辺境
「ただいま」
家に帰ると、イブ………はいなかった。
(帰ったのかな……)
まあそれはどうでもいいけど、わたしがいないの1ヶ月で何があったかききたかった。セレナさんはそういう話は全くしなかったし。ルナとかどうなったんだろ。
(あ、そうだ)
多分だけど、こういう時は……
「スティア〜?」
………
「呼んだ〜?」
突然窓が開いてスティアが入ってきた。今度は髪の毛引っかかってない。
「やっぱり居た……でもちょっと気持ち悪いな……」
「うふふ〜ユイちゃんが呼んだら直ぐに来るわよ〜嬉しいもん。」
「あーはい。………わたしに何か言うことないの?
驚いてないの?」
スティアはキョトンとして、いかにも子供っぽい仕草をする。大人っぽいのに子供っぽい、相変わらず謎……。
「ん〜? 別に……ユイちゃんがこの世界に戻ってきたのは女神のわたしにはすぐにわかるし、それに………ナナミちゃんが真っ当に願いを叶えてくれるなんて思わないもん。絶対に底なしに深い落とし穴を隠しておいて、人を嘲笑う………」
「大正解だよ、スティア………。じゃあこの話はもういいとして………わたしがいない間、なんかあった?」
「そうね〜……ルナちゃんはどっかに逃げちゃったけどあれ以降どこかで何か悪いことしてるっていう話も聞かないから、今は分からないのよ〜。お姫様は滅多に表に出ないから……いつも通りかしら? イブちゃんに何かを頼んでる様子も今はないと思う〜。そのイブちゃんはもうシルバーランクの冒険者になったのよ、1人でも頑張ってるみたい。マリアちゃんはユイちゃんは絶対また帰ってくるって信じてたけど落ち込んでて、教会にいる白の人は……なんとも思ってないような感じで普段と変わらなかったわ。わたしがちゃんと確認できたのはこれくらいかしら〜。もちろん、カレンちゃんはどこにもいないわ。」
「十分……ありがと。」
(みんなの動向もこの世界も……特に変わったことは起きてないかな。リズとかソフィアさんとかはわかんないけど………。)
スティアは床に座り、大して暑くもないのにスカートをパタパタしてる。
「なに?」
「ん〜……こうすると気持ちいいのよ〜」
「良かったね……」
(ほんとに……よくわかんない。カレンとかナナミと比べると1番真っ当な気はするけど……)
真っ当な女神がこれか……って思わなくもないけど。
「あ、そうだ………前にみせてくれたさ、エルザがわたしを刺してる映像……あれは」
「わたしそろそろ帰るわね〜、お腹すいちゃった〜」
それだけ言い残し、スティアはその場から消えた。逃げんなし。
「………」
(みんなに会いに行きたいけど……明日またすぐ遠くに行くなら、やめた方がいいかな。面倒なことになりそうだし………)
特にマリアとかにバレたらわざわざ辺境まで着いてきちゃいそう。そうなったら申し訳ない。
「………どのレベルの田舎かなぁ」
(……山よりは海がいいな〜)
―――――――――――――――――――
次の日。朝起きて、武器やら何やらを準備して家の中を改めて確認する。この家にはしばらく戻ってこられないから、忘れ物しないようにね。ギルドの案件で住居移動になるからその辺のめんどい契約は心配いらないんだとか。また帰ってきたらすぐにここに住んでいいらしいよ。
「よし、いこう!」
家を出ようとドアに手をかけると、わたしがドアを引く前に開いた。
「ん…ソフィアさん?」
家の前にはソフィアさんがいて、笑顔で言う。
「セレナから聞いたわよ、遠い辺境に行くのよね……もし良かったらこれどうかしら? 私がこんなこと言っちゃうのもアレなんだけれど、ユイちゃんのその武器……やっぱり微妙だと思うのよね。」
そう言ってソフィアさんが取り出したのは、鞘に収まった剣。イブが使ってるやつよりも細長くて軽そう。
「え、でもお金なくて………」
でも、ソフィアさんはわたしにその武器を押し付けてくる。
「いいのよ、お金なんて。……私の勘だけど、ユイちゃん……きっと、みんなが知らないところで凄いことをしてくれたと思うのよね。だから、そのご褒美。魔結晶で軽め、でも威力は高めになるように作ってあるからいい武器よ。素材も一般的なもの以外にも、ほんの少しだけどレインクリスタルも混ぜてあるから魔法を使うのにもいいと思うわよ。」
「レインクリスタルって確か……」
