ジャッジメント
(裏……)
嫌な予感しかしない。お金返せない人を裏に呼ぶとか……ねぇ?
「この部屋です、先に入って待っててください。」
「は、はい……」
通されたのはちょっと大きいテーブル1つと椅子が3つあるだけの部屋。見た感じ、奥側に椅子がひとつで手前側にふたつだから、わたしは奥に座るべきってところかな。
(…………)
20万ルピア……多分、20万円よりは価値があるはず。そこそこの金額を返せないどころか踏み倒そうとしたわたし……相手がギルドっていう公的機関だから、臓器売れとか地下で働けとか指切り落とせとか、そんなヤみたいなことは言い出さないだろうけど、だからといって安全かと言われたら分からない。異世界だし。
「ふっ……待たせたね……さあ、話を始めようか……」
(うわでた……)
入ってきたのはギルドマスター (名前忘れた)、そしてそれに続いてセレナさん。2人はわたしの向かい側の椅子に座り、特に書類とかそういうものもなく話し出す。
「まず聞かせてもらおう……君は一体どこに行っていたのか……」
「故郷に帰りたくて……まあ、色々あって失敗して帰れなくてこっちに戻ってきました……」
「ギルドマスター、そういう回りくどいのはいらないんです。どうしていつも端的に要件だけ伝えることができないんです? 代わりに私から伝えますね。理由はともあれ決まったことは確定なんです。」
「任せよう……」
(あ、ちょっとガッカリしてる……)
ギルドマスターはそのまま立ち上がり、どこかに行ってしまった。いやせめて同席はしようよ……!
「で、本題なんですけど。ご存知、ギルドとしてもユイさんがお金を用意してくれることは諦めました。返せない人にいつまでも期待しても意味ないんです。なので、そのための特例措置ですね。」
「は、はあ……」
「とは言ってもそんなにやばいこととか、危険なことを頼んだりもしません。ギルドとしては冒険者の方々の安全が第一です。ということで、早速なんですけど………明日から、行って欲しい場所があるんです。」
「と、いうと?」
するとセレナさんはどこにしまってたのか (胸の辺りにしか見えなかったけど)地図を取りだし、テーブルの上で開く。
「ここがライズヴェル城下町で……ユイさんに行ってもらうのはここからずーーーーーと南に行った場所にある辺境の村です。陸で繋がってる他の国との国境付近で、ライズヴェルのギルド本部からも遠いのでなかなかギルドの支援も届かない上に、そんな辺境に滞在する冒険者の方もほとんどいないのでそこに住んでる人達からすると割と困るわけです。付近に強いモンスターが出たりする可能性もあるので……。それ以外にも問題があったりなかったり……」
地図を見ても全然分からないけど、なんとなく遠いのだけはわかる。
「ん〜…でも、ワープできるゲートがあるから問題ない気も……」
「ゲートで行けないから辺境なんて呼ばれてるんですよ。10年20年後には開通するかも知れませんけど、今すぐは無理なんです。」
(ゲートって線路とか空港みたいなもんなのかな……)
要するに、国境に近い超ド田舎に住み込みで働けって話しね。
「わかりました……ちなみに、期間は?」
「さぁ?」
「えっ」
セレナさんは地図をしまってすっとぼける。でも、なんか本当に知らなそう。
「私もそこまでは聞かされていませんね〜。でも期間とか関係なく、そこで働けばいいんですよ。ご安心下さい、辺境にもギルドの支部はありますし、そこで稼いだお金は全額ユイさんの分になるので。要するに、辺境で冒険者として活動することで借金やらなんやらを全部帳消しです! さらに言えばそこでちゃんと活動すれば冒険者のランクもちゃんとあがりますよ。」
「なるほど……ってか明日って言いましたっけ? めっちゃ急ですね?」
「それはそういう仕組みなので……では、話はこれで終わりです。明日の朝、街の入口まで来てください。絶対に遅れないようにお願いしますね?」
圧のある笑顔で訴えるセレナさんを見ると、万が一にもそんなことはしないって思える。
「では、また明日〜」
セレナさんは先に部屋から出てしまった。聞きたいこともまだあったけど、それは明日でいいとして………
「帰ろう………」