しい。懐が。お金ないんだってば!どうすんのこれ?寝るところもないし食べるものもない。借金しかない。おいおい……。


「………疲れた」


 なんか色々あってそんな気すら忘れてたけど、すごい疲れた。すごい戦闘能力があっても、こういう所は普通なんだ。


(少し座ろ……)


 冒険者の人達で少し混んでいる店内。夜だし、みんな色んなものを食べている。いい匂いがする中、適当に空いている席に座る。何を頼む訳でもないし、人を待つ訳でもないけど、ぼーっと当たりを見ながら座る。


「どーしよ……」


 チートじみた力があれば異世界でなんてどうにかなると思ってた。でも、いくら異世界って言ったって当然、法律や規則があって世界が動いてるんだから、その力だけじゃあどうにもならん。犯罪者にはなりたくないし。


「そこの席………座ってもいいかしら………」


「あ、どうぞ………?」


 わたしが座っていたのは2人用の席。たしかに向かい側空いてるけど、他にも空いてる席あるのにどうしてわたしの所に………なんて思いつつ、声をかけてきた人の方に視線をあげる。


(……………おお)


 声をかけてきたのはなかなか素敵な女の人。真っ黒な………いや違う。漆黒のドレスに身を包んでいて、そのドレスから伸びる華奢な四肢は色白でドレスの色もあいまってよく目立つ。袖も短く、ドレスのスカートも膝上くらいまでの長さだから手足の綺麗さがさらに際立つ。

 髪や目の色も黒……ではなく漆黒。とにかく黒色が目立つ女の人。うっすらと笑みを浮かべるその表情もなかなか不思議な雰囲気がある。


「それじゃ座らせてもらおうかしらね……ふふ……」


(……!?うそ、マジで?)


 よく見たらてにめちゃくちゃたくさんの料理を持っている。大きいトレイの上にはお皿が3枚。1つ目のお皿には分厚くて表面積も大きい肉のステーキと、こちらもかなり大きいとうもろこしが丸々ふたつ乗っている。2つ目のお皿は何かの魚の切り身(焼いてあるやつ)が大量の乗っていて、その脇には何かのフライがいくつかある。最後のお皿にはバカでかいハンバーガーみたいなものが2つ。これ全部食べるの?


「…………あら、どうかしたのかしら。そんなにワタシのことをジロジロとみて………なにかおかしい?」


「………ツッコミ待ち?」


「ワタシは真面目よ。」


 たしかに、表情を見ると、少し笑ってはいるけどふざけているようにはみえない。


「その料理………全部一人でたべるんですか?」


「………その喋り方………気に入らないわ。あなたが多くの人に振る舞う姿勢を、ぜひワタシにも見せて欲しいものね…………ふふ…………。」


「よーし、わかった!じゃあまず名前教えてよ。質問はその後で。ちなみにわたしはユイだよ。」


「ワタシはカレンよ……好きに呼んでちょうだい」


「うん。よろしくねカレン。」


 なんて話してる間に、カレンをどんどん料理を食べている。特別速いペースでもないんだけど、その手がとまることなく動き続けてるのがすごい。


「で、質問。それ全部食べるの?」


「ええ、もちろん………。でも本当はまだ全然足りないの…………ワタシが完璧なワタシになる始まりを迎えるには遠く及ばない………ふふ……」


「うーん」


(関わっちゃダメなタイプだったかぁ)


「ねえ……ユイ………あなたは素敵ね………」


「………」


(これは……)


「あなたのそのしなやかな手足……ガラスのような綺麗な瞳……素直な髪………その一つ一つ、どれも全て愛おしく見えるわ………ワタシの望むワタシに、あなたは少しだけ近いかもしれないわ…………ああ、羨ましい…………」


「そ、そう………」


(怖い怖い怖いって!何この人!?目やばいし!)