(前にマリアと買いに行った、かなりレアな鉱石だ……そんなものまで使うとか………いいのかな)
剣を受け取り、ソフィアさんから少し距離をとって鞘から抜いてみる。刀身は細身で薄い水色。驚くくらい軽いけどギラギラと輝くそれはすごいよく切れそう。
「え、ほんとにいいんですか?」
「もちろんよ。………だから、しばらくライズヴェル城下町を離れても、私のことは忘れないで欲しいわ。ね?」
(……ああ、そっか)
この人、結構わたしのこと好き疑惑あるんだよねそういえば。そう考えると、軽いこの剣も重い愛が込められてるとか……なんてね。
「それじゃあ私はもう行くわね。またライズヴェル城下町に帰ってこられるようになったら是非私の店にも来てちょうだいね。………あと、せっかくだから今まで使ってた武器、私が預かってもいいかしら?」
「あ、いいですよ………それから、またお店も行きます、絶対!」
剣と交換する形でバットをソフィアさんに渡し、家を後にする。
――――――――――――――――――――――
想定外の贈り物を貰って、ウキウキで街の入口まで行くと、セレナさんはもう居た。何故か大きい荷物もってるし、それに……
「ちゃんも来てくれましたね。おっと……腰に付けたその武器、ちゃんと受け取ってくれたんですね! ソフィアが作った武器は100000%間違いのない業物ですから、ご安心ください。」
「びっくりしましたよいきなりで……ってかその格好……?」
セレナさん、見たことない服装。いつものギルドの服でもないし、この前1回だけ見たゆるい私服でもない。緩いどころかどちらかと言えば体にフィットするような感じの服で、外……山とか少し危ないところで歩くような感じの服装。靴も丈夫そうなの履いてるし、腰にはベルトで止めるポーチみたいなのつけてる。髪型もいつもと違う。普段は縛ってたけど、今日はそのまま下におろしてる。薄い緑の髪、結構長い………。その服装なら髪も縛ってる方がいいと思うけんだけど……。
(ていうか!!!)
普段は服装のせいで全然だったけど、思ってるよりかなり大きいじゃん、わたしがこの世界で出会った中でトップな気がする。なんか悔しい。
「ん? そんなにジロジロと……この服装ですか? ソフィアと冒険者やっていた頃によく着てたんですよ〜。今でも何時でも使えるようにちゃんと手入れしてたので、せっかくなので着てきました。」
セレナさんはやたらと嬉しそうにくるりとその場でゆっくりと回転。普段とかなり印象かわる〜!
「なんかかっこいい………それで、もう出発ですか?」
「はい、遠いですからね。基本的に朝早くから出発して、暗くなったら馬車を留め、近くに村や町があるならそこで泊まる、無ければ……まあその時はその時ですね。それを5日ほど繰り返します。」
(うーん……馬車の移動速度はよくわかんないけど、たしかに近くは無さそう……?)
「あ、質問」
「どうぞ」
「途中でトイレ行きたくなったらどうします?」
「その時もまあその時と言うことで。それじゃあそろそろ出発ですよ〜。」
「いやいや……ってあれ?」
珍しく街の入口まで馬車が来てる……のはまあいいとして、その馬車……馬を操る人が乗ってない。どういうこと?
「あ、不思議ですか? これは手綱に秘密があるんですよ。面倒なので説明しませんけど、勝手に動いて馬を操るすごい道具です。ギルドとしての所有物で、個人で買おうとしたら………買えないくらいの値が着きますよ。」
「やっぱり世の中お金か〜……んっ?」
その馬車に、どういう訳かセレナさんがまずは乗り込んだ。わたしもとりあえずはそれに続いて乗り込み、中で向かい合って座って聞く。
「なぜ?」
「あ、言うの忘れてました。私もユイさんと同じようにあっちに行って、暫くは向こうのギルドで働くんです。小さな支部なのでほぼ1人で回してたらしいんですけど、その人がどうやら病気で働けないみたいで……せっかくですのでユイさんと一緒に行ってみようかなーと」
(だからその服と大きい荷物か……)
場合によっては外?で寝泊まりすることもありそうな言い方してたから、ゆるふわコーデじゃないのね。そう考えるとわたしのいつもの服装ちょっと舐めてるな……。
なにかのじゅんばん(よく出てくるキャラのみ)
セレナ>スティア>カレン≒ユイ>イブ>エルザ>メルリア>マリア=リズ>ナナミ