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嫌悪の沼地

 それから次の日。朝起きて、ご飯食べて、またあのやたらと早い馬車に乗って移動が始まる。移動中にセレナさんがなんか色々ライズヴェルのことについて教えてくれたけど、思ってたより難しい話ですぐ寝ちゃったみたい。気がついたらもう夕方で、もうすぐ近くの村につくとか。


「一応もう1回言いますけど、ライズヴェルのおける富裕層なんて全体の3%くらいしかいませんし、それこそこういう田舎の村に住んでると稼ぐ手段も都会に比べると少ないので色々大変なんですよ。だから余計に田舎に人がいなくなるんです。」


「へぇ…」


 起きたわたしの方を見て、残念そうに説明してくれるセレナさん。きっと、わたしが聞いてなかっただけで色々言ってくれてたんだろうね。


「冒険者は危険となり合わせなので結構儲かります。でも、冒険者をやってる富裕層は居ないんじゃないでしょうか……やっぱり、本当のお金持ちは命かけてお金とか稼がないんですかね。……あとこれは本当に単なる噂ですけど、オーリン教のフィリアという方は実はとんでもないお金持ちで、でも信者や教会関係者にはそれを隠しているんだとか……」


「…………」


(……オーリン教ってきらわれてる?)


 そんなことを話してるうちに、馬車は止まっていた。降りるとそこは昨日よりさらに田舎。……でも、恐らく辺境はもっと田舎なんだろなぁ。


「さて、今日泊まるところもあるので着いてきてください」


「はーい」


 お金の話とかオーリン教の話はもう終わってて、セレナさんの道案内が始まる。


 ――――――――――――――――――――


 結局、同じことの繰り返し……村で何か面白いことが起きるわけでもなく、かと言ってトラブルがある訳でもなく移動と宿泊を繰り返す。そして、やっと五日目。予定なら今日の夕方くらいには着くはず。


 もう慣れてきた馬車に乗って、いよいよな感じの田舎の村を出発する。


「そういえば、向こうに着いたら馬車どうなるんですか?」


 今更ながらにふと疑問に思う。すると、セレナさんはそれこそ『今更?』と言った感じに答える。


「手綱が勝手に動くんですから心配いりません。勝手に帰りますよ。馬自身の危機回避能力もあるので変な心配は必要ないです。」


「なんか変なの……」


(やっぱりちょっと馬が可哀想な気がしなくもないけどね…)


 馬車が進むにつれてどんどん振動が激しくなる。セレナさんが言うには、こんな場所は本当に誰も通らないから道もガタガタで、馬が走れるだけマシなんだって。それに、運が悪かったらモンスターがいてもおかしくないとか。


 そんな話をしていると、馬車を引く馬が珍しく嘶いて、急に止まった。


「うわっ!?」


「珍しいです……まさか」


 妙に落ち着いてる、だけど少し急いでセレナさんは外を覗いている。


「どうかしました?」


「森の中の沼地のような場所……恐らく、この先進行方向にモンスターがいるんだと思います。この子……馬車を引いてる馬はモンスターの気配に敏感なので、こういう時は直ぐに止まるんです」


「なるほど……じゃあ退くまで待ちます? 依頼受けてないのに勝手に倒したりしたらまずいですよね?」


「あ、いや平気ですよ。この移動はギルドの指示なので、その道中に現れた脅威は取り除くことが推奨されます。 どうですか? ユイさんに自信があるなら行ってみますか?歩いても行ける距離にいますよ。」


 問いかけてきてはいるけど、セレナさんの顔は『やれますよね?』っていう感じに見える。そんなの、答えは決まってる。


「行きましょう! ちょうどいい武器もありますし!」

 

 腰に付けた鞘に収まる剣を軽く触る。セレナさんもそれを待っていたと言わんばかりに、馬車の外に向かいながら言う。


「それではついてきてください!」


 ――――――――――――


 そういえば前に、マリアとライズヴェルに向かう時もそんなことがあったななんて思いつつ、馬車を降りて歩く。セレナさんか言うには……そこまで危険なモンスターという訳でもないけど、こっちもちゃんと準備が出来ているわけじゃないから油断しないように……との事。まあ、わたしなら平気だけど。


「ところで、なんて名前のモンスターですかね?」


 そのモンスターのいる方に向かって少しぬかるんだ地面を歩く。歩きにくくて、自然とセレナさんの腕を掴んじゃう。逆に、こんな場所でも簡単に歩くセレナさんは流石慣れてる。


「……ああ、ヌマチ()()()()ですかね〜。あ、ご存知ですか? すごい大きくて……」


「い、いや……知りません………全くもって知らないけど……見たくない。聞きたくない。知りたくない! やだ!! 帰ろ!! モンスターが勝手に退くまで馬車で大人しく待と!!! 帰りたい!!!」


