悲劇の狂宴
ひとつのお話が長くなりすぎないようにしているのですが、どうしてもお話の区切り的に長くなってしまうので連続で2話更新にしました。この後もう1話直ぐに更新してます
(……あ……!)
目を開けると、そこは……慣れ親しんでいた、自宅のベッドの上。間違いない、ここはわたし……七海ユイの部屋! 鏡を見なくても何となくわかる、いまのわたしは普通の姿。髪の毛は黒いし。窓の外を見ると中途半端田舎のしょーもない道が目に入る。歩いてる人は全く居ない。机の上に置いてあるスマホを開くと、時刻はまだ朝早い。日付は………
「っ!」
(あの日だ……)
わたしがクソみたいな事故で死んだ、あの日。間違いない。ということは……
(ナナミは数分程度のズレがもう少し大きくなるかも、って言ってたけど……実際はこの日の朝まで戻ったんだ……それなら、今日はずっと家にいよう。)
さすがに嘘じゃなかった。また本人も言ってたからね。流石にね
(紙一重程度のズレでとか何とか言ってたような気がする……まあ、確かにその通り。)
部屋から出て一階に降りると、誰もいない。そうそう、両親は明後日まで出かけてるんだ。たしか、誰かのお葬式がどうのとか。ま、いいや。
「あっていうか元々の場合誰かのお葬式行きながらわたしが死んでたのか……最悪すぎる」
(……ま、もうそれもどうでもいいけど)
世界は変わったんだよ。あの日あの時あの場所で、七海ユイは死んでない! よし! イブ達のことはまだ少し引っかかってはいるけど、いずれは忘れちゃうのかな……いつかの未来、わたしはあっちの世界の出来事を『昔見た夢』だとかなんとか思っちゃうのかな。
「まあ今はいいか……今日は……家でゲームしよ」
ノスタルジックはまた今度!
――――――――――――――
久しぶりにゲームやったからなのか、あっという間に時間がたった気がした。途中休憩したりご飯食べたりしつつ、あっという間に夜。途中アリサにSNSでメッセージ送ったけど、まさかの無視。……まあ、よくあるんだけど!
(どうせ明日会うからいいや)
今日は週の真ん中の祝日。明日はまた学校だからアリサに会える。人生で一番学校を楽しみに思いつつ、わたしはベッドの中で眠りについた。これ、夢じゃないよね………?
―――――――――――――
次の日、久しぶりだけどいつも通りに一人で学校まで向かう。この道歩くのも、制服着るのも久しぶり。
(………?)
学校について、教室に入ると何となく違和感……いや、久しぶりだからかな?
(……あ、時間が遅いからかな……?)
いつも通りなんて思いつつ、やっぱり久しぶりだから時間の感覚が少しズレてた。同じように来たつもりだったけど、朝のホームルームギリギリ。席について少しすると、直ぐに担任の先生が入ってきた。珍しくアリサはまだ来てない。年に2回くらいしか遅刻しないアリサなのに(普通はしないだろとか言わないでね)。
「えっと……多分、知ってる人も多いと思うのだけど………」
(?)
先生の顔…悲しそう? 怒ってる? なに、どうした?
「昨日……南美さんが、南美有咲さんが………都内で…事故……に巻き込ま………亡くなっ…………」
(………は?)
気がつけば、先生は涙を流してる。なに、なに……そんな、変な冗談……ほんと不謹慎。馬鹿じゃないの? 何が面白いのそれ。ネットで炎上するし。早く訂正した方がいいよ。
(なに……クラスの人らも泣いてるし……それじゃあまるで本当のことみたいじゃん……揃いも揃って冗談のセンスもないバカしかいないじゃん……)
「車の事故に巻き込まれたそうです……運転手は無免許で、未成年で、飲酒、それに加えて………」
「それって……!?」
ついつい言葉が出てしまい、クラスのみんながこちらを向く。慌てて目をふせる。
(昨日、都内でその事故……違う、それに巻き込まれて死ぬのはアリサなんかじゃない……その事故は、そこで死ぬのは……死ぬべきなのは……!)
「その通り、そこで死ぬべきお嬢さんの運命をズラし、代わりにあの少女に死んでもらったわけですな。」
「っ!?」
ナナミの声が聞こえて、咄嗟に周りを見渡す……けど、クラスの人と先生以外誰もいない。明らかに挙動不審なわたしを見て、先生がいう。
「七海さん……辛かったら保健室にいってても……」
(先生も、わたしがアリサとめちゃくちゃ仲良かったのは知ってるもんね………それより、ナナミ……あいつ………!!!)
わたしは保健室にいくことに納得した振りをして、教室を飛び出す。どこに行けばいいだとか、何をすればいいとかそんなことは知らない。それでも、なんとかしてナナミに会わないと。
「あれほど強く願いて焦がれた世界。帰還を果たしたならそれ以上何をおのぞみなのでしょうかな。……あいや、やはり人間は愚か、欲にまみれる。生きてることこそ最大の美徳と気が付かぬままその生涯を終える。」
「ナナミ!?」
学校をとび出て、めちゃくちゃに走ってたらいつのまにか目の前にナナミが居た。周りを見ると、あの謎空間。さらに、わたしの体は……あっちの世界の時と同じになっていた。
「ご不満ですかな。」
「ふざけんな!! わかりきってるくせにとぼけて……!」
「どうどう、一旦落ち着けくださいな。そのような乱暴な言葉の使い方、お嬢さんらしくありませんぞ。まるでどこぞの勇者のようですな。」
おどけたその口調、人を馬鹿にしたような顔を見てると怒りは全く収まらない。
「人を煽ってバカにして……そんなことしか楽しみがないなんて女神ってほんとしょーもない……! 人間に生まれて良かったよ……こんな醜い存在に産まれちゃったら絶対自殺してたし。」
「嫌味もなんでもどうぞお好きに。ワタクシとてそんなことはとうの昔に百も承知。永遠を生きる身としては、お嬢さんのような人間は一人で何度も楽しめるので大変お得でございます。……しかしまあ、元々の異世界転生とやらにワタクシは関与してないのでそこはやはり謎ですな。」
「黙って!! やめてよ…! どうしてアリサを殺したの!!」
「はぁ〜…なんと人聞きの悪いこと。あの少女を殺したのはワタクシではなく、お嬢さん自身でございます。お嬢さんが元の世界に帰りたいと願わなければ、あの少女も死ぬ必要はなかった訳でして。お嬢さんのわがままを通した結果、代わりに誰か死ぬのは至極真っ当、世の運命でございます。」
「だから……だから、どうして……寄りにもよってアリサを……!」
どうにも我慢できなくて、ナナミに近づこうとするとナナミは不意に真顔になり、どこから取り出しのか仰々しい槍をわたしに向けて言う。
「うっ……」
「……それは聞き捨てなりませんな。」
わたしの胸の前で槍の先端がキラリとひかる。…本物だ。
「なにが?」
「今の言い方、それはまるで『自分か、自分に関わりのある人じゃなければ誰が死んでも構わない』ととれますな。……自分が幸せになるためなら、どこの誰だか知らない人を殺してもいいと、お嬢さんはそうお考えなわけです。」
「なに、いきなり煽ってどうしたの? それに、それ……ナナミの自己紹介でしょ? 自分以外の人間を死なせて幸せってさ。」
「ワタクシは全ての頂点に立つ神なので問題ありません。」
「……死ね」
「おや?」