おでかけ
「………」
「どうかしましたか?」
不思議な手綱で動く馬車に乗って、しばらく黙ってるとセレナさんから話しかけてきた。まあ、言いたいことはひとつあるけど。
「めっちゃ早くないですかこれ?」
チラッと馬車の外を見ると車なんかよりよっぽど早い勢いで景色がうつり変わってる。
「あの手綱使うと普通よりかなり早くなるんです。それでも5日程度かかるのでかなり遠いんですよ〜。」
ニコニコして嬉しそうに言ってるけど、そうじゃなくて……。
「いくら手綱とか馬車がすごくても……馬は平気なんですか? こんなに早く走る馬、知らないんですけど。」
「それは私もそう思います。多分これヤバいですよね。馬が可哀想って言われたら言い返せないと思います。」
「えぇ……」
「なんて、冗談ですよ。ギルドが所有して飼育している馬はちょっと特別なんです。だから無理してるとか、強いてるとかそういうことは全然ないです。なんとかなんとか団体に怒られないので平気です。あと、これどうぞ。」
セレナさんは腰のポーチから丸い薬のようなものを取り出して、わたしの手のひらに乗せてくれた。
「なにこれ……?」
「それ飲んでおくと……3.4日位は水とか飲んだり何か食べたりしてもそれを体外に……つまり……まあ、こういう時に便利で……」
「あ、わかったんで平気です。それ以上は言わなくても………」
(……だとしても、それって人体に悪影響ないのかな? 腸とか胃とか腐ったりしないよね?)
「あ、心配しなくて平気ですよ。1回飲んだら次は2週間くらい開けて……つまり連続して服用しなければ全く問題のない安全なものです。……ちなみに、どうしてそんな効果が出るか知りたいですか?」
「………知らないままでいいです。」
「サクッといえば栄養価だけ吸収させてそれ以外を分解させて……」
「いや、多分理解出来ないからいいですよ……」
(……寄生虫とかじゃなければいいけど)
なんかあったよね昔そういうの、都市伝説なのかな。
一緒に渡してくれた水筒に入ってた水と一緒に薬を飲む。……まあ、これはこれでいっか。
「ところで、これから向かう辺境……村があるんですよね?」
「そうですね。一応『カディア』という村の名前はあるんですけど、最早村とも言えないくらい人口も少ないらしいですね〜。だからといって村がなくなって、ギルドの支部も成り立たなくなるとその辺のモンスターやなにやらを放置することになるのでそれもまた嫌なんです。」
(……そういえば、わたしがこの世界に来てすぐの時、ライズヴェル城下町に近いギルド支部はなくすって言ってた……逆に言えば辺境は絶対に無くしたくないのかな。………あっ)
ふと思い出した。でも、わたしのその思い出した顔をみたセレナさんはわたしの言いたいことをすぐに理解して先手を打ってくる。
「あーご安心ください。あの子……アリスが移動した先とは別ですから!」
「あ、はい」
(もう二度と会わないだろうけど……)
色んな人がいるよね、ほんとに………
――――――――――――――――
「………あ」
結構馬車で走り続けて、少し日が傾いてきた。多分寝てた。ちょっと腰痛くなる……。そろそろ着くのかな……。
(セレナさんも寝てる……)
わたしの正面に座ってたセレナさんは壁にもたれ掛かるように寝てる。そういえば、いつギルドに行ってもいたけど、ほんとにちゃんと休んでたのかなこの人……むしろ、今回わたしと一緒に辺境に行くのはそっちの方が楽だからとかなんじゃ……。
「……よくわかんない人」
ダイヤモンドランクの冒険者だってのもよく分からない……言っちゃ悪いけどとてもそんな風には見えないし……。
「んぅ……」
(あ……)
起きた……わけじゃなさそう。でも何か言いそう……変な寝言いえ……言って……お願い……。
「んぅ……ん……殺す……」
「えぇ……」
(……ほんとになんなんだこの人)
とか思ってると馬車が止まった。外をのぞくと、ちょっと小さい街が見える。今日はここまでってことかな。止まった時の振動でセレナさんも起きたみたいで、半開きの目でこちらを見て言う。
「あー……着きましたね〜? 私達が降りたら馬車は勝手に停泊する場所に行って馬もそこで休んでくれるんで平気です〜……おりますよユイ」
「あ……はい」
「? どうかしましたかユイさん?」
「いや……」
ちょっとフラフラしながら降りるセレナさんに続いて、わたしも馬車から下りる。すると直ぐに馬車はゆっくりとどこかに向かっていった。また明日の朝になったら来てくれるんだって、便利便利。
「今日泊まる所はもう決まってるので、着いてきてください!」
すっかりシャキッとしたセレナさん。ちょっと言いたいこともあるけどまあいいや、黙って着いてこ。