 セレナさんの腕を強く引っ張るけど、思いのほか体幹が強いのか全然こっちに来てくれない。


「ちょ、ユイさん……どうしたんですか?」


「やだー!!!!」


 そんなわたしの願いと叫びも虚しく、そいつは目の前にいた。ぬかるんだ地面に潜ってたのか、いきなり出てきた。もう手遅れ。見ちゃった。


「あ!!!! むり!!!!!」


「ユイさん…! 大きい音はダメですって……! バレちゃいますから……」


「むぅ……あ……」


 口を塞がれた。でも、嫌なものは嫌! やだ!!


 目の前に現れたモンスターは、もう本当に名前の通り。ぬかるんだ地面の上にいる、でっっっかいウミウシのような生き物。土を被っていてもうっすらと見える毒々しい色の斑点。ぬちょぬちょと脈動する全身。どこが口だか目だかわからない生理的嫌悪感を引き起こす見た目。何もかもが無理。こんなのでっかいナメクジじゃん……!


「あれ? ユイさんこういうの苦手です? でもイカとかタコは海の中の奴らは平気ですよね、結局の所みんな同じです、軟体動物か軟体動物に近いモンスターです。そう考えれば……」


「むっり!! 水中に居ればそうでも無いけど陸にいる途端ほんとに無理!!イカとかタコは陸にいないし!! そもそも何考えてるかわかんないのもほんとに無理!! ていうかウミウシが内陸にいたらウミウシじゃないじゃん!! ヌマウシじゃん!?」


(………カレンもめちゃキモだったけど、あれは突き抜け過ぎてたし、意思の疎通が出来たから平気だったのかも。わたし自身、自分の中の線引きは謎だけど!)


 とにかく、今目の前にいるアイツはむり! 視界に入るなバケモノ!!


「逃げよーよ!!!」


「……できるならそうしますけど、ユイさんが大騒ぎしたせいで完全に敵認定されましたよ。……ヌマチウミウシは敵認定した人間は執拗に追いかけます。あんな感じですけど、時速は60k()m()を超えるんです」


(久しぶりにきいた! なぜか統一される単位!!)


 ……ていうかそれって車くらい早くない? キモ


「ユイさん! 背中を見せてはいけません……それは敵意の証明になるんです。その、まあ……気持ちは理解しますけど、どうかまずは相手を凝視するように………。ヌマチウミウシはあの体で相手を押し潰して、全身の至る所にある口のような器官で獲物を体内に取り込むんです。」


「やーだー!!! キモ!!!」


「だったら直ぐに倒してくださいよ! ユイさん強いんですよね!? ならソフィアの作ってくれた剣ではやく!」


 セレナさんは視線はヌマチウミウシから外さず、聞いたことないような大声でわたしに言う。もうこうなったら大きな音立てても問題ないと認識してる?


「む、無理です……近づけない……触りたくない……せ、セレナさんが何とかしてよ!! 元ダイヤモンドランク冒険者の力でお願いします!!」


「武器もないし魔法も最近全く使ってないのですぐにどうにかなんて出来ませんよ……。」


「やだやだやだやだ!!!!」


「ユイさんって意外とわがままで子供っぽいところありますね………ちょっと可愛いです」


「えっえっなんて?」


 気の所為?今なんか………


「大地に(あまね)くエレメント……聖なる祈りに答えてくださいまし…。大地断裂衝撃法!」


(だれ?)


 いつの間にか、どこから現れたのか、わたし達とヌマチウミウシの人がいて、地面からすごい勢いで衝撃波を繰り出す魔法でヌマチウミウシを吹き飛ばした………本当に、あの巨体が冗談みたいにどこかに吹き飛んだ……ってあれ?


「全てのモノはわたくしの前にひれ伏す運命でしてよ……」


(あれ、やっぱり…?)


「ユイ様! お怪我はありませんこと!?」


(???)


 こっちを振り返ったその少女。赤白フリルのついたその服、手に持つ綺麗な傘、ゆるふわ金髪……そしてわたしに向けるその熱視線……マリアじゃん。


「えっと……魔法の名前のセンスはわたしの勝ちでしょ」


「……ユイ様の真似をしてみたのですが……やはり、オリジナルにはかないませんわね。」


(……わたしが魔法使うところ、ほとんど見たことないでしょ……じゃなくて)


「なんでマリアがここに?」


「あれ、マリアさん……ライズヴェルにいたはずでしたよね?」


 セレナさん、すごいよね。冒険者のこと全部覚えてるのかな?






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