 料理を食べながらも、顔はずっとこちらを向けている。綺麗な顔だけど、目がすごい。黒い瞳は深くて、吸い込まれそう。一体どんなことを考えているか全く読めないし、わたしに向けてる感情がなんなのかもわからない。声のトーンの感じだと、本当に羨ましいって感じだけど………。


「……そんなに食べてるのにすごい体細いけど……何かしてるの?」


「してないわよ………いいえ、してないというと嘘になるわ。ワタシはしてないけど、でもしているのよ。でもそれは求める結果に対してワタシが望むものとは剥離しているの…………」

 

「はぁ?」


(ダメだなこの人………こんな人に好かれても困るし適当に切り上げないと……)


 もう手遅れかもしれないけど、これ以上仲良くしちゃうと好かれちゃうかもしれない。それは避けたい。


「………ふう。」

 

「えっ!?」


 いつの間にか、カレンの目の前にあったお皿は全部空っぽになっていた。はやすぎる……!


「ねえ……あなたは冒険者?」


「さっきなったばっかりだよ。ランク無し。」


「あら……………そうなの。不思議ね。あなたからはワタシと同じ、闇の波動を感じたのだけれど……気のせいかしら。」


「………………さあどうだろうね」


「知ってるかしら……先天性である魔法のうち、光の魔法が使える人はその身と心に光を持っているのよ。その光が強いほど、強力な魔法になるの………。つまり、その対極に存在する闇の魔法を使える人は………その心に深い闇があるのよ。その闇が深く大きいほど……………」


(つまり………わたしの心は深い闇?)


 蟷螂龍を一撃で倒したし、多分そう。もちろんこの人が嘘言ってるかもしれないけど。


「不思議ね………今であったばかりなのに、ワタシはもうあなたに惹かれているわ………ユイのことをもって知りたい。あなたをもっと知って、あなたから感じる不思議な力の真髄に少しでも近づきたい………ダメかしら。」


「………あ、そうだ。別にいいけど、その代わりお金貸してよ。」


「………それは不可能よ。」


「だよね〜」


 カレンは大きいグラスに入った飲み物を飲みながら、冷たく言った。


「わたしさ〜お金もないし帰るところもないんだよねー。おもしろくない?」


「………そうね、とてもおもしろいわ………哀れね。」


 大きい声で笑いはしないものの、カレンは小さい声で、確かに笑っている。ウケたウケた。


「どーすればいいと思う????」


「…………冒険者なら、登録証があるでしょう?」


「ん、これ?」


 そういえばさっき渡されてた。あまりにもしれっと渡されたから全然意識してなかった。よく見てみると、わたしの名前とランク、それからよく分からないコードみたいなのが書いてある。保険証的な?


「それがあれば現金がなくても住まいの契約ができるのよ。月単位で決まった金額を、依頼の報酬から引かれる………つまり、毎月一定額以上の報酬を稼がないと追い出されるわ………ふふ、今のあなたにピッタリだわ。」


「いいね………」

 

 うん、確かにいい。いいんだけどさ………それ契約したらわたしの取り分めちゃくちゃ少なくない?色々引かれる。まあ仕方ない。


「教えてくれてありがと!早速行ってくる!」


「……あなたは明日もここに来るかしら?」


「ん、依頼受けるし来るよ。」


「それなら良かったわ………ワタシも明日の朝にここに来る予定だから、そしたら………一緒に依頼に行きましょうか。いいでしょう?」


「う、うん………じゃあね…………」


 断るのも逆に怖いから、適当に承諾してまたカウンターに向かう。さっきとは違う受け付けの人に話したら、すぐに住める場所の紹介をしてくれた。リストのなかから、まあまあ安い場所を選んですぐに契約できた。しかもギルドから近い。優良物件!



(疲れたから今日はすぐ寝よ……)


 言われた場所に向かいながら、これからのことを考えてみる。


 なんか流される感もありつつここまで来たけど、わたしは一体この世界でどう生きるの?もちろんまずはお金を返済することだけど、その後は?めちゃくちゃ強い力もあって、超絶美少女………これに関してはマジで素晴らしい。神。でも、その先には何があるんだろう。借金返済して、お金稼いで…………それで?


「いや、違う………」


(まずはお金を返すことだけ考えよう……)


 そして、これからわたしの家になる場所に着いた。小さい小屋みたいな感じで、中は割と綺麗。トイレとお風呂別だからいい物件だよ。家具もあるし!


「それじゃあ………寝よう」


 考えるのもまたあした!

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